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328話 対魔王軍作戦開始の前日でございます! 2

「すぅ……はあああああ!」



 私はカタナを構え、ガーベラさんに斬りかかった。最大補助魔法を五回重ね掛けしてる上、その状態ならリンネちゃんと同じような高速移動ができる。おそらく今は三、四ヶ月くらい前の補助魔法なしの状態のあの子と同等のスピードは出せているはず。

 


「おっと」



 でも、ガーベラさんは簡単に盾でいなしていく。今の私はスピードに加えて攻撃力だって大幅に強化されているから、この二つが相まって普通ならこんな涼しげな顔で受け切れるはずのものではない。

 となれば考えられることは一つ。ガーベラさんは私の攻撃を受ける上で、衝撃やダメージを最も和らげる最適の動きをしているということ。未来がわかるだけでは大抵なしえない芸当だわ。でも……。



「攻撃しなければいつか私の攻撃が当たりますよ! 手は抜かない手筈でしょう!」

「そうだね、このまま続ければ回復魔法で劣る俺の方が先に体力切れになる。そして魔法でも物理攻撃でも、アイリスの一撃は重たい。……ジリ貧だ。この状態から抜け出すにはアイリスを攻撃するのがベストだね」

「それがわかっているなら……! なっ!?」



 ガーベラさんが槍と盾を急に手放したかと思うと、斬撃を回避しつつそのあいた両手で私の肩と手首を掴んだ。

 なるほど、どうやらこのスピード下でも両手をフリーにして私の身体を掴むチャンスがあると彼には見えていたみたい。今までずっと受け身だったのはこのタイミングを待っていたのでしょう。


 頭の中で投げ技が来ることを全く予想してなかった私は、素手の状態なら反撃するのも難しくないにもかかわらず、綺麗に投げ飛ばされてしまった。さらにガーベラさんは私を羽交い締めにしたうえで体重がかからない程度の優しさで下腹部の上にのる。



「どう?」

「……なるほど、素手によるものだけでなく、武器による戦いでもガーベラさんには敵いませんか」

「その実力自体は拮抗してるよ。いや、本来ならアイリスの方が強い。俺は未来が見えてるだけだ」

「そうですね……」



 いや、しかしこの格好はなんというか……これからいけないことをされそうな雰囲気。ガーベラさんは約束を守る男性なので、結婚後まで襲われることはないはずだけどね?

 それに、私はまだ負けてはいない。今回はお互いの能力をフルに使った半分本気の対決。ここから逆転だって十分できる。



「……っ!? そ、その技は心臓に悪いよ」

「私を代表する技の一つですから。……発動する前に回避されましたが」

「人間の状態でも自爆ってして大丈夫なの?」

「一時的に大怪我を負いますが、即効回復するので問題ありません」



 私が爆発する前にガーベラさんは私の上から飛び上がって避けた。悔しいけど、人間態で自爆すると服も爆ぜるから発動させずに済んでよかった。

 ガーベラさんはいつのまにか手に私のメタモルアームを握っている。まさか自爆を発動するまえに回避しながらちゃっかり得物の取り上げもしちゃうとは。

 


「本当に手強いですね」

「……となると第二段階ってところか」

「そうなります」



 ガーベラさんは後退しながら私の武器を壁際まで放り投げ、先ほど手放した自分の武器と盾を回収。私はガーベラさんが予知した通り、ドミニオンゴーレムへと変身した。



【普段はガーベラさんの方が体が大きいのに、こうなるとまるで子供のようですね】

「そりゃあ君は今ゴーレムだもの。ただこれで機動力は俺の方が上になった」

【事実です、が、楽に勝てるようになった訳ではありませんからね】



 私はゆっくりと拳を握り、構えをとる。ただ、人間態であれだけスピードをだして一矢報いることもできなかったため、機動力が落ちた今、まともに殴り合うつもりはない。

 私は両腕を四つ分全て分裂させ、独立させる。そしてさらに背中から出せる本数だけ、魔流の創気による腕と翼を生やす。



「まるでゴーレム以外の生き物を見ているようだよ」

【背中から手や翼がうじゃうじゃ生えているのですから、そう見えても仕方ないですね】

「まいったな。……これは勝つのむずかしいぞ」


 

 私はこの部屋の天井ギリギリまで飛び上がった。腕から分裂したユニットだけがガーベラさんの目線上に残る。



【ではゆきます。あ、本域を発揮するまえに一つ忠告です。死にそうだと感じたら早めに言ってくださいね】

「わかってる」

【これはあくまで試合ですから……。リスシャイラム】



 私の背中から生えてる腕の本数は、翼を除いて左右十本ずつ。もっと生やすこともできるけど、さすがに抑えめで。その腕全てを媒体として現れる十の白い魔法陣。

 一発一発それぞれが特技補正と膨大な魔力による、自惚れなしでこの世界最高峰の火力(が出せるところを死なない程度まで抑えた上で)の一撃が放たれる。

 

 加えて、分裂した4つのユニットは拳を握りながら各々で属性魔法や、属性攻撃を仕掛ける。必要であれば背中の腕と同じように高火力の光魔法も。回避する暇もない圧倒的物量作戦。

 ここまでのことをするのは練習以外で初めてだったりする。なぜなら相手がいないかったから。これでまだ、殺し合い用の本気や、ロモンちゃんによるモンスアーガ、魔人融体等も残ってるんだから自分でも恐ろしくなってくる。


 ちなみに、分裂させた本当の腕のその断面から、使ってしまっている分を魔流の腕をはやして補っている。その二本の腕は魔法の媒体に使わず、距離を伸ばして私の得物を取り戻すのに使用している。



