第1章 (1) いつも通りの帰宅
学校にて
四時限目の授業が始まろうとした時。
心地よい春の陽気の中、 初めて会ったあの人に私は恋をした。
<♪>
『奏多~!』
私を呼ぶ声がした。
その声はいつも教室で聴くキーキーとした音ではなく、やさしくて暖かい、まるで母親のような声。
その声がする方向を向く。
『奏多ってば、またボーッとしてたでしょ?』
『え、、、そんなにしてたかな?』
『いつも通り、完全にしてましたよ。』
顔を膨らまし、何言ってんだかと呆れるこの少女は『和泉 ゆず』
私の親友だ。
彼女はいつも周りを気遣い、私のことを助けてくれるスーパーウーマンだ。
『そんなにしてたかなぁー。』
『いつも心此処に有らずの人が、良く言うわ。』
ほとんど何も入っていないリュックを自転車の中に放り込み、駐輪場をあとにする。
ゆずはいつも自転車登校で、私は徒歩で帰る。
『ほれ、奏多のも乗っけな!』
『だいじょーぶだよ~。』
『よくない!!いつも教科書どっさりのバックを二つも持って来てるんだから。帰りくらい甘えなさい!!』
『もー。そんなこと言ったらゆずちゃんに甘えちゃうよー。』
『甘えなさい。』
『ははー。』
『善きにはからえ(笑)』
ゆずは、ニシシッと白い歯を見せながらとびきりの笑顔を私に向けてくれる。
この笑顔がとびきり好きなのだが、怒らせると本当に怖く、学校でも生徒会長を全校の前で怒鳴り散らした程だ。
けれど、そんな彼女だから曖昧な態度をとる人よりも私は好きだ。
『奏多 小春さんは昔よりも正直になりましたなぁー。』
『そう、、、かな?
『そうだよ。だって奏多は私と初めてこの学校であったとき、嫌だって言って大喧嘩したじゃん。』
『そ、、、、そうだっけ?』
頑固で、恥ずかしがり屋、そして一番の努力家さんと言われるが、嫌なことはすぐに頭の中から消し去るスタイルだったため、小春は戸惑う。
でも、そんな姿見ながら「ニシシッ」と笑う彼女の姿をみて嘘なのだとすぐに気づく。
『また、、、やられた。』
『やられてやんの~(笑)』
ゆずは、小春に指を指しながら大笑いする。
これが密かにふたりのコミュニケーションにもなっている事は置いといて、、、。
『あ、、、。スマホ置いてきちった。』
頭をかき、下を出しながら校門前にある桜の木の下に自転車を停車させる。
そして、彼女は『少しだけ待っててー!』と言って、教室に向かう。
『、、、。』
さらりと頬を撫でる風は心地よく、腰まである長い髪か宙を舞う。
それはさながら、桜の花びらと共に舞う巫女のよう。
さらに微笑む小春の姿が美しい。
10分程経過したぐらいだろうか、ゆずは全力疾走で小春のいるところまで走ってきた。
『だぁー、ゴメン!!』
『お帰り~ゆずちゃん。』
『この罪深い私に、その微笑みは卑怯だよ!?』
そのあと、小春とゆずはのんびりと夕空がキレイな中、帰路に入る。
少し都会から離れたこの場所は、辺り一帯が森で、キレイな川が流れる。
しかも、そこの水は妙薬としてしられ『竜神さまのお水』とも言われている清水だ。
清水は至るところから涌き出ているため、あまりの暑さ出ない限り、干上がることはない。
その川を渡り、少し歩くと竜神さまを祀る祠がある。
それを通りすぎればあっという間に住宅街だ。
町の中は新築とそうでない家が混ざり、一風変わった空間に変わる。私の家は高校生になってから引っ越してきたのであまり知らないが、ゆずは生まれも育ちもここだ。
『んじゃ、また明日ね!』
『今日もありがとー。』
『おうっ!!』
ゆずはとびきりの笑顔を奏多小春に見せてから、自転車に跨がり家へと向かっていく。
『あら、ゆずちゃん。お帰り~。』
『ただいま~!!』
知り会いの人とのあいさつはしょっちゅうだが、知らない人ともこんな感じ。
人見知りがないのは羨ましくて仕方ない。
小春もゆず同様今までなかったが、『あの出来事』以来人がたまらなく怖い。
でも、彼女のお陰で小春も少しずつ解消されつつあるのもまた事実だ。
『ただいまー。』
そう言って、小春は父と母、妹と暮らす家に、玄関を開けて入っていく。
これから、驚くことばかりが続く日々になるとは、、、、知らずに。