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310話 ガーベラさんの試合本番でございます! 2

 ランスロットさんが放った技は、サミダレという名前の降りかかる衝撃波の雨だった。ガーベラさんがそれらをどう対処するかよく見ておかないと。まず、彼は自分の手に持っていた槍をおもいきり上へ投げた。怪力になる籠手のアーティファクトのおかげで投擲された槍は衝撃波の群を猛スピードで駆け抜けて天井に突き刺さる。

 その次の瞬間、天井に刺さった槍の持ち手の部分にガーベラさんが現れた。リンネちゃんみたいな超高速移動ではなく、どちらかというと転移魔法陣による転移に近い。なるほど、あれがガーベラさんの槍の能力なのね。そしてランスロットさんの槍が対空してる場所よりさらに上に出現することでやり過ごしたと。



「ほー、なるほどなぁ。だが、そんな姿勢じゃ攻撃してくれって言ってるようなもんだろ? サイガ!」



 まだサミダレも全て降り切ってないにもかかわらず、ランスロットさんは天井にぶら下がってるガーベラさんに向かって技を出した。それもまた槍の衝撃波。ただ、サミダレと違って単発で、なおかつ細くて素早い。矢よりも早く飛んでいったそれは、普通なら防ぐのも間に合わないのでしょうけど、そこは流石のガーベラさん、事前に察知していたようで盾の技を使って起動をそらして防いだ。

 そしてガーベラさんは天井へ宙返り、槍を引っこ抜くと、落下していくと共にランスロットさんに向かって槍を投擲した。それも技を使って。



「スロウ・レイ!」

「おっとぉ」



 光を纏って飛んでいった槍は今度は地面に突き刺さる。着地点は軽く爆発。そして地面に頭から落ちて行っているガーベラさんはその槍の手元に再び瞬間移動してきた。

 そうなることは流石にわかっていたからか、ランスロットさんはガーベラさんが槍をしっかり掴む前に先ほどのサイガという素早い技を放ち、弾いて、ガーベラさんの手元から槍を引き離そうとした。

 しかし、ガーベラさんの読みはさらに先の先を行っており、その素早い衝撃波が槍にぶつかる前に自分からそれと盾を手放し、ランスロットさんに殴りかかったの。



「剛拳!」

「まじ、ぐあっ!」



 怪力になる籠手を装備したまま放たれたパンチ。完全に不意をついて放たれたそれはランスロットさんの顔面にクリーンヒットする。あんなパンチが頭に当たったら誰だって脳がゆれ、一瞬だったとしても意識が飛ぶでしょう。ランスロットさんも例外ではなく、ほんの一瞬だけ全身から力が抜け切った。

 私やガーベラさんほど徒手格闘できる人間がその合間を見逃すはずもなく、ガーベラさん、今度はランスロットさんに向かってアッパーカット。ただ、ランスロットさんも熟練者。インパクトが起こる直前に意識を取り戻し、顎の間に自分の片手を挟んだ。ただ衝撃自体が緩められるわけでもないので、彼の体は宙に浮いた。そうして新しくできた隙に、さらにガーベラさんは回し蹴りを入れる。

 これじゃあ槍使いじゃなくて徒手格闘家だと思うんだけど……まあ、槍だけで戦うっていう試合じゃないし別にいいのかしら。



「……っ。野郎、効いたぜ」



 蹴られた勢いで地面を転がっていった先で、立ち上がったランスロットさんの顔面は血だらけだった。当然、籠手なんて装備されて直に殴られたらああなるわよね。ただやる気自体は削げてないみたい。

 それにあれだけ攻撃されたのにランスロットさんは槍を手放していない。一方でガーベラさんは槍を弾き飛ばされてる。盾はすぐ拾える足元にあるからいいとして。……そんな心配をしていたらなんと槍の方から勝手にガーベラさんの手元に移動してきた。

 どうやらあの槍の効果、正確には所有者を引き寄せ、なおかつ所有者に引き寄せられるというものみたい。まるで呼んだら恋人みたい。ガーベラさんの恋人は私なんだけどな……。……槍に嫉妬しても虚しいだけよね。



