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コンコンと二回、自室の扉がノックされる。

彼女が煩そうにベッドの上でもそもそと身動ぎをすると、扉が大きく開け放たれた。


「はーい、朝だよ。起きてねー」

「むぐぐ……」


もっふぁ……と自慢の毛並みを揺らして容赦なく入って来たのは一匹の妖狐。

真白の毛並みは尖った耳の先から尾の先まで滑らかに整えられていて、そこらのペットでは敵わない毛づやをしている。つり上がった目尻の割に柔和な印象を与える彼は、袖をたくしあげた白の(ひとえ)に深草の袴姿。

愚図る子を起こす母のように彼女を起こしに来たのは、本日の家事当番の白練(はくれん)だ。


ぐずぐずと彼女が大福のように布団ごと丸まってベッドにしがみついていると、白練はやれやれといって彼女の布団をめくった。


「めくるなぁぁぁ……」

「はいはい。いい加減にしないと遅刻する……て、おや」


白練が見た大福の具はぐったりとしていた。

丸くなったまま微動だにしない彼女に、ふむ、と白練は腰に手を当てた。ぴくぴくと白い耳が動く。


「えいや」

「うぐ」


白練は容赦なく彼女を転がした。

仰向けになった彼女の額にしっとりと張り付いた前髪を払ってやる。


「また夢でもみたのかい? 具合が悪そうだ」

「……」


彼女は自分の顔を腕で隠しつつ、むすっと唇を引き結んだ。

この狐は本当に察しが良い。


彼女は夢を見る。

それが血筋故なのかは分からないが、彼女の見る夢には何かしら意味があることが多い。

白練は彼女に顔近づけた。長い睫毛の一本一本が数えられるくらいの距離で、彼は牙をむいて妖艶に微笑んでみせる。


「そんなに具合が悪くなるなら、私が食べちゃおうか」


ちらりと腕の隙間から彼女の気だるそうな瞳が覗く。

はぁ……と大きくため息をつくと、白練の体を押し退けて起き上がった。


「あんた狐でしょ。獏じゃないんだから」

「おや。食べられれば何でもいいよ。夢を食べようが、君を食べようが」


白練はぺろりと彼女の首筋に伝った寝汗を唇で掬うように舐めとると、尾を揺らして離れた。

彼女は舐められた箇所に手をやって、じろりと白練を睨む。頬が赤く染まってしまっている自覚はある。こちとらまだ十六の乙女だぞ。

非難紛いの視線を向け続ければ、白練はくすりと笑うと朝の挨拶を述べた。


「おはよう、真朱(しんじゅ)。良い朝だよ」


まだまだ初々しい真朱は、そうだねと応じると寝台から降りた。

白練は真朱が起き上がったのを見届けると部屋を出る。真朱を起こしたので彼女の朝御飯を作らねばならない。朝なのでシンプルに目玉焼きとジャムのトーストを用意するだけだが。

そう思いながら白練は、今日は忙しない一日になるだろうなぁという予感を、頭の片隅においておく。だって真朱が夢を見たのだから。


───真朱が夢を見るときは、決まって「何か」が起こる前兆なのだ。

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