2月22日:放課後、誰もいなくなった教室
私は学校の教室みたいなところに立っていた。
窓の外は真っ赤な夕焼けだ。メキシコでは地獄の釜の蓋を開けたような色、と形容するらしい。週刊誌『中南米』に書いてあった。メキシコにも地獄はあるのだ。
突如、ドアが開き、教室には似つかわしくないような黒服男の集団が入ってきた。彼らは摩擦で世界を滅ぼそうと企てる悪の組織、『フリクション』だ。何をしに来たのかは分からないが、ここにいると危険だ。『フリクション』は一般人であっても口封じに殺す、残虐な集団なのだ。もちろん摩擦で殺す。
なるべく彼らを刺激しないように、そーっと後ろのドアから退出しようとしたところを呼び止められた。
「○○(本名)さん、○○(本名)さん、」
「ヒャ」
私は一目散に逃げた。捕まったら終わりだ。
しかし、
「摩擦だ!」
廊下の床の摩擦がゼロになった。彼らの攻撃だ。私は転んだ。もはや起き上がることは叶わない。私は死を覚悟した。
黒服男のうち一人が私の方に向かってきた。
「来ないで、来ないで、たのむから、」
私は懇願した。世の中様々な死因が考えられるが、摩擦による死だけはどうしても避けたかった(何故かその時はそういう事になっていた)。
「――せめて安楽死にしてください! お願いします――!」
沈黙を保つ男に対し、私は文字通り必死に頼み込んだ。
「いいえ――――摩擦です。」
男の口から発せられたその言葉は、私の脳天からつま先までを戦慄させた。日本列島で言うと稚内から波照間島までという所だろうか。稚内の代わりに択捉島を入れるかどうかについては国籍により判断のわかれるところだろう。
私はテレビでニュースを眺めていた。
「都立高校の教室内で女子高校生の摩擦死体を発見」というニュースだった。全身の皮膚が真皮まで削り取られ、四肢が鉄工ヤスリで切断されていたらしい。何しろ顔面が原型を留めていなかったので、個人の特定には相当苦労したらしい。
「うわ、怖え話もあるもんだな、○○(本名)も気い付けろよ。」
お父さんが言った。
夢の中でも領土問題