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HalloweeN ✝︎ BATTLE 〜僕が夢みた150年の物語〜  作者: 善法寺雪鶴
仲間を探しに
11/77

決意の朝


 カンカンカンカン!!!!


「みっんな〜!朝だにゃ〜!起きるにゃ〜!」


 現在時刻は朝5時。

 部屋の外からは何かを思いっきり叩いている音と 吉歌(きっか)の元気な声が聞こえてくる。


 部屋の外に出ると、そこには笑顔の吉歌がいた。


「吸血鬼さん!おはようだにゃ!」

「あぁ。おはよう。早起きだな。」

「もちろんにゃ!看板娘の朝は早いにゃよ!でも、それ以上に今日は特別な日だからいつもより早く起きちゃったにゃ!」

「特別な日?」


 吉歌はふふっと笑うと口の前に人差し指を立てた。


「今は秘密にゃ!」


 そういうと、ヒショウ達の部屋の方へフライパンを叩きながら走って行った。


「あら、早いのね。」


 振り返るとそこにはミオラがいた。


「あまり寝てないからな。」

「あぁ、貴方吸血鬼だから睡眠時間短くても平気なのね。羨ましいわ。」


 ミオラは髪と同じ赤紫色の蛇を撫でながら近づいてくる。


「そういえば、ミオラはかなり早く寝ていたみたいだな。」


 ミオラの寝室は右隣だった。

 階段を挟んで左隣のヒショウ達の部屋からは夜遅くまで楽しそうな声が聞こえてきたが、ミオラの部屋からは部屋に戻って1時間もすると何も音が聞こえなくなっていた。


「私はメデューサだから、見ての通り蛇がいるでしょう。この蛇達の分も休まないといけないから、寝られる時はできるだけ早く寝るようにしてるのよ。」

「メデューサも大変なんだな。」

「そうね。でも、産まれてから死ぬまでこの子達と一緒にいるから早く寝るのも当たり前だし苦じゃないわ。」


 ミオラとたわいも無い話をしていると、グレイとヒショウの部屋の扉が勢いよく開きグレイが飛び出してきた。


「なんだなんだなんだなんだ!!!!!」

「あ!おはようにゃ!朝にゃよ!朝ごはんできてるから食べにくるにゃ!」

「なーんだよーー!!!驚かせんじゃねーよ!火事か事件だと思っただろ!?」

「普通に声掛けても起きないと思ったにゃ!特に君達2人!」

「いや!起きるから!な!ヒショウ!」

「う、うん⋯⋯起きられる⋯⋯。」

「そうだったのかにゃ!それはごめんにゃ!」


 3人が部屋の前でたむろしているところを眺めていると⋯⋯


「あの3人⋯⋯仲がいいわね。吉歌ちゃんが仲間になったらきっと、旅が楽しくなるわね。」


 ミオラがそう呟いた。

 確かにその通りだと思った。吉歌が仲間になるだけでチームの雰囲気が一段と明るくなりそうだ。

 俺は昨日の吉歌の様子を思い出しながら、朝ごはんを食べるためにリビングルームへ向かう準備を始めた。



 俺達4人がリビングルームへ集まると、リビングルームのテーブルには、既に豪勢な朝ごはんが並んでいた。


「すっげー!ホテルみてーだ!」

「朝からこんなにあるのは初めてかも⋯⋯。」

「食欲をそそってくる香りね⋯⋯とても美味しそうだわ。」


 3人の言う通り、朝ごはんとは到底思えないレベルのメニューだった。俺の家の朝ごはんは、トースト・スクランブルエッグ・サラダ・ソーセージ・フルーツが出てくる。

 しかし、今目の前に並んでいるのはサラダやドリンク類はもちろんのこと、ハンバーグやステーキといった肉系が5種類・魚の蒸し焼き・小吃だけでなく、メインもパスタやブリオッシュ・おにぎりが数種類ずつ揃っていた。


