282話 ついでに武器も試すのでございます!
「Sランク下位の極至種……!」
「極至種は一つ上のランクになると換算してもいいから、アイリスちゃんは実質SSランクじゃな」
え? たしかに単純計算したらそうなるわね。でも今のステータスと特技一覧を見た限りではSランクでちょうどいいくらいだと思うけど。あ、そういえば進化したらレベル1に戻るわけだから普通はステータス下がるのに、今回はむしろ大幅に上がってたわね。……まさかこれからレベル上がるたびにステータスが飛躍的に伸びるのかしら。
「どうする、クロと一戦してみるか」
【い、いえそれはちょっとまだコワイですよ】
「ほっほっほ、冗談じゃよ」
「じゃあベスと本気で試合形式でやってみる?」
【それも遠慮しておきます……】
【ノア、コムスメ 二 ドーカン ダ】
あの黒竜と戦うにはまだ早い気がするし、ベスさんと戦うんだったらお互いただの怪我じゃ済まない気がする。ベスさんもそれを感じ取ったみたい。いくら耐性が高いといっても、あの蟹の魔物を破壊し尽くした重複魔法はまだ耐えられないと思うし、ベスさんは防御力が高いわけじゃないので私の攻撃が通用してしまう。
「さて……ではとりあえず今からいろいろ情報を軽く集めさせてもらおうかな。アイリスちゃんもケルも新種じゃしの。アイリスちゃんは人間態も見る必要がある。とりあえずケルはワシが見よう。アイリスはノアに任せた」
「わかったわお父さん」
「ねーねー、おじいちゃん!」
「ぼく達はどうしたらいい?」
「そうじゃな、ロモンは勉強のためにノアの手伝いをすると良い。リンネもそれでいいかの」
「「わかった!」」
というわけで私達は別室に連れられてこってり調べられた。おじいさんとお母さんが国から時間もらえたのも半ばこれのためだから協力するしかないわよね。だいたい魔物態と人間態合わせて3時間くらいかかったかしら? あと変わったところがあったらロモンちゃんが確認していく感じ。いつも通りね。
書物を整理している途中、お母さんは思い出したように呟いた。
「そういえばアイリスちゃん、ぴったりなアーティファクトを手に入れたのよね? たしか武器か防具なら自由に形を変化できるとか」
「ええ、まだ一回も使ってませんが」
「ついでだし、どんな感じか見せてくれる? とっても興味があるなー」
「そうだね、私達もまだどんな感じかじっくりは見てないし」
「わかりました。ではお見せしましょう」
袋から今は持ち運びやすい短剣状にしてる私の武器を取り出した。ちょっと魔力を流すだけで考えた通りに変形してくれる武器。進化して体積も上がったし、新しく得た特性と合わせて色々できそう。
「これですね。まずはどうしましょうか」
「自分が一番得意な武器って念じたら、その通りにならないの? 漠然としたイメージじゃダメ?」
「ちょっとやってみますね」
お母さんの言う通り、私は自分の一番得意な武器という漠然としたものを指定して魔力を流した。結構そういう注文でも融通が効くのか、手の中にあった短剣がどんどんと別のものに形を変えて行く。最終的には鞘に入れられた長い何かになった。刃物ってことはわかる。でも武器は二つ以上に分けられないはずなんだけど……鞘みたいな付属品ならオッケーなのかしらね?
