一緒に遊ぼう?
「俺に続いて進め〜!!」
「オーガ」の商店街で軽く食事を摂った俺達は、すぐに「オーガ」を出ると「ロージ」へ向けて歩みを進めた。
街を出てすぐ、そこには森が広がっていた。
この森をどちらに抜けるかによって、「ロージ」に辿り着くか「ルナール」に辿り着くかが変わるようだ。
楽しそうに先頭を歩き天狗の街「ロージ」へ案内してくれている和倉の隣で、「ロージ」に住んでいる椰鶴は鬱陶しそうな表情を浮かべ続けていた。
椰鶴は何度も手を振り払おうとするが、和倉の力が強いようで全く振りほどけずにいた。
手を振り払うことに力を注ぎすぎたのか、後ろ姿が疲れているように見えた。
「仲が良くて羨ましいですね。」
「幼馴染ってあんな感じなんだな。」
「幼馴染同士、俺達も手繋ぐ?」
「いや⋯⋯いい。」
「遠慮しなくていいのに。」
「そうですよ、お兄様。今なら繋ぎ放題です。」
「⋯⋯え?俺限定?」
こちらも幼馴染であり兄妹である鴇鮫、椿、牡丹。
牡丹は微笑ましそうに鴇鮫と椿を一歩後ろから見守っており、鴇鮫は椿の横でニコニコと手を差し伸べていた。
例え幼馴染と言えど、鴇鮫が簡単に女の子に手を出さないということが真実なのは分かった。
ただ、椿一択にしなくても⋯⋯。
椿は鴇鮫相手となるときっぱり断ることが出来なくなるらしい。
手は繋ぎたくないが鴇鮫の差し出された手と牡丹の微笑みを無下には出来ないという気持ちが葛藤しているのが見て取れた。
「幼馴染って凄いわね。ビア、貴方にも幼馴染や友達のように気兼ねなく関われるような方がいたりするの?」
「いや⋯⋯早い段階でファニアス様に引き取られてからは国王をお守りするべく剣術や魔法術を学んできた。独学と城にいた教育係に指導して貰ってたからな。同年代の友達がいないんだ。」
「そう。貴方もそうなのね。」
「⋯⋯ミオラもなのか?」
「えぇ。私は生まれも育ちもクイーン家。生まれた瞬間から姫として扱われてきたわ。とても丁重にね。外界は危険が伴うからと、両親は私を敷地の外に出そうとしなかったわ。だからこそ、家の中には教育係もお世話係も⋯⋯それぞれの分野に長けた方が共に住んでいた。有難いことにそんな優秀な方々を雇える程裕福に過ごすことができる家計に私は生まれた。でもそれが災いしたのね。全て家の中で済ませられてしまう状態が保たれてしまったから。同年代の友達なんて⋯⋯出来た試しがないもの。」
仲睦まじい様子を眺めるミオラの姿が、なぜだかほんの少し悲しそうに見えた。
「王族は裕福で、何でも好きに買って好きに過ごせて羨ましいなんてよく言われるけれど、私にとってはああやって心から信頼出来る友達や幼馴染のいる人の方が羨ましいと思うわ。自分に無いものを持つ物に嫉妬し求めてしまう⋯⋯異なる境遇の者でもやる事考える事の根本は同じね。」
「あぁ。そうだな。」
ミオラの意見は最もであり共感できると思った。
生きているうちに全てを手に入れる事は出来ないからこそ、自分が持てなかった物を簡単に得る事が出来ている相手を羨ましく感じてしまう。それは誰でも同じ⋯⋯なんだな。
すると、この話を聞いていたらしい吉歌とヒショウが俺達の背中に飛び込んできた。
「ミオラ〜!ミオラは吉歌のお友達じゃなかったにゃ〜?」
「ビア!ビアと俺は友達同士かと思ってたんだけど、違ったの⋯⋯?」
困り眉で悲しそうな表情を浮かべる2人に、俺とミオラは視線が交わると吹き出してしまった。
「ふふふっ。そうね。私達にはこんなに近くにもう友達がいたのに、そんな大切な人を忘れちゃいけないわね。」
「そうにゃ!吉歌にとってミオラはただの知り合いなんかじゃないにゃ!年齢は違っても大切なお友達にゃ〜!」
