2月25日:季節外れの暖かさ
天気予報によると、明日の最高気温は167℃らしい。このままだと暑さで死にかねないので、何か対策を打つことにした。
まず、耐熱グッズは必須だろうと思い、ホームセンターに買いに行った。このホームセンターは天井の高さが半端じゃなく、20メートルはあるかのように思えた。アメリカン・スタイルだ。
案の定耐熱グッズコーナーは人でごった返していた。人ごみの真ん中にはたたき売りコーナーがあり、競り形式で商品を売っていた。
「耐熱シャープペンシル、8000円!」
随分高値が付くもんだと思ったが、需要があるのだから当然なのかもしれない。
「耐熱チョコレート、600円!」
「耐熱スポーツ新聞、1200円!」
「耐熱液晶テレビ、100万円!」
競りは続く。次々値はつり上がる。人々はまさに耐熱狂気に侵されていた。
だが、買い物客のうち誰一人として、自分自身の耐熱性について心配する者はいなかった。私にはそれが不思議で仕方なかった。167℃の空気を吸えばたちまち肺が焼けて死んでしまうに違いないのに。
「――かわいそうに。」
私の言葉は喧噪にまぎれ、誰の耳にも入らなかった。
ホームセンターの建物を出ると外はすごい暑さだった。既に気温が上がり始めているのだ。帰り道には熱中症で倒れた人をいくつも見かけた。行政による道路へのスポーツドリンク散布も殆ど効果がなかった。
途中、昼間から酔っ払ったおじさんとすれ違った。彼の手にはカップ酒がしっかりと握られていた。
「なぁ嬢ちゃん、こいつぁ長え一日になんべな、あ?」
「――――。」
長い一日? 気にすることなんてない。
みんな、死ぬのだ。