#7 命名
英検合格した俺を褒めて!
「さて、こいつらをどうしたものか……。」
犬と狐の荒い息遣いが響くリビングで俺は悩んでいた。
頭を抱える俺の横では、犬が藍に、狐が彩に撫でられ尻尾をこれでもかと言うくらいに振っている。
「ちょ…擽ったい!擽ったいから顔舐めんな!」
とかなんとか言いながら狐の頭をわしゃわしゃと撫でまくるという何という矛盾。
矛盾か?いや、矛盾だ。
舐められんの嫌なら撫でなければいいのに。
「太郎は大人しくていい子だねー。よしよし。」
犬の方はお行儀よく藍の前に座っている。
おい。そこテーブルの上な。
行儀悪いじゃねえか。
あと太郎って何だ。太郎って。
それに二匹とも息遣いが変態の境地なんだが……。
数分前、二人が買い物から帰ってくると、秒速で二人へと向かった。
最初は、二人とも二匹を見て、「は?」と俺と同じ反応だったはずなのに、今ではすっかり仲良しこよしだ。
あれ?俺は?懐かれないの?
試しにこっちおいでーとかしてみたけど、二匹とも無反応。
いや、反応はしたが、
「兄貴ー。この娘、めっちゃいい香りですやん。」
「本当それな。美少女に囲まれて暮らせるとか幸せやん。」
とかほざいていた。
下心丸出しだし、そもそも一緒に暮らす気は無い。
と伝えたのだが、犬の方が俺を騙してサインさせた契約書を投げつけてきた。
そこには、
「サイン者は二匹を一緒飼育する事を誓う」
と書かれていた。
騙されてサインしたってのは法的に無効じゃね?
とか思ったが、そもそも動物に騙す騙さないの法は効くのだろうか。
「なぁ。お前らどっから来たんだよ。そしてお前らの元飼い主って誰?」
頬ずえをつきながら、犬に聞いてみる。
狐に兄貴と呼ばれてたりしてるから多分こいつがボス格だろう。
犬は俺の方を見向きもせず、
「俺らには飼い主など居らん。というか貴様が飼い主だ。」
などと言われた。
「だって。彩。こいつら飼うか?」
「?おにぃ何?キモイ……急にだってとか有り得ないんだけど。」
「あっ……」
忘れてた。俺にしかこの二匹の声は聞こえないんだった……。
「何でもない。忘れて。てか、忘れろ。とりあえず、この二匹、飼うのか?」
「な、人間!契約しただろう!」
「そうだ!飼うのか?じゃなくて飼うぞ、だろ!」
横からピーピー喋ってくる二匹はスルーで。
てかいつの間に俺の耳元に!?
「……おにぃが決めて。私はどっちでもいいよ。」
「私も……。」
彩と藍、二人はそう言ってるが、さっきから二匹を凝視している。
ここで、「飼わない」なんて言ったら彩は怒るだろうし二匹も意地でも居座るだろう。
俺は「はぁ……」と溜息をつき、二匹を見る。
二匹とも相変わらずつぶらな瞳だが、口元は釣り上がってる。
ニヤニヤすんな気持ち悪い。
「仕方ない。飼うか。」
俺がそう言うと狐は後ろ足で立ちながら当たりをくるくる回り始め、犬は遠吠え、というか唸り始める。
彩と藍も嬉しいそうに満面のえみを浮かべている。
俺は狐を無理やり座らせ犬の口を抑えながら
「でだな、名前はどうすんの?」
「狐は二郎。犬は太郎。……どう?」
藍は既に考えてたらしく即答だが、ネーミングセンスというのが彼女の中には無いようだ。
「藍さん。……センスないね……」
彩のド直球のストライク発言は藍に相当響いたらしく、「そんな……」と言いながら前かがみに倒れた。
「彩の方はなんか無いのか?」
「狐は正二郎。犬は三重奏と書いてトリオ。どう?」
「却下」
どうしてお前らはそうネーミングセンスが無いんだ。
「じゃあ、佐藤&佐々木。」
「却下」
漫才か。てか何故どっちも苗字。
「絹豆腐&木綿豆腐。」
「却下」
何故豆腐。
「もういい俺が決める。」
こいつらに任せてると大変なことになる。
うーん。
犬はポチ?クロ?
いや、ケビン……上田?
案外命名って難しいな……。
親が俺に名前を付ける時も……いや。あいつらとは関係ないんだ。もう。
熟考に熟考を重ねた結果……
「命名!!!ラバウル&ガダルカナル!」