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79話 王国剣術騎士団への緊急連絡


 ここはアイリス達が活動している王国の剣術騎士団の訓練場所。

 剣はこの世界で魔法に並ぶほど重要な武器であり、ゆえにこの国の軍の中でも、2番目に大きいのである。

 

 この団長を務めているのは、若くしてSランカーとなった伝説の元冒険者、グライド・ターコイズ。

 この男と実力が近しい人間は、この国に片手で数えられるほどしかおらず、確実に勝てる人間ともなると、もはや1人しか居ないだろうと言われている。



「団長、最近機嫌が良いっすね」



 剣を素振りしている、20代にはまだなっていない、一人の若い団員がそう言った。

 同じく素振りをしている、三十路の団員がそれに答える。



「まあ、当たり前だな。自分の愛娘二人がそれぞれの大会で優勝したってんだから。この調子じゃ、あと3ヶ月はご機嫌だぞ」

「良いっすよねー。団長の娘さん、二人ともめちゃくちゃ可愛い_________」



 若い団員がそう言った途端、二人の後ろに人が。

 グライドはまるで瞬間移動でもしたかのように、二人の後ろに立った。



「…そうだ。至極可愛いが娘はやらんぞ。それと口だけじゃなくて手も動かそうな」

「あっ! …はい、すいません!」



 若い団員の、いつの間にか止まっていた手が再び動き出すのを見ると、グライドは瞬時にもとの見晴らしの良い台へと戻っていった。



「ひえー…やっぱりあの人の速さはヤバいっすね」

「そうだな。素早さと剣の腕で敵う人なんて、この国には居ないだろうな」



◆◆◆



 団員達が素振りや基礎練習を終え、応用技術の練習を始めた頃だった。

 


「グ…グライド剣術騎士団長殿!」



 一人の広報役をしている男が、グライドを呼びに来た。

 それはそれはひどく慌てている様子である。



「グライド剣術騎士団長殿は居りますか!?」

「どうしたんだ、そんなに慌てて」


 

 その男の目の前の場所へ、グライドはいつの間にか立ってた。



「グライド団長殿……! はぁ…っ…はぁ…」

「とりあえず落ち着け。何があった?」

「む…娘さんから連絡が……! グライド団長殿の娘さんのロモンさんから、モンゾニ村の緊急連絡装置から連絡がっ…!」

「……なに?」



 グライドは鍛錬をしている騎士団員達に、そのまま続けている事と伝え、広報役の男と共に各地の緊急連絡装置とつながっているアイテムがある部屋へと急いだ。

 

 部屋には、その緊急連絡を聞きつけて駆けつけた、この国の宰相の一人であるオーニキス・シュバルツという男が既に居た。



「やや、来ましたか。グライド団長殿」

「オーニキス様……!」

「娘さんから連絡が来てる。とりあえず、私も話を聞こうと思ってね」

「すいません、ありがとうございます。……繋げてくれるか?」

「は…はい!」



 広報役の男はモンゾニ村の緊急連絡装置に繋げた。

 この装置は国中の村や町に必ずあり、その近辺でなにか、一般人や冒険者では太刀打ちできないような異常や、政治的な急を要する連絡があった場合、使用して良いことになっている。

 その権限はその村や町を治める長にある。


 しかし、今回はそのモンゾニ村の長からではなく、モンゾニ村の装置を使用してグライドの娘であるロモンが連絡をしてきたのだ。



「つながりました!」



 その男の言葉と共に、装置は青く光り、言葉を発しだす。



〈あ____城の方…聞こえますか? お父さん居ますか?〉

「聞こえるぞ、ロモン! 私だ、お父さんだぞ!」



 グライドは食い気味に返事をする。

 その娘の声が、どこか疲れ果てたような、泣いた後のような声だったからだ。



〈お父さん…あのね…私達、モンゾニ村に依頼を受けに行ってたの。そしたら…Sランクの魔物が…!〉

「な…なんだと!?」

「それは本当か!?」



 城からそれなりに近い場所にSランクの魔物が現れたと聞いたオーニキスは驚き、声を出した。

 Sランクの魔物は普通、遠い山の中や、海の中などの人の居ない…或いは少ない場所にしか現れない。

 

 グライドがSランク魔物を討伐した際は、城から普通の馬車で1ヶ月かかるほど離れたところにある山の頂上まで行ったのだ。



〈は、はい! そうです。魔物はサナトスファビドという名前で…その魔物は_______〉



 ロモンはサナトスファビドという魔物について、資料そのままの内容を、今必要な分だけ伝えた。



〈_________なんです〉

「な…なんと…。それだとここらで起きていた事件が解決できるな……」



 オーニキスはそう呟いた。

 それについて、グライドは訊いた。



「なにか心当たりが?」

「ああ、最近、ある冒険者の夫婦が身体中に黒い紋様が出るという謎の病で死ぬ…という事があってな……。そうか、それはその魔物の仕業なら納得がいく」

「確かにそうですね……。ロモン、村長に変われるか? 話を聞きたい」

〈う…うんっ〉



 ロモンは装置越しでモンゾニ村の村長にかわった。


 村長は村で流行っていると思われていた病気についてはなし、また、ロモン達がどのような様子で帰ってきたかを話した。

 ロモンとその村長が話し、さらに最近あった事件…これらの要因により、この話を嘘だと思うものはその場には誰も居ない。

 オーニキスは何かを判断したのか、きている服を正してから、グライドにこう、命令した。



「そうだな、太刀打ちできるのはグライド団長殿かノア団長殿くらいだろう。私が……宰相として命令する。団員を連れてモンゾニ村へ行ってきなさい。そこでその魔物の調査と…討伐を」

「ハッ!」



 グライドは命令を受け賜ったという意味で、胸に握り手を叩きつけた。

 


「よし、ではもう少し話を聞いてから大型転移魔法陣で30名ほどの団員と共に向かってくれ」

「はい」

「それでロモンちゃん……君達はいつサナトスファビドを見たのかな?」

〈大体____〉



 ロモンはオーニキスに大まかな時刻とその時の状況を伝えた。____途中で泣きながら、リンネがその毒牙に犯されたことも伝えた。

 その場にいて話を聞いて居たものは皆、目を見開き、グライドの方を見た。


 グライドの表情は絶望そのものであった。

 


「ろ…ロモン…その話は嘘だよ…な?」

〈……………ううん〉

「本当にその…サナトスファビドの毒というのは治らないものなのか?」

〈………うぇっ…ふぐ……うんっ…〉



 その場にヘタリとグライドは座り込む。

 その様子を見ていたオーニキスは、彼の肩を優しく叩いた。



「とりあえずは……村に早く行って…村とその娘達の様子を見てきなさい」

「は………い………」

「私はこれから、色々と報告する事があるからな」



 そう言ってから、皆は散っていく。

 すぐにグライドは立ち上がり、顔を上げ、団員達に出動することを知らせに行った。

 彼の心うちは、今の話が全て嘘であるか、この現実が夢であることを願うばかりだ。

 

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