「アイリスちゃん、それは……?」
「ちょっと鞘から抜いてみますね……」
「うーん、長めの片刃の剣? 珍しい形状してるなぁ……ぼくの知ってる剣と扱う技術が別かも。これがアイリスちゃんが一番得意な武器なの?」
おそらく前世で扱っていた武器ね。名前がわからないけど。今まで私はロモンちゃん達と過ごしてきて、素手か剣か棍棒しか扱ったことがないから初めて触ると武器のはずなのに、とってもしっくりくる。何年もこれで素振りしてたような感じ。
「ちょっと離れていてください。振り回してみます」
「うん、やってみてよ」
私は剣を腰に当てる。柄を持ってスッと透き通るように引き抜き、構えた。一振り、二振り。やっぱり今まで扱ってきた剣より私に合っているのがわかる。足運びなんかも全然違うのに。
明らかにこれは私が前世で培った技術。いや、もしかしたらリンネちゃんとの練習でその前世より実力が上がってる可能性もあるけど、とにかく……この武器なら私の武術の練度と同程度で扱える。
私は素早く、魅せるように剣を鞘にしまった。
「ふぉおおお……」
「す、すごいよアイリスちゃん……なんでそんなに扱えるの……いや、違う。逆なんだね、今までアイリスちゃんが使ってたモノが、アイリスちゃんに合わなかったんだ」
「なんかすごくカッコよかった……!」
照れる。でも流石はリンネちゃん、どういう状況かすぐに見抜いたようね。つまり私は両刃より片刃の方が良かったってことね。いいじゃない、これから人間態の時は徒手とこの剣を使っていきましょう。
「ねぇ、アイリスちゃん!」
「はい、なんでしょう」
「ぼくと手合わせ……しよ?」
「今はダメですよ」
「しよ! しよーよ!!」
「今は室内ですから、また明日から鍛錬を積む時間はあるでしょう? その時に」
「えー! 今すぐがいい!」
珍しくリンネちゃんがワガママになってる。私にこんなにワガママを言ったのは初めてじゃないかしら。子供っぽく(子供だけど)私に抱きつきながら上目遣いでみてくるの。
絶賛成長中の胸が柔らかくて、顔も可愛くてサイコーなんだけど室内で扱う刃物は危ないから断り続けなきゃいけない。
「ダメです、明日ならいいでしょう?」
「今のみて確信したもん! 今のアイリスちゃんなら絶対強い、ぼくと剣術勝負しても拮抗してると思うんだ」
「いえ、それは流石に。リンネちゃんの方が実力は上でしょう」
「それを確かめたいから試合しよ!」
「室内なのでダメなんですって」
「こらリンネ、アイリスちゃんの言う通りにしなさい」
「……うん。ちょっと冷静さを欠いちゃった。ごめん」
怒られて正気に戻ってしゅんとなるリンネちゃんも可愛い。まあでも約束したから明日から剣の練習が相当本格的になるかもしれない。ロモンちゃんがリンネちゃんをヨシヨシして慰め始めたころ、お母さんは二人を抱きしめながら再び私にリクエストをした。
「それで、二番目に得意な武器は何かしら」
「どうでしょう、やってみますか」
「また私たちの知らない武器になったりしてね」
今度は二番目に得意な武器になるよう魔力を込めてみる。手の中にあった剣は、一瞬で槍のような形状に変化した。槍なんだけど、先端についてるのは尖った切っ先ではなく、剣先のようなもの。槍は本来突き刺すもののはずなのに、斬撃に特化した形状をしていた。簡単に言えば、棒の先に鉈をくっつけたみたいな。
「アイリスちゃん、槍も使えるの?」
「でもそれも槍とはまたちょっと違うみたいな……」
「またちょっと振り回してみてよ」
槍とはまた扱いが違う、見た目通り斬ることが目的の動きを私の身体は勝手に始めた。人生で初めて触ったはずなのに動きが染み付いてるのがわかる。さっきの剣といい、このおかしな槍といい、武術の練度といい、私は前世何をしてきたのかしら。
「即実践できるレベルだね……」
「すごいなぁ、アイリスちゃんは、やっぱり」
「次はあれだよ、ついでに魔物の時でも武器を変化させられるかやってみて! できるのはわかってるけど、一応!」
「そうですね、やってみましょうか。超巨大な両手斧辺りでいいですかね」
私はドミニオンゴーレムになり、その体の大きさを活かした巨大な斧に武器を変化させた。普通の人間じゃ絶対持てないようなものが出来上がる。これは単純に強力そう。
「すごい……もうほんと色々できちゃうね!」
「死角なんてないんじゃないかな!」
どうなんだろう。でも、単独でもかなりの相手に対応できるようになったのは強いと思うわ。
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次の投稿は4/16です!
4/10は書籍化した私のもう一つの作品、Levelmakerの2巻の発売日でござるよ!




