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HalloweeN ✝︎ BATTLE 〜僕が夢みた150年の物語〜  作者: 善法寺雪鶴
仲間を探しに
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全てを知る怖さ

鴇鮫(ときさめ)は3人と別れホールの扉を出ると足早にスタッフルームへと戻り、零れ続けていた涙を拭った。


 あの子達⋯⋯一切嘘をついていなかった⋯⋯。


 俺はスピルウィルという仕事でレジェンドと呼ばれている。それはお客様からの支持があるからだが、支持率を保ち続けられるのも、百目としての力で大体のお客様の気持ちがわかってしまうからだろう。

 もちろん力を使ってまで支持率を上げたい訳じゃない。そんな卑怯な手を使ってまでNo.1になりたいとは思わない。


 しかし、嫌でも他人の気持ちが分かってしまうのだ。


 何でも⋯⋯見えてしまうのだ一一



 俺は産まれた時から普通の百目の子どもよりも強大な力を持っていた。

 周りの人の心の声まで全て見透かせてしまうため、本音がすぐに分かってしまうのだ。


 俺に嘘は通用しない。


 幼少期、その力の怖さを知った。

 知ってしまったその事実は、俺の心を蝕んで行った。


 外に出れば話し声とともに聞こえる矛盾した心の声。

 偽りの関係を築いて生きている者が大半だと気づいてから、頭痛や吐き気が止まらなくなった。


 全てを分かってしまうことが怖かった。

 心が見えてしまうことが怖かった。


 自分の力に怯え震える俺を見た両親は、優しく包み込んでくれた。

 両親の愛情に嘘偽りは無かった。

 嘘偽りで固められた世界で唯一の心の在処だった。


 それから俺は、少しでも力を抑えて普通の生活を送ることができるよう様々な対策をした。


 手袋を着け掌の目を隠した。髪を伸ばし、チョーカーを着け首元の目を隠した。特殊な生地で作ってもらった服を着ることで、背中にある目を隠した。


 できるだけ目を隠すことで、力を抑えることが出来た。

 普通の生活に近づくことが出来た。


 しかし、力を全て抑え込むことは出来なかった。

 『それ』が強すぎたから。


 俺はその強すぎる力と共に生きている。

 だから、抑え込めなかった力が作用し、お客様の心が少しだけだが分かってしまうのだ。



 そして、今一一


 他の街のガーディアンと牡丹(ぼたん)ちゃんが店にやってきた。

 3人からは、全く嘘をついていない声を聞くことが出来たのだ。


 この店で働き始めてこんなことを体験したのは初めてだった。

 人生では2度目⋯⋯両親以来だった。


 久しぶりの感覚に自然と零れた涙に、3人は驚いているようだった。

 俺は、涙を抑えるために準備をするという体でスタッフルームへ戻ってきた。


「はぁ⋯⋯椿(つばき)達が待ってるみたいだし、早く戻らなきゃな⋯⋯。」


 気持ちが落ち着いてきたため、俺はホストクラブの経営者であり代表の杏珠(あんず)さんに経緯を話しに行った。


 トントントン


鴇鮫(ときさめ)です。入ってもよろしいでしょうか?」

「どうぞ。」

「失礼します。」


 俺が中へ入ると、杏珠さんが笑顔で迎え入れてくれた。


 何て説明したら理解してもらえるだろうか。突然の事だから止められるだろうか。

 そう心配している俺とは反対に、杏珠さんは俺が話を切り出すのを待ちながらも、全てを悟っているかのような表情をしていた。

 そして一一


「突然すみません。実は⋯⋯。」

「大丈夫。分かってるよ。」


 俺が言葉を濁した瞬間、杏珠さんがニコッと微笑みながら言った。


「ガーディアンの子達が来たということは、この国関連の事だ。ファニアス様の命令でこの街のガーディアンである君にも招集がかかった⋯⋯そんな所だろう。」

「⋯⋯ご名答です。」

「俺にもそれくらいなら分かるさ。大丈夫だよ。行ってきな。」


 簡単に許可をくれたことに驚いていると、杏珠さんが続けた言った。


「この店のことは気にするな。他にもたくさんスピルウィル達がいる。No.1の君ばかりに頼っていたら店は回らないからね。他のスピルウィルのいい経験にもなる。それに、心配はいらないよ。」


 杏珠さんは俺の横へ来ると、俺の肩へ手を置き言った。


「君の居場所は無くならない。俺達にとって大切な仲間である君の居場所やNo.1の座は俺達が守り続けておくよ。だから、安心して行っておいで。無事に帰ってくることを祈ってる。」


 従業員のことなら何でもお見通しと言うかのように、俺の聞きたいことを全て答えてくれた。


 俺は杏珠さんのその言葉に安堵した。


「すみません⋯⋯いつも助けてもらってばかりで。」


 俺の言葉を聞いた杏珠さんは笑いながら言った。


「そんなことないさ。俺だって君に助けてもらってるからな。これくらい当たり前のことだよ。」


 俺は杏珠さんの前に立つと、姿勢を正した。


「杏珠さん。この街のガーディアンとして、国を守るために出かけてきます。」

「行ってらっしゃい!」


 杏珠さんのこの声は、牡丹ちゃん達と同様嘘偽りない声だった。


「お土産は戦った時の話でいいからね〜!」


 ⋯⋯これは嘘だ。この人お土産期待してる。

 流石杏珠さんと言ったところだろうか。食べ物に目がない。


 俺はいつもと変わらない杏珠さんの様子に笑いを堪えながら言った。


「分かりました。お土産でお菓子買ってきますから。楽しみに待っててくださいね。それでは行ってきます。」


 俺がお辞儀をして扉を出る瞬間、「流石鴇鮫。バレちゃった。」という杏珠さんの声が聞こえてきた。

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