「おー!皆来たか!ここにあるもの全て君たち専用だから、好きなだけ食べていいからな!デザートもあるから楽しみにしておいてくれよ!」


 店員さんの言葉に、俺達は驚きが隠せなかった。

 俺達のために朝早くからこんなにたくさんの料理を作ってくれたと思うと、感謝が込み上げてくる。


「こんなに沢山ありがとうございます。」

「いいんだよ!また旅に出るんだ。力をつけないとな!」


 そう言い店員さんは厨房へ戻って行った。

 それと同時に、厨房からはお茶を載せたトレンチを持った吉歌がやってきた。


「みんな、おはようにゃ!吉歌もみんなと朝ごはん食べたいんにゃけど、いいかにゃ?」

「もちろんだろ!一緒に食べようぜ!」

「私も賛成よ。⋯⋯ヒショウはどうかしら?」

「う、うん⋯⋯大丈夫。」


 3人の言葉を聞いた吉歌は目を輝かせた。


「ありがとにゃ!ご一緒させてもらうにゃ!!」


 嬉しそうにしている吉歌に対し、顔を強張らせているヒショウに声をかけた。


「無理はするなよ。」

「⋯⋯ありがとう、ビア。」

 

 弱々しくはあるものの、笑顔を見せながら何とか返事をしてくれたヒショウに少し安堵した。




 俺達5人は昨日の夜の各自の部屋での出来事やこれからどうするのかを話し合いながら朝ごはんを食べ進めていた。

 そして今、食べ始めて丁度30分が経った時、朝ごはんを食べ始めてから一度も喋らなかった吉歌が口を開いた。


「みんなに大切なお話があるにゃ。」


 吉歌の眼差しは、真剣そのもので⋯⋯

 その場にいた俺を含めた4人は一瞬で動きを止めた。


 大切な話一一

 その内容は何となくだが察しがついた。

 そして、吉歌の重い表情に俺達は不安を抱きながらも吉歌の言葉を待った。


「昨日誘ってくれた戦いのことにゃけど⋯⋯」


 誰かがゴクリと唾を飲む音が響いた。


「吉歌も行くことにしたにゃ。だから、吉歌を仲間に入れて欲しいにゃ。お願いしますにゃ。」


 そう言うと、吉歌は深々と頭を下げた。


「⋯⋯いいのか?」


 昨日の吉歌の様子が忘れられなかった俺は、その選択が本意なのか不安だったため聞き返した。

 すると、顔を上げた吉歌の目は輝いており、覚悟を決めたことが一瞬で伝わってきた。

 そして⋯⋯


「もちろんにゃ!!」


 笑顔と元気な声で返してくれた。


「実は昨日の夜、お父さんとお話をしたにゃ。お父さんは吉歌の気持ちを全部言い当ててきたにゃ。それだけじゃないにゃ。お父さんは、家族全員が吉歌を応援してくれていること、街のみんなが吉歌のガーディアンを受け入れてくれてること、みんな吉歌の味方だってことを教えてくれたにゃ。だから、吉歌はみんながついているから怖くないって⋯⋯そう思えたにゃ。」


 昨日の出来事を話す吉歌は、昨日最後に会った吉歌よりも何倍も頼もしく見えた。


「だから、ここまで迎えにきてくれたミオラや吸血鬼さん達のために、ハロウィンのために、そして家族のために⋯⋯吉歌はこの街のガーディアンとして戦うんだって決めたにゃ。」


