61話 優勝後日でございます!
今日は大会終了1日後。
私達…主にロモンちゃんが大忙しなの。これからインタビューとか受けなきゃいけない。
まあ、忙しいのは今日明日明後日くらいで後はまた普通に過ごせるって、シェリーさんが言ってたんだけど…。
ロモンちゃんは、あの、ノアの娘だということで、かなり話題になっちゃったから、少なくとも剣の大会が始まるまでは忙しくなるだろうね。
私達はいつもより1時間も早起きして、朝食を食べている。リンネちゃんまで起きる必要は無いのに、起きて一緒に朝ごはんを食べていた。
「き、今日は大忙しだよっ…」
「ロモンがお腹痛くなるの、ぼく心配だなぁ…」
「うう…。大会に優勝したからって、こんなに忙しくなるなんて思ってなかったよ」
会話をしながら、二人は、相変わらず驚異的なスピードでご飯を食べる。
そして歯を磨いて、顔を洗って……念のため、朝のお風呂に入って、持ってる服の中から一番可愛いのを選んで、リンネちゃんにお留守番をお願いして、私達はそのインタビューなどを受ける約束の場所まで向かった。
ちなみに、優勝賞金は200万ストンで、副品としてなんか色々ともらってたけど、把握しきれてない。
正直言うと、ロモンちゃんとリンネちゃんが賭けで稼いだ額の方が何倍も大きい。
リンネちゃん、50万ストンを私や勝ちそうな試合にだけ全賭けを連続でして、1490万ストンにしてきた。
そう、笑顔で報告してきたの。末恐ろしい。
まあ、この国は賭けは絶対だし、大金を扱う場合は護衛とかが付くからそういう面では安心なんだけど、それにしても1490万ストンかぁ……。1490万ストンねぇ………。
因みに、私は6億3525万1648ストンになってるはず。
私というイレギュラーが一人居ただけで、ここまで稼げるもんなんだね。私がきっと人間だったら、笑みが溢れ出てるに違いない。もしかしたら…市場に出ているアーティファクトを一つ…物によっては2つ、買うことも可能かもしれない。
それと、多分順当にいけばジエダちゃんは500万の借金で9580万ストン稼いだと思う。
ちなみに、お祝いは、リンネちゃんの大会が終わったらお父さんとお母さんを交えて盛大に行うことになってる。
だから、昨日の夕食はいつもよりそこそこ豪華な程度でとどまった。……と、いってもステーキ(香辛料使用)とケーキなんだけど。
しかし…結局、私、リンネちゃんの武器が買えるの、リンネちゃんの大会が終わってからになりそう。
まず、武器の制作期間を頭に入れてなかった。それと、ロモンちゃんが優勝したことにより、私も忙しく駆り出されることも。
6億3000万ストンについては今日の夜中にこっそり、ジエダちゃんから受け取る予定だけどね。
「き、緊張するよぉ…。だ、大丈夫だったかな? この服で…」
【大丈夫ですよ、可愛いです】
「えへへ…そう?」
約束の場所の入り口の前で、ロモンちゃんが再確認する。大丈夫、可愛い。今日は特に可愛いから、大丈夫。
私が保証しよう。
その建物の中に入ると、既に多くの記者達が待ち構えていた。
◆◆◆
「す…すごい…。疲れた……」
「ええ、お疲れ様でした」
おおよそ11時間、途中休憩有りとはいえ、ずっと取材を受けてたね。
私も身体的には疲れてないけど、精神的には疲れた。
ある割とフレンドリーな記者さん曰く、本来ならここまで長くは取材されないらしい。
有名な元Sランク冒険者の娘だから…新種のゴーレムを使ってるから…そもそもロモンちゃんが可愛いから……多分、そういうのがごちゃ混ぜになった結果だよね。
少しふらついた足取りで、宿に戻ってきた。
午前7時に部屋を出て、午後6時に帰ってきたんだよ。
「あ、おかえり」
「た…ただいま」
【大変でした、本当に】
「実はもう、ご飯は作っておいたんだよ。食べよ?」
「う…うん、ありがと、お姉ちゃん……」
リンネちゃんはご飯を作ってくれていたご飯を、冷蔵庫代わりのスペーカウの袋からとりだした。
別にいいのに、私の分もあるようだ。将来きっと、いいお嫁さんになるに違いない。
いいお嫁さんにはいいお婿さんだ。変な野郎がつかないように、二人に気をつけなきゃね。私が。
「ごちそうさま!」
「ごちそうさま、私、もう、お風呂は入って先寝るね?」
「そうしなよ……じゃあ、アイリスちゃんとお風呂はいるのは、ぼく一人でいいかな?」
「………うぅ…仕方ない。いいよ。ごめんね、アイリスちゃん」
そう言って、凄まじいスピードで夕飯を食べ終わったロモンちゃんは一人でお風呂に入ってった。
