わらべうた
ミオラ達3人はいつの間にか見知らぬ森に来ており、堕亡との死闘を繰り広げようとしていた。一方グレイ達は、人気のない学校の校庭へ来ていた。
あーもう!!マジで何なんだよ!突然鬼が出てくると思ったら今度は異世界に飛ばされるし!!しかもここ学校じゃねーか!!学校休んでいる間も勉強しろってことか!?
訳の分からぬまま事が運んだため、まだ理解が追いついていなかった。
まず頭の整理をすることから始めた方が良さそうだ。
えーっと⋯⋯何か3人組の鬼が現れて、遊ぼうとか言われて異世界に飛んできたんだよな。まずそこから訳分かんねー。最近流行りの異世界漫画かよ!!遂に俺も漫画の主人公に転生か!?
いやいやいや⋯⋯冗談は置いといて⋯⋯
そんで、移動した場所が学校で、一緒にいるのがビア・ヒショウ・椿・鴇鮫・椰鶴の5人。和倉がいないから、男と女で別れて飛ばされたという訳でもなさそうだな。
で、この学校はどこの学校だ?人の気配が全くしねー。
1人で推理していると、ビア達も似たような疑問を抱いたらしい。
いつの間にか話し合いを始めていた。
「ここは⋯⋯学校か?」
「⋯⋯だろうな。」
ビアと椰鶴は周りを警戒しながら、今の俺たちの置かれた状況を把握しようとしているようだ。
それに対して残りの3人はというと⋯⋯
「学校かぁ!初めて来たなぁ。」
「初めての学校が異世界っていうのも、なんか不思議。」
「そうだね。⋯⋯この学校には誰もいないのかな?」
「今の所何の気配も感じないよね!」
危機感の無さそうな雰囲気で会話をしている。
⋯⋯あぁ、そっか。ミオラ達がいないから普段のヒショウなのか。最近は女性恐怖症発揮してたから一瞬誰かと思ったわ。
ヒショウを見て1人で頷いていると、突然動きを止めたビアが遠くを眺めていることに気がついた。
「ビア、どうしたんだ?」
「ん?あぁ⋯⋯どこからか歌が聞こえてくると思って⋯⋯。」
「歌?」
俺達は耳を澄ませることにした。
⋯⋯⋯⋯うーん⋯⋯。
「いや、何にも聞こえねーぞ?」
「風の音しか分からないな〜。」
「ビアは耳がいいから聞こえるのかも。」
「その可能性は充分に高いね。」
「ビア、どんな歌が聞こえんだ?」
「⋯⋯そうだな。」
ビアはもう一度声が聞こえるであろう方向を見た。
「複数人の幼い子どもの歌声だな。」
ビアの言葉を聞いて突然寒気がした。
「いやいやいや⋯⋯冗談だろ?さっき誰の気配も感じないって話してたじゃねーか⋯⋯。」
「⋯⋯子どもの気配どころか誰かがいる気配なんて全くないよ?ねぇ、鴇鮫⋯⋯?」
「うん⋯⋯。何も感じないな。」
「みんなの言う通り気配はないが、声は聞こえるんだ。」
えー⋯⋯幽霊とか最悪すぎるだろ⋯⋯。いや、俺達も化け物だけどよ、何か違うよな⋯⋯幽霊って死んでるわけだし⋯⋯。
ビアだけに聞こえている子ども達の歌声の存在に、俺達は言葉数が減ってしまった。
自分の中の恐怖と戦っているからか、誰もが口を閉ざしている。
このままここにいるか?でも、この世界から脱出するには探索しねーとどうにもならねーしなぁ⋯⋯。
「行くぞ。」
「おぉい!!突然喋んなよ!!」
「ひぃ!びびびビックリした!!」
この状況で突然口を開いたのは椰鶴だった。
「このままここにいても拉致があかねぇ。行くぞ。」
「行くってどこにだよ⋯⋯。」
「決まってんだろ。」
椰鶴は学校の方を見た。
「学校の中だ。」
俺達は椰鶴とビアを先頭に校舎を見回り始めた。
「うう〜⋯⋯何か出てきそう⋯⋯。」
「やめろよ⋯⋯本当に出てきたらどうすんだ⋯⋯。」
ヒショウと俺は、幽霊に出くわしたくない同盟を学校に入る直前に組み、他の4人に探索の際は中央を歩きたい旨を伝えた。
年齢がさほど変わらない鴇鮫に「2人とも可愛いね。」と言われたのが気に食わないが仕方がない。
怖いもんは怖いんだ。
「おい、後ろいるよな?」
「ちゃんと着いて行ってるから大丈夫。」
「俺達だって見ず知らずのところで迷子になりたくないからね。」
後ろを振り返るのが怖くて椿と鴇鮫が着いてきているか不安になってしまう。
ちゃんと後ろにいるなら安心だ。
「椿!ぜ、絶対離れないでね!!」
それに素早く反応したのは椿ではなく⋯⋯
「そういうお前はもう少し離れろ。」
険しい表情をした椰鶴だった。
「無理無理無理!!離れたら呪われる!」
「うぜぇ。」
和倉に対する程ではないものの、嫌そうな顔をしている。
そんな事もお構い無しに、ヒショウは目の前の椰鶴にくっついていた。
「あんた、俺より年上だろ。」
「年上って言ったってたった1つでしょ!?1つなんて年上に入らないと思いますぅ!!」
「たった1つでも年上だろ。」
「ねぇ!!冷たいこと言わないでよ〜!」
言われてみれば、ヒショウは確かに年上だ。俺より2つ上だったか?