 吉歌は椅子から立ち上がると、俺達4人の方を向きもう一度頭を下げた。


「吉歌を仲間に入れてくださいにゃ!お願いしますにゃ!」


 そんな吉歌を前に、俺達4人は顔を見合わせると笑顔で言った。


「もちろんだろ。」

「当たり前でしょう。」

「⋯⋯よろしくね。」

「頑張ろうぜ!!」


 俺達4人の返事を聞いた吉歌は勢いよく顔を上げると、満面の笑みで言った。


「ありがとにゃ!!!」


 吉歌はピョンピョン飛び跳ねた後、俺たちの皿を見て「ちょっと待っててにゃ!そろそろデザート持ってくるにゃ!」と言うと凄い勢いで厨房へ入って行った。

 すると、今度は先ほどと反対に店員さんが厨房から出てきた。

 店員さんは俺達の前に来ると頭を下げた。


「娘のわがままに付き合ってくださりありがとうございました。」

「娘⋯⋯ということは、お父様だったんですね。」

「ご挨拶が遅れてしまい申し訳ございません。吉歌の父でありここの店主をやっております、花明(かめい)乙昌(おとまさ)です。」


 そういいもう一度頭を下げると、続けて話を始めた。


「皆さん。昨日の様子を見ていてなんとなく察しがついているとは思いますが、吉歌はかなりの心配性です。心配し始めると自信を失ったり、落ち込んだり⋯⋯負の連鎖が続くこともあります。今後皆さんに迷惑をかけることが少なからずでてくると思います。ですが⋯⋯」


 俺達は、吉歌のお父さんの言葉を静かに聞いていた。

 お父さんは一呼吸置くと、俺達一人一人の目を見て言った。


「気がつかないうちに人の役に立てるような子でもあります。娘だから贔屓目で見ているんじゃないかと言われたら否定はできません。しかし、俺達家族は自信を持って断言できます。吉歌は最後まで諦めずに戦い抜くことができる強い子です。どうか吉歌をよろしくお願いします。」


 お父さんの吉歌に対する強い思いがひしひしと伝わってきた。

 そして⋯⋯


「当たり前だろ!俺達はもう仲間だ!仲間の家族が言うことはもちろん信じるし、嘘じゃないってあんたの顔を見れば分かる。大丈夫だ。あいつは強いし頼れるやつだよ!」


 立ち上がってお父さんにそう言うグレイの顔はやっぱり頼もしかった。

 4人の中では一番年下のグレイの言葉を聞き、俺達は笑みを浮かべてグレイに続いた。


「グレイの言う通りよ。吉歌ちゃんが強い子だってことは、昨日と今日の吉歌ちゃんを見てみんなが思ったんじゃないかしら。私は昔から見てきているから尚更分かるわ。吉歌ちゃんは本当に強い子よ。いざという時にやってくれるって信じているわ。」

「⋯⋯俺は、正直まだよく分からない⋯⋯女性恐怖症の俺はこの中じゃ唯一まともに話できてないと思うし⋯⋯。でも、今まで傍にいた家族の言葉は真実だって思うよ。」

「俺達は彼女を信じてますよ。俺達はまだ出会って間もないけれど、それでも意見は一致してます。全員が彼女と仲間になりたいとそう願っていましたから。こちらこそ、よろしくお願いします。」