「もし、ぼくが剣の大会で優勝したら、やっぱり…ここまで忙しくなるのかな?」
【まあ多分、なるでしょうね】
「うへぇ…」
リンネちゃんは軽く顔をしかめる。
「ところでね、アイリスちゃん。少し大事な相談があるんだけど……」
ど、どうしたんだろう急にあらたまって。
まさか、私達が留守の間に何かされた? いや、相談だ。多分それは違う。すごく重要なことを秘めてる顔をしてるっ…。言いにくそうな…。
【は、はいなんでしょうか?】
「はぁ……実はね、ぼく、新しい武器を買おうと思うんだ」
……なんだ、そんなことか。なら、ここまで悩んでるような顔しなくていいじゃないの。
【買えば良いではないですか?】
「ほら武器って高いじゃない? ぼく、750万ストンも賭けで貯まったけれど…それで買うべきか、買わないべきか、迷ってるの」
なるほど、確かにこの子にとっては初めての高級な買い物となるわけだよね…。って、普通に数百万単位で賭けに出してたのに、買い物で緊張するってどういうことなのかな? まあ、それはいいや。
でもなあ、ここでお金を出させるのも可哀想なんだよね。私、新しいのを買ってあげようと思ってるし。
でも、今から頼んでも大会の日までにその剣ができないことは確か。……困ったな。
でもよく考えたら、武器は個人での買い物じゃなくて、私達の戦力が上がるわけだから、パーティとしての買い物という考え方ができる。
だとしたら……そうね、1本数百万ストン程度の剣を二本、私のお金で買っても良いかもしれない。
ちょっと甘やかす事になりそうだけど……そうしよう。
【いえ…買うべきではないでしょうね】
私はあくまでサプライズにこだわる。ここは、買うべきではないと言うことで、私が買ってあげようとするのをカモフラージュするのだ。
「………そっか…。ぐむむ…どうしよ」
【鉄製の剣でも十分、人に致命傷は与えられますよ。大会のルール、勝利条件はどうなっておりました?】
「えーっと、対戦相手を降参させるか……気絶させるか…あとは審判判断だね」
【ですよね? 人間の急所を狙えば、どんなに対戦相手が屈強な大男だったとしても、木製の練習用の剣で倒せてしまえることもあるのですから】
「うーん……確かに…そうかもだけど…」
その時、お風呂からヒタヒタと足音を立てて、ロモンちゃんが上がってきた。早いな。
すでに寝巻きも着ているし。せめて下着くらいは見たかった。
「入って良いよ、アイリスちゃん、お姉ちゃん。私寝るから」
「うん。おやすみ」
【おやすみなさいませ】
私達は風呂場へと移動した。
私の身体を洗いながら、リンネちゃんはさっきまでの話をまた、し始めた。今は背中を洗ってくれている。
「でもね、やっぱり新しい武器っていう魅力が……」
そういえばそうだった、リンネちゃんは鍛冶屋さんと仲良くなるくらい武器も好きだった。忘れてた。
だとしたら、やっぱりサプライズで喜ばれると思うよね? ね。
【うーん、なら、4日後まで考えましょう。高い買い物はよくよく考えるのが良いと、お教えしましたよね?】
「うん、そだね」
【因みに、買うとしたらどんなのを買うつもりだったのですか?】
これは訊いておかなければならない。
どんなのだろう。
「んとね、鉄より硬い…鋼……あるいは、ほんの少し、ミスリルとか、アルティメタルとかが混じってるやつかな。合金でもいいや」
【そうですか……】
アルティメタルとは、ミスリルに並ぶ高級金属のこと。
オリハルコン>アルティメタル≧ミスリルって感じかな。
それにしても、鉄よりほんの少し性能が上のやつで良いのか……。私はてっきり、純ミスリル製や、純アルティメタル製が良いんだって言いだすと思ってた。
少し混じってる程度のものと、純ミスリル製じゃ、値段が1桁違うこともある。
おそらく、私が想定していた金額は剣1本500万ストンくらいで、リンネちゃんが想定していたのは1本95万ストンぐらいだろう。いや、それ以下かな。
どっちにしろ……リンネちゃんの新しい武器(仮)は買ってあげないとね。
お風呂から出た私達は、ロモンちゃんに続きベッドに入る。
寝る前にリンネちゃんは『内緒だよ』といって、私の頬にキスをしてくれた。ふふふ。
そして私は一度、寝たふりをして、リンネちゃんが寝たのを確認すると、ギルドへと向かった。
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次の投稿は7/22です。