まぁ、俺自身も2年後に怖がりじゃなくなってるかって言われたらそれは不可能な気がするから、ヒショウの気持ちもわからなくはない。
怖い時は年上も年下も関係ないよな。こういう時ってぶっちゃけ藁にもすがる勢いだし。
ヒショウと椰鶴の様子を見て微笑ましい空気が漂い始めたが、それも長くは続かなかった。
「っ⋯⋯。止まれ。」
「うぉ!?」
ビアの一言で、先頭の2人が突然歩みを止めた。
「痛っ!!何!?どうしたの!?」
「馬鹿黙れ。」
ヒショウに至っては、椰鶴の背中にピッタリとくっついていたため背中に頭を思いっきりぶつけた。
ビアと椰鶴は道の先を見つめ続けている。
「⋯⋯なんかあったのか?」
ビアに小声で問いかけると、ビアもかなり小さな声で目線をそらさずに言った。
「⋯⋯何かいる。」
「⋯⋯⋯⋯は?嘘だろ?」
その言葉を聞いていたヒショウは震えが止まらなくなっていた。
「やだやだやだ⋯⋯俺もう前向けない⋯⋯。」
「ヒショウ、大丈夫?」
「無理⋯⋯椿、もっと近くに来て⋯⋯。」
「分かった。」
後ろから心配して声をかけた椿は、ヒショウの希望通りにヒショウの傍へ寄り添うと腰に手を回してあげていた。
何かいるって⋯⋯何がいるんだよ⋯⋯。
俺は様々な恐怖から、ビアの背中を見つめることしか出来なかった。
その先に目線をやることは絶対に不可能だ。
冷や汗をかきながら数秒立ち止まっていると、後ろから鴇鮫が静かに言った。
「やっと消えたね。」
「消えたって⋯⋯何が?」
「子どもの幽霊だよ。」
俺は一瞬で背筋が凍った。
「こ、子どもって⋯⋯誰もいない話はどうなったんだよ⋯⋯。」
「ビアが聞いた子どもの歌声と今目の前に現れたもの。それらを踏まえたら、今まで気配がなかったのは嘘じゃないけど、子どもの幽霊がこの学校にいる事実は間違いなさそうだね。」
最悪だ。今まで幽霊なんてものは信じてなかったし、信じたくもなかったけど、実際に目の前に現れちゃあ否定できない。
「あー⋯⋯かえ「やだー!もう帰りたい!!」
俺の言葉を遮って叫んだのはヒショウだった。
「甘えんな。」
「でも!!幽霊がいるって分かってるのに先になんて進めないよ!!」
冷たく言い放った椰鶴は舌打ちをすると、半泣きで震えるヒショウの両肩を掴んだ。
「今すぐここを去りたいのはお前だけじゃねー。俺だって同じ気持ちだ。早く帰るためには進むしかねーんだよ。」
俯いたまま震えが止まらないヒショウを見た椰鶴は、俯くヒショウの顔を覗き込んだ。
「大丈夫。俺の後ろをついてこい。」
「⋯⋯え?」
「な。行けんだろ?」
刺々しくも優しさが溢れる言葉にヒショウは静かに頷いた。
それを見た椰鶴はヒショウの頭に手を乗せ髪をクシャッと撫でた。
「行くぞ。」
表情1つ変えない椰鶴は何事も無かったかのように歩き始めた。
俺達は顔を見合わせ笑うと、椰鶴の後ろを追いかけた。
俺達は校内を散策し続けていた。
時間だけが過ぎていき、元の世界へ戻る手がかりすら掴めずにいた。
「本当にここから出られんのか?」
「この世界へ来る前、篭姫が遊ぼうって言ってたからな。篭姫に出会えれば何かしらの手がかりが掴めるだろう。」
ビアの言葉で、鬼の女が遊ぼうと言っていたことを思い出した。
なるほど。あいつを探し出せばいいんだな。
にしても出会え無さすぎじゃないか?
俺達の中に疲れが見え始めたその瞬間だった。
「待て。」
ビアが歩みを止めた。
「な、何?また何かいるの⋯⋯?」
不安そうにしているヒショウにビアが言った。
「歌が聞こえる。」
「⋯⋯え?」
「歌って⋯⋯さっき言ってたやつか!?」
「あぁ。」
俺達はビアに言われるがまま耳を澄ませた。
すると⋯⋯
「〜〜〜♪」
先程は聞こえてこなかった子ども達の歌声が、微かに聞こえてきた。
「本当だ。綺麗な歌が聞こえるね。」
「体育館の方から聞こえてくる。」
「そっちはまだ見てねーな。」
「あぁ。早く行こう。」
俺達はその歌に引き寄せられるように声の聞こえる場所⋯⋯『体育館』へと向かって行った。
体育館に近づくにつれ、その歌が何の歌なのかハッキリと分かった。
「か〜ごめ、かごめ〜、か〜ごのな〜かのと〜りぃは〜⋯⋯」
「⋯⋯わらべうた。」
椿がそう呟く。
「わらべうたって何だ?」
「子どもが遊びながら歌い継ぐ歌のこと。これは『かごめかごめ』。」
椿が言うには、この歌が聞こえるということは、体育館では子ども達が『かごめかごめ』という遊びをしているのではないかということだった。
「今からこの幽霊達の所へ行かなきゃなんねーんだよな⋯⋯。」
「篭姫ちゃんがここにいる可能性が高いからね。」
幽霊達が遊んでるところなんて見たくもないが、この世界から抜け出す手がかりを見つけるためには中へ入るしかなさそうだ。
俺達は意を決して体育館の扉を開いた。
その瞬間、今まで聞こえていた楽しそうな歌声が止まり、俺達に気が付きこちらを振り向いた幽霊の子ども達は焦ったように姿を消した。
それと同時に、幽霊達の中央にいた篭姫が姿を現した。
篭姫はこちらを振り向くとニコッと微笑んだ。
「ようこそ。私の世界へ。」