寒さに負けず
数分後。襖が開き椿と牡丹が部屋から出てきた。
気の所為だと思うが、数分前の2人と今の2人は良い意味で少し変わったように見えた。
「待たせてごめん。」
「いや、全く問題ない。挨拶は済んだのか?」
それを聞いた2人はふふっと笑った。
「あぁ。ちゃんと挨拶できたよ。」
「これで心置き無く、皆さんと共に戦いに行けます。」
そう言うと2人はミオラの前に立った。
突然2人が目の前に来たため、ミオラは不思議そうにしていた。
「ミオラさん。先程は取り乱してしまってすみませんでした。お兄様の言う通りミオラさんは何も悪くないです。久しぶりにお父様とお母様を思い出したので涙が溢れてしまいました。でも、もう大丈夫です。ご迷惑をおかけしました。」
「そんな、牡丹ちゃん謝らないで。私こそごめんなさい。空気の読めない発言をしてしまって。失礼なことをしたわ⋯⋯。」
俯くミオラを見た牡丹は不安そうな表情で椿の方を見た。椿は牡丹に大丈夫だと声をかけると背中を押した。
牡丹はミオラの手をとり笑顔で言った。
「ミオラさん!私達はもう仲間です!隠し事はなしですから!だから⋯⋯お互いもう謝るのはやめませんか?」
突然の出来事にミオラは驚いていたが、牡丹の笑顔と優しい言葉にミオラからも自然と笑みが零れてきた。
「⋯⋯そうね、もう止めましょう。仲間ですものね。」
「はい!」
壁に寄りかかりながら2人の様子を伺っていたグレイは「ほら、大丈夫だって言っただろ?」と言うと微笑ましそうに2人を見ていた。
「それでは、挨拶も済みましたしそろそろ出かけましょう。」
「次の街に行ってガーディアン探さないといけないだろうし、ゆっくりしてられないもんね。」
準備も終わり出発する気満々の2人に対し、出かける気のない奴らがいた。
「いや、待て待て待て待て!またあの寒い中に行くのか!?」
「また動けなくなりそう⋯⋯。」
「嫌にゃ!まだコタツにいるにゃ!アイラブコタツにゃ!!!」
確かにこの3人の言うことも否定はできない。
何も対策してない中また外に出るとなると、次の街に行くまでに力尽きてしまいそうだ。
俺達の様子を見ていた椿と牡丹は何かを話し合っていた。
「お兄様。仲間になったんですし、アレを使ってもいいんじゃないですか?」
「そうだね。「ネーヴェ」で死者は出したくないからね。」
「アレって何だ?」
「あぁ⋯⋯まぁ説明するよりやった方が早いと思う。」
そう言うと、椿は俺達に指示を出し始めた。
「今から外に出たいと思えるようにしてあげるから、とりあえずまずは全員大人しくビアにくっついて。」
その指示に素早く反応したのはグレイだ。
「いや、俺そういう趣味は⋯⋯」
「なに?文句あるなら助けるのは辞める。」
「はい!すみません!椿様の仰せのままにー!!」
椿の威圧に負けたグレイは俺の腕にしがみついてきた。その様子を見ていた3人も苦笑いをしながら俺の周りにくっついてきた。
「皆さん、ありがとうございます。ビアさんもお辛いかもしれませんがその状態で少しお待ちください。それでは今から一瞬寒くなりますが、我慢してくださいね。」
椿と牡丹は俺達から少し離れたところに立つと、お互いの手を繋いだ。そして、それぞれ手を繋いでいない方の腕を俺達の方に伸ばすと声を揃えて言った。
「天より降りし雪の神よ。この者達に力を。凍結心冬!!」
2人が叫んだ途端、外の寒さとは比べ物にならないくらいの寒さが俺達の体を襲った。
「うにゃぁああああ!!!!!!」
「うおーー!!!」
「寒い!!!」
「きゃぁああ!!」
「一一っ!!」
しかしそれはほんの一瞬の出来事で⋯⋯
「あああああ⋯⋯あれ?寒くないにゃ。」
「⋯⋯マジだ。」
「で、でも、寒かったよね?」
「えぇ、寒かったわ。死ぬかと思ったわ。」
「⋯⋯なんだったんだ?」
そんな俺達の様子を見ていた2人は笑いながら言った。
「ふふっ。外に出ればすぐに効果が体現できますよ。」
「寒さ対策は出来たんだ。さっさと出かけるぞ。」
俺達は言われるがままに2人に連れられ外へ出た。
「おー!!すっげー!!寒くねー!!」
「凄いにゃぁ〜!」
「蛇達も喜んでるわ。」
外へ出ると、この街へ来た時の寒さが嘘だったかのように外がとても暖かく感じた。
「これってさっきのレガロの効果?」
ヒショウは興味津々といった様子で椿に詰め寄っていた。
「そうだね。あのレガロは体感温度を変えられるレガロ。俺達はこの街のガーディアンだから、この街に来た旅行者達の助けになればと思ってこのレガロをあみだしたんだ。」
「人助けできるレガロがあるなんて凄いね!」
「別にそんな凄くないよ。」
ヒショウにベタ褒めされた椿は少し照れているようだ。
「ところで、次の街ですがもう行先は決まっているのでしょうか?」
「いや、まだ決まってないな。」
「それでしたら、「オープス」はどうでしょう?先程見せて頂いたリストの中だと1番行きやすい街だと思いますよ。」
「そうか。なら「オープス」に行くことにしよう。」
それを聞いていた椿が嫌そうな顔をした。
「やっぱり次は「オープス」か⋯⋯俺、パス。」
「お兄様、それはできません。ファニアス様からの命令ですから。」
「いや⋯⋯でも⋯⋯。」
「それなら、私達女性陣で中に入りますから、お兄様はビアさん達と外でお待ちになっていたらどうですか?」
「⋯⋯分かった。」
牡丹から説得された椿は、嫌々ながらも牡丹の提案を受け入れていた。
「あぁっと⋯⋯「オープス」に案内してもらってもいいか?」
「はい!もちろんです!ね、お兄様!」
「⋯⋯あぁ。」
楽しそうに話す牡丹に負けたのか、椿は渋々案内を始めた。
次の街では一体何が待ち受けているのだろうか。