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306話 必要なものが揃ったのでございます!

「……さて、じゃあどうしようか!」



 王様がその幼げな手をパチリと叩きながらみんなに聞かせるようにそう言った。この私が作り出した最悪な空気を変えるために、わざわざ。



「とりあえず、必要なものがどれだけ揃ったか確認しなきゃね! コハーク、いま僕達の手元にある打倒魔王に必要な人材はどれだけ揃ってる?」

「勇者のガーベラ殿とアイリス殿、お二人ともおりますだの。勇者そのもの、賢者の石そのものが居るため必要なアイテムはなく、全て揃った状態と言えるんだの」

「と、いうわけで、僕達の目標は一つ達成されたわけだよ! やったね! はい、みんな拍手だよ!」



 王様がそういうのでみんな拍手した。あんまり元気のない拍手だけれど、とりあえず。王様はそのまま再び私の方を向きニコニコしながらこう言った。



「と、言っても! 全部アイリスちゃんが持ってたんだけどね?」

「は、はい……」

「正直、こんな早く揃うとは思わなかったよ。当の魔王が出てくるより先だなんてね! でもこうなったらアイリスちゃんは何がなんでも守らなきゃいけないね? もし賢者の石が入ってるってバレたら真っ先に狙われちゃうからね! ね、ガーベラくん」

「も、もちろんです! アイリスのことは、命に代えても俺が……!」

「わかってると思うけど、二人揃って生きてなきゃ意味ないんだからね?」

「そ、そうですよね。頑張ります」



 ガーベラさんが私のことをそんな熱烈に守ってくれると! 私、守られるほど弱くはないけれど、それでも守られてみたいかも。さっきまで自分で死のうとしてた石ころが思うべき内容じゃないけれど……。



「まさか今日さっそく賢者の石が見つかるものだとは思ってなかったから、悪いんだけど、勇者の実力試験の方はまた明日に延期ね! ごめんねみんな、呼び出したのに」

「いえいえ〜〜いいもの見れましたわ〜〜」

「……無意味などでは、なかった……」

「まあ、挨拶はできたしな」

「じゃあターコイズ家と、ガーベラくんは残って! あとは解散ね!」



 ペリドットさん、タイガーアイさん、ランスロットさん、そのほか訪れていた騎士や兵士さん複数人はこの玉座の間を去っていった。あと王妃様と姫様も。姫様はロモンちゃんとリンネちゃんと遊びたがっていたけれど、王妃様にたしなめられると大人しく引き下がっていった。



「さて、じゃあ色々と決めよっか。まずアイリスちゃんをどうするかだね。最優先保護対象だよ」

「そうですな」

「まっ、アイリスちゃん含めターコイズ家の全員がSランク級だからなーんにも心配してないけどね。ただ、住む場所は変えてもらおうかな」

「わかりました、ではどこに……」

「もちろんウチだな。なあママ」

「そうねパパ。リンネとロモンも一緒に来てね」

「「うん!」」



 なるほど、あのお屋敷から城へはかなり近いし、なによりお母さんとお父さんのもとだしそれがベストかしら。普通に見たら単に家族一緒に暮らすだけだけど、それだけで私を十分すぎるほど保護してることになるのは凄いわ。



「ガーベラくんも借家からお城の近くにお引っ越ししてもらうけど、いいかな?」 

「問題ありません」

「その家と土地、そのままあげるから好きに使ってね」

「え?」

「ん? 勇者だし当然の処遇だよ。これじゃ足りないくらい。この件が終わった後もアイリスちゃんとの約束どおり帰ってきてくれるんでしょ? そのままそれなりの地位あげるから、そこに住みなよ」



 とっても王様らしいこといった。ずっとあざとさばかりが目立つ発言や態度だったからちょっと意外。まてよ、たしか私の記憶が正しければお母さん達のお屋敷の二つ隣にある、そこそこの大きさの家がずっと空き家だったはず。まさかそこに……。



「ありがとうございます……!」

「いいのいいの。あとは……うーん、みんな見るからにアイリスちゃんを守る気満々だから特に注意することもないんだよね。あっ、ひとつだけグライドに言っておくことがあるよ」