「ほぼ誰にも負けないくらい俺は強くなったと思ってたんだけどな。……さすがは実質SSランク。ははは、楽しくなってきたっ!」



 ガーベラさんは壁に向かって槍を投げた。そしてその場に瞬間移動する。ほぼこの部屋一帯を覆うほどの物量。しかし彼の予知はその安全地帯を見抜くこともできる様子。第一発目を回避された。

 しかし私は即座に次の魔法陣を用意し、その魔法陣はすぐさま光のエネルギーを発射した。この間、3秒ほど。


 光に覆われた視界が晴れると、ガーベラさんは安全地帯となる壁を見つけてそこに槍を突き立てぶら下がっていた。私から分裂したユニットも盾でうまく捌いている。4体同時に。ここまでやられると圧巻だわ。


 ……このタイミングで私の手元にも武器が戻ってきた。

 私はメタモルアームでそれぞれが鎖で繋がった実質複数本の大剣をイメージ。この武器は本人の体の体積の数倍までになら変化できる。今の私の体積は凄いことになっているはず。もちろん太ってる訳じゃなくて、鉱物的な意味で。

 形を工夫したとはいえ、大剣はおおよそ八本となかなかの数になった。背中から生えてる腕と肩から生えてる腕、左右四本ずつで握る。


 八刀流……。全ての剣に、私が今できる限りの光属性付与を行い、剣技も発動。剣を待つことができなかった腕は引き続き魔法を出させ、4つの分裂ユニットはガーベラさんの動きを妨害することに集中させるようにする。

 そんな状態で、私は彼に突っ込んだ。



【はあああああああああああ!】

「くるか! うおおおおおおおッ!」



 試合の範疇で私ができる最大の攻撃に対し、ガーベラさんはユニット達による妨害を受けながら何かしらの技を用意している様子。どんな技か知らないけど、ゴーレム態なら何されても肉体的痛みを感じることはない。このまま押し切って……!



「ぁぁあああ……あ? あー、ごめん。ストップ」

【えっ……あ、はい】



 なにか魔力の凄いオーラを纏っていたガーベラさんが、私が近づいた瞬間に、急に攻撃を止めるよう言い出した。

 いつでも止められるように準備していたから急停止も間に合ったけど、今、私がしようとしていたことに対応する気満々そうだったのにどうしたのかしら?



【どうしましたか?】

「いや、その、今のでお互いがぶつかったら……どうやらこの部屋が修理が必要なくらい壊れるみたいだったから止めた。どうやら限界までやり切ったみたいだよ、俺たち」

【そういうことでしたか】



 この部屋にも限界があったのね。国から与えられたとはいえ個人が所有する部屋だし仕方ないかな。

 ……えっと、引き分けってことでいいのよね? とりあえずガーベラさんが攻撃してくる様子がなさそうなので、私は人間態に戻った。



「引き分けですね」

「いや……ううん。ごめん。本当は部屋が壊れそうなのだけが試合を止めた理由じゃないんだ」

「というと?」

「俺が最後に放とうとしていた……あの技、俺の持つ技の中でも最高火力を誇るものなんだけど、たぶんアイリスに当たったら殺しちゃってるんだ。そうなるまえに止めた」

「そ、そうなんですか……」

「うん。危なかった。了解を得た上で今の力を存分にふるえる相手がいままで居なかったから、戦うのが心底楽しくなっちゃって……恋人を手にかけるところだった」



 ガーベラさんも私と同じようにかなり盛り上がってたのね。冷静をさをなくすほどだから、その度合いは私よりさらに上だったみたいだけど。

 ガーベラさんはより詳しく、彼目線での話をしてくれた。まず、私が人間態のままだったら確実にガーベラさんが勝っていたらしい。それは私も薄々わかっていた。ただ、ゴーレム態だったら逆に私の方が勝つ可能性が高かったとのこと。

 

 魔法による強化込みで、高すぎる防御力と魔法抵抗力。私はガーベラさんの一部を除いたどの技を持ってしてもまとまなダメージを与えることができないらしかった。

 そんな私に効く一部の技。ガーベラさんの必殺技や奥の手に匹敵する、私がまだ見たことないもの。それが二つあるらしい。そのどちらもが逆に私を殺してしまうほどの火力を誇っており、突進してくる私に対して、つい、一方を使ってしまいそうになった。

 

 要するに私に全く効かないか私を殺してしまうかの二択で、ちょうどよく戦闘不能程度で止めるものがなかったのね。



「だからまあ……引き分けみたいな感じになったけど本来ならアイリスの勝ちだよ」

「それを言うなら私を倒せる一撃を待って、寸前で止めることのできたガーベラさんの勝ちではないですか? 私は一撃も与えられなかった訳ですし」

「いや、試合なのに奥の手を出しそうになった俺は………はぁ。あんまり突き詰めると日が暮れてしまいそうだ。前言撤回。やっぱり引き分けってことにしよう」

「そうですね、そうしましょう」



 はぁ、いい運動をしたわ。

 危うく殺されるところだったらしいけれど結果的になんともないから別に構わない。これからは予定通りディナーを作ってガーベラさんに振る舞わないと。

 私はこの部屋を出るために歩き始めようとした。しかし、唐突にガーベラさんに腕を掴まれ、抱き寄せられる。



「わっ、どうしました?」

「いや、その……俺は本当にアイリスのことが好きだ」

「え、ええ。ありがとうございます。私もですよ」

「……ごめん、それだけ」



 そう言って私のことを抱きしめていたガーベラさんは解放してくれた。なんだかとてもしんみりした様子。やっぱり、緊張しているのかしら。今日の残りの時間精一杯使って私が元気付けなきゃね。







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次の投稿は3/8です!

休みが続いて暇な方がおりましたら、ぜひ私の他の作品も読んでみてくださいね!

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