「はぁ……はぁ……ここまで俺を追い込んだご褒美だ、大技の一つを見せてやる」

「さっきのサミダレという技は……」

「バカ言え、ありゃ小手調べ用の技だ。あれだけでもSランクくらいならぶっ倒せるがな。だが今から見せるのは格が違う。これから生き延びたらお前の勝ちでいいよ」



 ランスロットさんは乱れた前髪をかきあげると、槍を唸らせるように自分の周りで回し始めた。その軌道は歪んで見え、蛇やミミズといった長くてウネウネしたタイプの生き物が彼の周囲を這いずり回っているよう。

 そしていよいよその軌道の歪みが本物生き物なんじゃないかと思えるほどになった頃、ランスロットさんは頭の上で手を止め、そのまま自分の槍を地面に勢い付けて押し込んだ。槍は自分の意思を持ったかのように地面に潜り込んで行く。



「……さ、攻撃してきていいぜ」

「……っ」



 ガーベラさんは予測でどんな技が来るのかわかっているのでしょう。完全に身を強張らせている。



「来ないならこっちからいかせてもらう。ほら、出てこい。ジャベリンワーム」



 地響き。そしてその後にガーベラさんの足下から顔を出したのは先端がイッカクのように鋭く尖ったウネウネした土の塊。よく見るとランスロットさんの槍がその謎の生物のようなものの中央にあり、それが操作しているようだった。

 巨大で尖っててウネウネしてる土の塊は、今度は天に昇り、降下することで攻撃をする。地面からの顔出し攻撃を回避したガーベラさんは慌ててその降下攻撃も避ける。しかし、次の瞬間この謎の生き物の側面から槍のような形状になった石が何発もガーベラに向かって飛んできた。

 ガーベラさんはそれらを難なく盾を拾って防いだけれど、ウネウネが畝るたびに石でできた槍が体の中から飛んでくるようになってるみたいで、際限なくガーベラさんを襲う。そして本体も攻撃するのだから……原理はわからないけど、とにかくめちゃくちゃな技ね、これ。



「おっと、俺のミミズちゃんに気を取られたままでいちゃダメだぜ。俺自身も攻撃を続けるからな。ランドウェポン」



 そう言ってランスロットさんは地面を隆起させて、そこから槍を作りだした。あんな魔法もあるのね、とても便利そう。

 そして最初に見せたサミダレのような軌道で槍を振り回すと、実際にそれを放った。ミミズちゃんによる突進攻撃と、そこからばら撒かれる無数の石槍、ランスロットさん本人が放った衝撃波の雨。この三つがガーベラさんを襲っている状態にある。そして実はもう、すでにここからガーベラさんの姿は見えていない。私たちではどうなってるかわからない。

 ……王様もお父さんも傍観してるけど、これ、止めなくて大丈夫なのかしら。



「……グランド・レイ!」



 土埃が舞う最中、ガーベラさんの声が聞こえたと思ったらミミズちゃんの中心部が光りだし、爆ぜた。そしてこの部屋の全てを光で飲み込もうとしているんじゃないかと思えるほどの明るさが私たちを覆う。

 その光が晴れた頃には、あのミミズちゃんが消えて無くなっていた。上にあるサミダレは残ってるみたいだけど。



「なるほど、地面自体に魔法を当てて広範囲でかき消したか。高い魔力を持ってるからできることだな」

「……はい」

「もういいよ、これで終わりだ。お前さんの勝ちでいい……ですか、王様?」

「ああ、うん、二人とも血だらけだもんね、終わりでいいよ。ガーベラくんの実力は大体わかった! これだけやってまだまだ余力を残してそうなら問題ないよ」



 そっか、終わったのね。ガーベラさんは大技らしい大技は最後にあのミミズちゃんを弾き飛ばしたものしか使ってないけど。王様の言う通り余力がある。……完全な本気も見てみたいな。

 ガーベラさんとランスロットさんは私の元にやってきた。ランスロットさんはガーベラさんに殴られて鼻血が、ガーベラさんは石槍の連弾によって小さな傷がいくつもできていた。



「……よし、じゃあ次は僕の番だね」



 二人を治療している最中に、ナイトさんがそう言って自己修復されつつあるこのフィールドの真ん中に出てきた。



「うん、よろしく頼むねナイトさん! 相手はグライドくんが一番いいかな? 頼める?」

「勿論です、王様」



 王様に指名されてお父さんも前に出る。剣士同士の戦い。私はリンネちゃんの剣術大会以外で見たことないから、こんな上級者同士が本気でぶつかり合うとどうなるのか……あまり検討がつかないわ。



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