2月27日:トンネルの中
私はトンネルの中にいた。恐らくは歩行者専用のトンネルだ。空洞は遥か遠くまで続いていて、どこまで行っても出口など無いように思えた。だけども私は先へと進み始めた。
トンネルは私の気分に応じて、広くなったり狭くなったりした。そこら中で水滴の滴り落ちる音が聞こえ続けていた。
途中立て看板があって、ここが国道6号線だと記してあった。あの国道6号線といえども、末端の方になればここまで細く暗い道にもなるのだろう。私は別に違和感を覚えなかった。おそらく私が知る国道6号線は、国道6号線全体の1割にも満たないのだ。
二十分は歩いた頃だろうか。遠くの方から、繰り返し何かを呼ぶような声が聞こえてきた。最初はだれか人を呼んでいるのかと思ったが、音に近づくにつれてそれが物売りの呼び声であることが分かった。
内容の方はなかなか聞き取れなかった。何人かの声が重なっていたからだ。「ポワシ」「フクドメ」「ムッチャ」などが判別できたが、これが正解である自信は無かった。
私はさらに歩いた。もちろん、出口の現れる様子はまったく無かった。だが、ついにポワシの正体が分かった。
トンネルの中には屋台があって、物が売られていたのだが、その屋台で売られている物はポスターとカグワシだった。ポワシはポスターとカグワシが混ざって聞こえたものだったのだ。
私はカグワシを1つ100円で買って、先へと進んだ。トンネルは洞窟へと姿を変えた。
私はさらに歩いた。もちろん、出口の現れる様子はまったく無かった。だが、ついにフクドメの正体が分かった。
洞窟の中にはコンビニがあって、物が売られていたのだが、そのコンビニで売られている物はフクレとマドメだった。フクドメはフクレとマドメが混ざって聞こえたものだったのだ。私はいたく感動した。ともすると泣いてしまいそうでもあった。
私はフクレを買おうかどうか散々迷ったが、結局買わずに先へ進んだ。洞窟は日本式寺院の廊下へと姿を変えた。木の床は相当傷んでいて、歩くたびに床が軋んだ。所々腐り落ちて穴が開いていたりもした。穴は底なしと思えるほど深く、うっかり落ちたら命は無いに違いなかった。フクレを買わなかった罰であった。
私はさらに歩いた。もちろん、出口の現れる様子はまったく無かった。それどころか床の傷みはどんどん激しくなってきたし、あたりはますます暗くなってきた。
床には三歩歩くごとに穴や割れ目があり、その度に私は跳躍し、その度に黴に侵された私の両足は「メキ」と呻き、形をゆがめた。以前165cm近くあった私の身長は今や3割近く縮んでいた。脚の長さだけで言えば半分未満だ。
なのにどうして私は、自分の足で歩いて――――いや、歩けているのだろう?
私がそう疑問に思った瞬間、両足はただの朽ちた木の棒に変わった。私はバランスを崩して正面から倒れ込んだ。
それっきり、私がどれほど力を入れても足はまったく動かせなかった。
これもフクレを買わなかった罰であった。
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ムッチャって一体なんだろね