2月21日:銀幕のヒロイン 東京タワー
私は映画館にいた。
映画なんてめったに見ないのにどうしてわざわざ映画館まで来てしまったのだろう、と思った。
映画が始まった。
『銀幕のヒロイン 東京タワー』という私の知らないタイトルだった。とても古い映画のようで、色は褪せ、ノイズがザラザラしていた。
「湯の元に、注意!」
若侍は拍子木を打った。カンカンという音が客席に響いた。
「湯の元に、注意!」
スクリーンにはたくさんの丸が映っていた。そのひとつひとつが地球なのだ。これは地球空洞説を象徴している。
「湯の元に、(思い出せない)」
若侍は地球を殴った。カンカンという音がマントルに響いた。
「(思い出せない)」
マントルは怒って映画の画面に乱入してきた。その熱で、若侍の顔はすっかり融け落ちてしまった(ように見えた)。かわいそうだな、と同情した。
「湯の元、湯の元」
そうか、この映画は温泉地が舞台なのか。私はようやく納得できた。『京都』という文字が大写しになった。京都だ。どうりで歴史があるわけだ。
「湯の元、湯の元」
地面には、融けた若侍のふたつの眼球が転がっていた。眼球は熱に強いのだ。これは地球空洞説を象徴している。