「ヒショウが友達だって思ってくれてたなんて、凄く有難い話だ。俺なんかが友達でいいのか?」
「もちろんだよ!俺も友達なんていなかったし⋯⋯初めは仲間って思ってたけど、ビアと過ごす時間を経るうちに仲間以上に大切な友達だって思ってたよ!」
俺達は再度目が合うと声を揃えて言った。
「「ありがとう。」」
丁度その時だった。
シャン⋯⋯シャン⋯⋯シャン⋯⋯
どこからか鈴の音が聞こえてきた。
「鈴の音⋯⋯だな。」
「森の中だから反響しててどこで鳴ってるのか分からないにゃ。」
「で⋯⋯でもさ⋯⋯。」
ヒショウが震えながら後ろを振り返った。
「音⋯⋯近づいてきてない?」
全員がヒショウの見る先を振り返った瞬間だった。
ザアーーーー⋯⋯
「きゃあ!何!?」
「何だ!?突風か!?」
鈴の音が聞こえてきた方角から勢いよく風が吹き抜けてきた。
グレイの言う通り突風だろうか。風は一瞬で止んでしまった。
「なんだったんだ、今の⋯⋯。」
畳み掛ける不気味な出来事に驚きを隠せない俺達に、さらなる恐怖が襲いかかってきた。
チリーン⋯⋯チリーン⋯⋯
「今度は何だよ⋯⋯。」
「これは〜⋯⋯風鈴だ!!!」
「立て続けに何事なんでしょうか。」
俺達は何が起きてもいいように肩を寄せ合い周りを警戒した。
何も起きないままどれくらい経っただろうか。
風鈴の音だけが俺達の周りに響き渡っている。
「もしかしてにゃけど、このまま何も起こらないにゃ?」
吉歌が不思議そうに首を傾げたと同時に、俺達の目の前には鬼が3人現れた。
「うぉっ!またかよ!!」
「にゃ!?」
3人の鬼は俺達の様子を見て笑っていた。
「ねぇねぇ、お兄さん達どこに行くの?」
肩くらいの長さの髪を結った澄んだ瞳の小さな少年の鬼。周りには蝶が舞っている。
「せっかく「オーガ」へ来たのに、もう帰っちゃうの?」
白く長い髪に派手な華柄の和服を身にまとった赤い目の少女の鬼。少女は番傘をクルクルと回している。
そして⋯⋯
「帰る前に僕達と一緒に遊ぼうよ!」
「私達楽しいことが大好きなの。」
楽しそうに話を続ける少年と少女の鬼の一歩後ろでこちらを⋯⋯いや、和倉を見つめ続けている一際目を引く男の鬼。
一言も話さない上に表情を一切変えないため不気味だ。
「悪いが、俺達は急いでいるから君達と遊ぶことは出来ない。」
俺の言葉を聞いた少年と少女の鬼は悲しそうな顔をした。
「え〜!なんで〜?」
「私達はお兄さん達と遊びたいのに⋯⋯。」
「いいじゃ〜ん!!遊ぼうよ〜!」
「少しだけだからいいでしょ?」
「いや、本当に急いでるんだ。ごめんな。もし機会があればまたその時に。」
俺達は先へ進もうと一歩踏み出した。
しかし⋯⋯
「やだやだ!一緒に遊ぶの!」
「遊んでくれなきゃ嫌!」
「「一緒に遊ぼう?」」
2人が声を揃えて言った途端、体が一切動かなくなった。
「っ!?体が動かねー!」
「私達に何をしたの?」
そんな俺達の様子を全く気にせずに少年と少女の鬼はどんどん話を進めている。
「僕の名前は堕亡!僕はお姉さん達と遊びたいな!」
「私の名前は篭姫。私はお兄さん達と遊びたいな。」
「「ねぇ、一緒に遊ぼう?」」
先程と同様2人が声を揃えて言った。しかし、先程とは異なり2人の目がキラっと光り、目の前が真っ白になった。
「くっ⋯⋯。」
突然の眩しさに俺は目を瞑った。
数秒後、ゆっくりと目を開けてみると⋯⋯
「⋯⋯え?」
先程までいた森の中ではなく、目の前には見ず知らずの風景が広がっており⋯⋯
「ヒショウ、ふらついてるけど大丈夫か?」
「う、うん。なんとか⋯⋯。」
「牡丹?どこ?」
「ミオラちゃんと吉歌ちゃんもいないね。」
「⋯⋯⋯⋯和倉⋯⋯。」
ミオラ、吉歌、牡丹、和倉がいなくなっていた。