「はっ、なんでしょう」

「アイリスちゃんがお屋敷に住むからと言って、ガーベラくんがアイリスちゃんをデートに誘いにくいような雰囲気作らないこと! いいね。この二人が付き合ってること自体、僕たちにとってはとっても好都合なんだから!」

「……善処します」

「ジーゼフもお屋敷に寝泊まりしてるでしょ? ガーベラくんにイジワルしちゃダメからね」

「ほっほっほっ、善処すると言っておきましょうかの」



 国王様はもうすでにこの二人が私とガーベラさんが付き合ってる件についてどういった対応してるか見抜いてたのね。ま、まあ大丈夫だとは思う。なんやかんや二人ともオーケーしてくれてるから。ちなみにお母さんは自分のセリフがとられたと感じたようで少しむんずけている。



「もう話すことないんだけど、渡す予定だったアーティファクトとかも今日欲しい? また別の日にする?」



 私が主としていろんなものを渡してきたからか、王様は私に向かってそう言った。今日は、正直もう何かそういう大事なことを考えるのはできそうにない。別の日にしてもらおう。



「申し訳ありませんが、今日は正しい判断ができそうにありません。また別の日に……」

「ん、その方がいいかもね。じゃあこれで今日はお開きにしよう。僕はコハークとやることができたし、それに取り掛かるとするよ」

【……ゾ? どんなことですかゾ?】

「ああ、賢者の石の対処方法を改めたものを書き上げなきゃ。コハークが見せたあの『賢者の石は人間』説が正しかったみたいだから、それに合わせた内容を他の国にも知らせてあげないと」

「たぶん、トゥーンゴーレムに入れ込むのが正解になると思うんだの」

「と、いうわけだから。あ、でも今日は双子ちゃんとアイリスちゃんとガーベラくんはもうしばらくお城にいて。僕が方々に掛け合って早速今日からみんなにお引越して続きしてもらうから」



 私たちも玉座の間から退出した。部屋から出たと同時にロモンちゃんが右、リンネちゃんが左の腕にぴったりとくっついてきて離れなくなってしまった。かなり歩きづらい。



「今日は武器返さないって言ったもんね」

「はい……」

「お料理もダメだよ、刃物使わせないから」

「はい……」

「なんならぼくたちこうして手も使わせないもん」

「は、はい……」



 全て私が悪いためなにも言えない。いや、むしろくっついてもらえて嬉しいのだけれど。

 このお城の休憩室についた。残っていて欲しいとは言われてないお母さん、お父さん、おじいさん達も一緒にいるみたい。たぶん私のことを気にかけてくれてるのだと思う。椅子に座ってもロモンちゃんとリンネちゃんは私の腕にしがみついたまま。ガーベラさんは私のことをじっとみている。



「……あ、あの……ガーベラさん?」

「ん、どうしたの」

「いや、その、ずっと私のことを見てるので……」

「そりゃそうでしょう」

「で、ですよね」



 なんだかガーベラさんはこの場にいる誰よりも私に対して怒っているように思える。また、お母さん達も私の様子を見ていた。どちらかというとまた何か変なことをしないか心配しながら眺めている感じ。……私はもう危ないことはしないと言っても誰もそうは思わないでしょう。私自身、私のことが信用できないから。こうしてロモンちゃんとリンネちゃんに手が塞がれてるのは、実のところ、安心していたりする。

 誰も特に喋らないまま一時間くらい過ぎたところで、王様から引っ越しの補助をするように言われた人達がやってきた。特にガーベラさんは新しいおうちをもらえるわけだから、役所とか業者とか多くの人が関わっていくみたい。私達三人は宿からお屋敷へ移動する手続きだけ。そこそこギルドが遠くなるし、顔を出す頻度が下がってしまいそう。生きているからまたギルドに行こうなんて考えられるわけだけど。

 ……その日は、もうガーベラさんと話すこともなく私達はそれぞれ新しい自分の家に帰った。



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