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HalloweeN ✝︎ BATTLE 〜僕が夢みた150年の物語〜  作者: 善法寺雪鶴
仲間を探しに
24/77

見えない目

不思議な世界に来てしまった椰鶴(やづる)達は、幽霊に遭遇しながらも歌声の聞こえた体育館へ到着した。そこでは事の発端である篭姫(るき)が、多くの幽霊の子ども達と共に遊んでいた。


「お兄さん達、こっちへ来ていいのよ。」


 篭姫(るき)は表情を変えず微笑みながら手招いている。

 それに対し、何か罠があるのではないかと警戒している俺達は体育館の中へ入ることを躊躇っていた。


「安心して、罠なんてないから。警戒しなくて大丈夫よ。」


 こいつ⋯⋯心が読めんのか⋯⋯?


 思いを的確に当てられた俺達はさらに警戒心が強くなり、なかなか入れずにいた。

 しかし、きっかけを作ったのは鴇鮫(ときさめ)だった。


「本当に罠はなさそうだよ。」

「⋯⋯何でそう言い切れんだ。」

「軽く透視して見たんだ。見る限り罠は設置されてない。それに、篭姫ちゃんも嘘はついてないみたい。」


 こいつ、確か百目だよな。百目はここまで分かるのか⋯⋯。


「⋯⋯流石百目だな。」


 俺の言葉を聞き、鴇鮫はふわっと微笑んだ。


「お褒めいただき光栄です。」


 鴇鮫のレガロの凄さに圧倒され、このままだったら誰にでも勝てるんじゃないかと余計なことを考えていた。

 しかし、そんな余裕もなかったようだ。


「なかなかお兄さん達が来ないから心配しちゃった。」


 篭姫が笑顔のまま番傘をくるっと回すと、俺達はいつの間にか篭姫の目の前まで移動していた。


「ようこそ、私の世界へ。」

「ひ、ひぃ!!!」


 突如目の前に異性である篭姫が現れたため、ヒショウはもの凄い勢いで隣にいた椿(つばき)にしがみついた。

 しがみつかれた椿は一瞬よろけたが何とか堪えたようだ。


 俺の方に来なくてよかった。

 俺より10センチ以上背が高いと思われるヒショウにあの勢いで来られたら、絶対に耐えられない。


 それを思ったのは俺だけではなかったらしい。


「なぁ椰鶴(やづる)。ヒショウがしがみついてこなくてよかったな。」

「⋯⋯は?」


 グレイは俺の耳元で小さな声のまま続けて言った。


「あの勢いでこられたら、身長差的にお前ぶっ飛んでってただろ?」

「おい、喧嘩売ってんのか?」


 身長が低いのはコンプレックスのため、人に言われるとかなりイラッとする。

 俺がグレイの胸ぐらを掴むと、「なんで!?ごめんなさい!ごめんなさい!」とグレイが謝ってきた。


「2人とも落ち着け。」


 頭を抱えたビアは、ため息混じりに仲裁に入ってきた。


 そんな俺達の様子を眺めていた篭姫は笑った。


「お兄さん達とっても楽しそうで羨ましい。ねぇ、私とも遊びましょう?」


 その言葉に反論しようとすると、俺よりも先に椿が口を開いた。


「俺達は今元の世界への帰り道を探してるんだ。ヒショウだってこんなに震えてるし、遊ぶよりも先に帰り方を教えて欲しいんだけど。」


 名前を呼ばれたヒショウは首がもげそうなほど頷いていた。


 そんな2人の言葉を微笑ましそうに眺めながら聞いていた篭姫は、番傘をクルクルと回した。


「ふふっ。だからこそ、私と遊びましょう?」

「はぁ!?聞いてたか!?今椿が言っただろ!?俺達は遊びよりも帰り方を知りたいんだよ!」

「フランケンのお兄さん、そんなに怒らないで。もちろん話は聞いてたわ。でも、元の世界へ帰るには遊ぶしかないの。私との遊びに勝てればお兄さん達は元の世界へ帰れる。ね、だから遊びましょ?」