 俺達の言葉を聞いたお父さんは、安心したように微笑んだ。


「心配しすぎていましたね⋯⋯。皆さんとなら、吉歌もやっていけそうです。改めて、よろしくお願いします。」


 そのとき、丁度厨房から吉歌がデザートを持って戻ってきた。


「あれ?みんなで何話してたにゃ?楽しそうな声が聞こえてたにゃ!吉歌に内緒で何話してたにゃ?」


 不思議そうな顔をしている吉歌を見て全員が笑うと、吉歌は「ずるいにゃ!!教えるにゃ!!」と言いながらデザートを全員に配ってくれた。




 朝食も食べ終わり、身支度を整えた俺達は旅を再開しようとしていた。

 ここにいないのは吉歌だけ。

 俺達4人は吉歌が来るのを入り口の外で待っていた。


 数分後、吉歌と共に吉歌の家族が出てきた。


「ねーちゃん!いってらっしゃい!」

「頑張ってね、ねーちゃん。」

「気をつけるのよ。」

「わかってるにゃ!」


 元気に返事をしているが、家族に背を向けている吉歌の表情はどことなく寂しそうだった。


 そこで声をかけたのは、やっぱり吉歌のお父さんだった。


「吉歌!自分に自信を持ちなさい!俺達家族は、吉歌のことをずっと応援してるぞ!吉歌が帰ってくるまで、毎日応援してるからな!」


 お父さんの言葉に続くように、お母さんや弟くん達も声をかけ始めた。


「そうよ。お父さんもお母さんも、和馬も真緒も吉歌を信じているわ。」

「ねーちゃんは誰にも負けないんだからな!俺のねーちゃんは世界一強いんだから!」

「大丈夫だよ、ねーちゃん。僕達ねーちゃんのこと大好きだもん。ずっと応援してるよ。」

「あぁ。だから、心配しないで行きなさい。⋯⋯大丈夫。お前には強い仲間がいるんだから。」


 そして⋯⋯


「いってらっしゃい!」


 吉歌の家族みんなが一斉に声をかけると、吉歌はニコッと笑い家族の方を向くと、元気な声でジャンプをしながら言った。


「いってきますにゃ!!!」




 俺達5人は「ガット」を後にした。賑やかな声も聞こえなくなり、今は入り組んだ道を進んでいる。

 

「吸血鬼さんのお名前はなんて言うにゃ?」


 俺に声をかけてきたのは吉歌だ。


「そういえば自己紹介してなかったな。俺はビア。見ての通り吸血鬼だ。」

「ビアって言うにゃね!カッコイイ名前にゃね!強そうにゃ!」

「ありがとう。」

「他のみんなのお名前も知りたいにゃ!」


 吉歌は、ピョンピョン跳ねながら俺達の周りをクルクル回っている。


「俺はグレイだ!「スティッチ」出身で種族はフランケンってやつだ!」

「グレイにゃね!頭のネジは刺さってるにゃ?痛くないにゃ?」

「おぅ!これはフランケンの特徴みたいなもんだ。生まれた時からあるから気になんねーよ。」

「す、凄いにゃね⋯⋯。」


 「痛そうにゃ」と呟きながら何とも言えない表情をしていた吉歌だが、まだ名前を聞いてないヒショウが視界に入ると不思議そうな顔をして足を止めた。


「お兄さんは具合が悪いにゃ?」


 突然声をかけられたヒショウはビクッと体を震わせると、俺の腕を掴んできた。


「え?え?どうしたにゃ?なんか悪いことしちゃったにゃ?」


 理由を知らない吉歌がオロオロしているため、ミオラがヒショウの代わりに説明を始めた。


「吉歌ちゃん。この人はヒショウ。「クラルテ」からきた透明人間の男の子よ。ただ、女の子が苦手なの。だから、今はそっとしておいてあげてちょうだい。今、私達と話が出来るようにって頑張ってくれてるのよ。でも、それまでは距離をとってお話ししてあげるといいわね。」


 それを聞いた吉歌はすぐさま距離を取り、ミオラの横⋯⋯一番端に着くとそこから笑顔でヒショウに話しかけた。


「ヒショウ!事情は分かったにゃ!さっきまで周りクルクル回ってごめんにゃ⋯⋯。怖かったし嫌だったにゃよね⋯⋯。今後は気をつけるにゃ!吉歌とお話できるようになってたくさんお話してくれるの楽しみにしてるにゃ!」


 ヒショウは俺に隠れながらそっと吉歌の方を見た。


「⋯⋯ごめんね⋯⋯でもありがとう、よろしくね。」

「よろしくにゃん!」


 吉歌は満足気な笑顔で答えた。


「そういえば、次はどこの街へ行くのかしら?」

「あぁ、そうだったな。」


 まだまだ長旅が続くため見境なしに歩いて体力を減らすわけにはいかない。

 目的地をしっかり決めてから移動すべきだな。


 俺は、隣街に詳しそうな吉歌に行き先を決めてもらうことにした。


「吉歌ちゃんの隣街ってどこか分かるか?」

「えぇっと、確か⋯⋯寒いところにゃ!」

「寒いところ?」

「そうにゃ!隣街には行ったことないにゃけど、お父さんがよく言ってたにゃ!隣街はとても寒いから、この街の冬も寒くなるんだよって!」


 なるほど⋯⋯。

 『寒い街』となると、リストに名前が載っているこの街の可能性が高いな⋯⋯。


「寒い街ってこの街か?」


 俺は名前を指差しながらリストを吉歌に見せた。

 吉歌はリストを覗き込むと、凄い勢いで頭を縦に振りながら言った。


「そうそう!この街にゃ!!「ネーヴェ」にゃ!」

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