 話を聞く限り、帰るには遊ぶことが必要条件らしい。


 強制的にこの世界へ連れてこられ、強制的に遊ばされる⋯⋯。


 こいつ⋯⋯俺達を弄んで楽しんでんだろ。


 その事実にイライラしていると、冷静に話を聞いていたビアが口を開いた。


「篭姫。遊びって、具体的に何をすればいい?」

「吸血鬼のお兄さん理解するのがとっても早いわ!私そういうお兄さん大好き!」


 子どものような無邪気さを見せる篭姫。その無邪気さが逆に恐怖心を煽ってきた。


「お兄さん達と一緒に『かごめかごめ』をしたいの。やり方は知ってる?」

「やり方は知らないが、さっき子ども達の幽霊が遊んでいたのは見たな。」


 聞いたところによると、俺と椿以外はこの遊びを知らないらしい。

 同じ国でも街ごとに受け継がれている物が異なっているということを改めて実感した。


「吸血鬼のお兄さん達の街ではこの遊びはやらないんだね。それなら、やり方を1度見てもらった方がいいわ。」


 篭姫はまた番傘をクルッと回した。

 すると、今度は目の前に幽霊の子ども達が複数人現れた。


「みんな。お兄さん達に『かごめかごめ』のやり方を教えたいの。1度見本を見せてもらってもいい?」

「もちろんだよ!」

「篭姫ちゃんのお願いだったらなんだってするわ!」

「遊んでいいなら断る理由ないもんねっ!」


 子ども達は篭姫のお願いに笑顔で了承すると、すぐにジャンケンをした。


「あー、負けちゃったぁ。僕が鬼だね!」

「レント、頑張って!」


 仲間からレントと呼ばれた子どもは、手を繋いだ子ども達の中央でしゃがむと目を瞑った。

 そして、周りを囲んでいた子ども達は歌を歌いながら時計回りに回り始めた。


「かごめかごめ

籠の中の鳥は

いついつ出やる

夜明けの晩に

鶴と亀が滑った

後ろの正面だあれ?」


 歌い終えると同時に、子ども達の動きも止まった。

 少しの間静寂が訪れると、中央に座っていたレントが言った。


「マリンちゃん!」


 そう言い、立ち上がると同時に後ろを振り返った。


「残念だったね!僕だよ!」

「あー、(べに)くんだったのかー⋯⋯。」

「マリンは隣だよっ!」

「惜しかったね、レントくん。」


 楽しそうに話をしている子ども達を眺めていると、篭姫が笑った。


「レント、本当に惜しかったわ。でも、次はきっと当たると思うから頑張って。」

「うん!次は頑張る!」

「それじゃあ、みんなありがとう。お兄さん達もやり方が分かったと思うから、戻っていいわ。」


 子ども達は「はーい!」と元気に返事をすると消えていった。


「やり方は分かった?」

「あぁ。」

「歌は覚えられてねーけどな!」


 ビアの言葉に頷くヒショウと鴇鮫に対して、自信満々に歌が覚えられなかったことを宣言するグレイ。


 歌って言ってもあんなに短いのに覚えられなかったのかよ⋯⋯。


 そんなグレイに対して篭姫は微笑んだ。


「フランケンのお兄さん、歌が分からなくても大丈夫。歌はきっと天狗のお兄さんと雪男のお兄さんが知ってるはずだから。」


 そう言いこちらに目をやる篭姫。


 まぁ、知ってるけど⋯⋯。


 歌うことに乗り気じゃない俺は椿を見た。

 椿は苦笑いをしていた。

 きっと椿も歌いたくないんだろう。


 そんな様子の俺達をよそに、篭姫は話を進め始めた。


「それじゃあ、やり方も分かったことだし、早速始めましょう。」

 

 篭姫は持っている番傘を閉じると床に置いた。


「私が中央に座って、後ろにいる人を当てるわ。お兄さん達は、足音を立てないようにしたり歩くリズムを変えたりして私に当てられないように頑張ってね。お兄さん達が最後の1人になったら私の勝ち。私が間違えたらその時点でお兄さん達の勝ち。元の世界へ帰れるわ。」


 一通り説明を終えた篭姫はその場にしゃがんだ。


「お兄さん達の好きなタイミングで初めていいわ。私は目を瞑って待ってるから。」


 篭姫は目を瞑り下を向くと顔を手で覆った。


 負けるわけにはいかない俺達は、場所をそれぞれ移動し手を繋いだ。


 確率的に篭姫が俺達の中から1人を当てるのは難しいだろう。

 きっとすぐに勝って、元の世界へ帰れるはずだ。


 俺達は意を決して歌を歌い始めた。


「かごめかごめ

籠の中の鳥は

いついつ出やる

夜明けの晩に

鶴と亀が滑った

後ろの正面だあれ?」


 篭姫の後ろに立ったのはヒショウだ。

 丁度俺の正面にいるヒショウは緊張しているように見える。


 篭姫は少しの間の後、元気よく声を上げた。


「透明人間のお兄さん!」

「えっ!?」


 篭姫が1/6の確率を当ててきたことに衝撃を受け、俺達は顔を見合わせた。

 ヒショウは驚きのあまり声を上げた。


 篭姫は立ち上がると後ろを振り返り笑った。


「うふふっ。1回戦は私の勝ちね。」


 その瞬間だった。

 ボンッという音と共に、ヒショウのいる場所から勢いよく煙が上がった。


「ヒショウ!」


 煙が少しずつ落ち着いてくると、そこには子どもの姿をしたヒショウが立っていた。


「⋯⋯どういうことだ?」


 状況を呑み込めない俺が呟くと、グレイが声を荒らげた。


「おい!お前!ヒショウに何をした!!」

「何って、私が勝ったんですもの。私の好きにしていいでしょう?」

「好きにしてって⋯⋯何でヒショウは子どもになってんだ!!」


 怒鳴るグレイに対し、篭姫は微笑んでいる。


「私が勝ったときは、私のお友達として子どもになってもらうことにしてるわ。そして、私と一緒にこの世界で暮らすの。ほら、ヒショウ。おいで。」


 名前を呼ばれたヒショウは、篭姫のところへ走っていった。


「篭姫お姉ちゃん!」

「ヒショウ、どうしたの?」

「僕、もっと遊びたい!」

「そうね。それじゃあ、お兄さん達と遊び終わったらみんなで沢山遊びましょう。だから少し待ってて?」

「うん!分かった!」


 見たこともない笑顔で頷いたヒショウはどこかへ消えていった。

 女性が苦手なはずのヒショウ。

 幼少期は特にそんな事はなかったのか、それとも篭姫のレガロのせいなのか⋯⋯。


「篭姫。ヒショウをどこへやった。」


 そう聞くビアは一見冷静だが、言葉の節々から怒りを感じた。


「大丈夫。ヒショウは子ども達の所へ行っただけだから。」

「子ども達って⋯⋯幽霊の子ども達のことか?」

「そうよ。」


 ビアは聞いたことも無い声の低さで静かに言った。


「ヒショウを返せ。」


 そんなビアに対して、篭姫は明るい声で言った。


「心配しなくていいわ。お兄さん達が勝てばヒショウも返してあげるから。だから、早く続きをやりましょう。」


 篭姫はしゃがみ目を瞑り準備を始めた。


 残りは4回。ヒショウを救うためにもどこかで必ず勝たなければならない。


 しかし、俺達は篭姫の選択に勝利を委ねるしかない。

 少しでも篭姫に抗おうと、それぞれの立ち位置をもう一度入れ替えることにした。


 手を繋ぎお互いに目を合わせ覚悟を決めると、歌を歌った。

 歌と比べ、歩くペースを先ほどよりも少し遅くした。


 歌い終えた時、篭姫の後ろに立ったのはビアだった。


 隣で篭姫の背中をじっと見つめているビアの目は、篭姫に対する怒りからか凄く冷たい目をしていた。

 普段冷静かつ穏やかなビアにあんな目で見られたら、その場から動けなくなってしまうだろう。


 俺はビアから目を逸らし篭姫を見た。

 篭姫はいつ口を開くのだろうか。


 緊張からか、俺の心臓が今までにないほど早く動いていた。


 篭姫は、今回1/5を当てなければならない。

 外せ⋯⋯そう心から願っていた時だった。


「吸血鬼のお兄さん!」


 篭姫の口から出た名前は、ビアを指していた。


 俺は篭姫が連続で当ててきたことと、また1人いなくなってしまうことへの恐怖から声が出なかった。


 ビアの方を見ると、ビアは表情1つ変えずゆっくりと目を閉じた。


 ヒショウの時と同様に大きな音がしたと思うと煙が巻き起こった。


「ビア!!!」


 グレイと椿が叫ぶと同時にビアの姿が見えてきた。


 そこには容姿端麗で人形のように真っ白な肌の男の子が立っていた。

 きっとこれがビアの子どもの姿なんだろう。


「ビア、こっちへおいで。」


 姿勢を正して立っているビアに、篭姫が優しく声をかけるとビアはゆっくりと近づいていった。


「ビアはいい子ね。」

「いえ、そんな事ありませんよ。」

「ふふっ。そんなに畏まらなくていいのに。」

「篭姫お姉様に失礼な事はできませんから。」

「本当に偉い子ね。流石だわ。」


 篭姫は自分より少し小さいビアに目線を合わせるようにかがんだ。


「ビア。ヒショウ達と一緒に少しだけ待っててもらえる?」

「はい、もちろんです。」

「ありがとう。」


 篭姫がビアの頭に手を置くと、ビアは消えてしまった。


 頼りにしていたビアが消えてしまい、俺達は何も言えずにいた。


 そんな俺達のことは気にせず、篭姫は


「さぁ、3回戦目を始めましょう。」


 笑顔で3回戦目の開始を告げるとすぐにしゃがんだ。


 残り3回。タイムリミットが近づくにつれ、俺達の表情は曇って行った。


 勝ちたい気持ちは山々だが、正直勝てる気がしない。

 しかしみんなを救う為にも、元の世界へ帰る為にも勝利を諦めるわけにはいかない。

 俺は、篭姫が外してくれることを祈りながら歌を歌った。


 歌がとても悲しく聞こえてくる。

 人数が少なくなってきたこともあるが、それぞれの気持ちが歌に現れているからでもあるのだろう。


 そして、3回戦目に篭姫の後ろに立ったのは椿だった。


 椿はグレイと鴇鮫の手を離すと、胸の前で右手を握りしめて目を閉じた。


 そして、今回はすぐに篭姫が口を開いた。


「雪男のお兄さん!」


 名前を呼ばれた途端、椿は目を開け悔しそうに唇を噛んだ。


「ごめん、みんな。」


 椿が力ない声で呟くと、音が鳴り響き煙が巻き上がった。


「椿は小さい時とても可愛かったのね。」


 微笑む篭姫の目の前には、幼い姿の可愛らしい少年が立っていた。


 牡丹(ぼたん)にそっくりだな。


 幼い頃の椿は、女の子に見間違えてしまう程可愛いかった。


「椿、ヒショウとビアと一緒にみんなが来るの待っててもらえる?」

「うん、いいよ。」

「ありがとう。」

「ねぇ、篭姫さん。」

「なぁに?」


 椿は俺達の方をよそよそしそうにチラッと見た。


「お兄さん達来てくれるかな?」

「もちろんよ。」

「そっか!よかった!」


 椿は安心したように笑うとどこかへ消えて行った。



 『2度あることは3度ある。』



 こんなことわざがあるが、まさにその通りのことが目の前で起きている。

 偶然にしては出来すぎてはいないだろうか。

 1/6の確率を当てるだけならまだしも、1/5、1/4の確率を見事的中させてきた。


 そんな中、俺は次々と消えていく仲間を見送ることしかできなかった。

 それがもどかしく感じた。


 あぁ、神様。どうか俺達を助けてください。


 このゲームをクリアする為の宛が何もない今の俺は、神に縋ることしかできなかった。

 祈った所で神の街から誰か助っ人が飛んで来る訳では無いのだが⋯⋯。


 ⋯⋯いや、本当に俺はみんなを見送ることしかできないのだろうか。

 このまま篭姫に言い当てられていくだけで終わってしまうのだろうか。

 何か打開策はないのだろうか。


 必死に思考を巡らせている時だった。


 目の前の篭姫の口元が一瞬だが、ニコッと不敵な笑みを浮かべたように見えた。


 俺は確信した。


 やはり、このゲームには裏がある。


 それを確信しても、篭姫が裏で何かを操っているという証拠がない。そもそも操っているのかどうかさえも怪しい。


 だが、証拠を掴めなければ、勝利も掴めない。


 俺は、この世界へ来てから篭姫が行っていたことを思い出し始めた。


 そういえば、篭姫は幽霊達を呼び出す際や俺達を引き寄せる際に必ず番傘をクルッと回していた。

 あの番傘を使うことで能力を解放していると考えると、番傘を閉じている今、能力を使っているとは思えない。


 となると、俺達には見えていないだけで篭姫の背中には目があるんじゃ⋯⋯。


 でも、それを確認するにはどうしたらいい?

 実際見たところで目なんて無かったら、逆に篭姫から疑われたりしてゲームが悪い方向へ向かう可能性がある。


 確信がつかない今、余計な事はできない。


 しかし、時間もない。


 俺は椿のいた場所を眺めながら、必死に思考を巡らせた。

 どうすることが正解なのだろうか。


 何も思い付かず焦りが出てきた時だった。


「ちょっといいかな?」


 鴇鮫が微笑みながら篭姫に声をかけた。

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