267話 プロポーズに対してどうすれば良いのでしょう?
「ってー……」
「ははははは、わるいわるい!」
ちょっと机ひび割れてない? ガーベラさんの額から血が出てたから私は回復魔法を唱えた。……やっぱりあの言葉の続きがとても気になる。Sランクになったら私にお願いしたいことね、本当に何かしら。
「大丈夫ですかガーベラさん」
「俺は頑丈だからね、なんとか」
「……それで、お話の続きをお願いします」
そういうとガーベラさんの収まりかけていた顔の色が再び赤くなった。思ってたより相当シャイなのよね、この人。
「あー、それは、えーっと」
「そういえばアイリスよぅ」
「はい、なんでしょうか」
ギルドマスターがひび割れた机を気にしながら口を開いた。
「ガーベラのやつ、初めてお前のことが好きだって暴露した時もこんな感じだったぜ」
「あ、ちょっ……」
「だからよ、まあ告白の次、しばらく付き合った後のことって言ったらプロポーズなんじゃないか?」
ガーベラさんはついに再び真っ赤になった。必死にギルドマスターの口を塞ごうとしているけど、それは虚しく片手で頭を捕まれてあしらわれてる。その様子を見るに図星みたいね。
……プロポーズかぁ。……プロポーズって、えっと、結婚してほしいって言われるのよね? 要するにSランクになったらそう言われるってこと。あ、違う。今がプロポーズしようとしてて、Sランクになったらそれを受諾してほしいってことか。
「あ、あのガーベラさん。今言おうとしたことがプロポーズだって本当ですか。つまり『いっしょ』というのは『一緒になろう』あるいは『一生側にいてくれ』のどちらかであると」
「は、はい」
「そうですか」
なんて反応したらいいんだろう。まだそんなこと考えてなかった。そもそも私たちまだ手を繋ぐことですらお互いの気持ちが合わないとできないというのに。
「で、でも私たちまだ付き合って半年経たないくらいですよね?」
「ガーベラの実力ならSランクになるのに2、3年程度かかると思うぜ。それだったら頃合いなんじゃないか。こいつもそれを見越して今言ったんだろ」
ガーベラさんはギルドマスターに頭をワシワシされながら頷いた。そうよね、ガーベラさんが先を見据えずにそんなこと言うわけないもんね。
……中央の人がたくさん集まってる辺りがなんだか騒がしい。少し耳を傾けてみた。
「で、あの三人はなんの話をしてるの?」
「ああ、まずガーベラの野郎がAランクに上がったらしい。それから調子乗ってその場でアイリスちゃんにSランクになったら結婚してくれとプロポーズしたみたいだ」
「な、なななな、なんだと!?」
「もうワンチャンスあると思ってたのに!」
そんなすんなり話は進んでないけど、概ねあってるわね。ガーベラさんも盗み聞きされてたのを気がついたみたいで、真っ赤なまま渋い顔をしている。とりあえず私はどうしたらいいのかしら。お返事を言えばいいのかしらね、それでいいのよね?
「あ、アイリス!」
「はい!」
「その、そういうことなのにちゃんと言えなくてごめん。ただちゃんとしたプロポーズはSランクになったらしっかりとするから、その時に答えを聞かせてほしい」
いつのまにかギルドマスターに喝を入れられたようで、背中を痛そうにさすりながらガーベラさんはそう言った。そうね、混乱してるいまお返事を出すわけにもいかないし。こんな大事なこと。
「わ、わかりました」
「……うん」
「なーにが『うん』だ。お前、告った時といい誰かがきっかけにならないと大事なこと言えないのか」
「あ、アイリスの前だと何故か……」
「それだけ本気ってことなんだろうけどよー。仕方ねーな、ちょっくら男の度胸の出し方ってやつを教えてやるか」
「ぐおっ。じ、じゃあアイリス、そういうことだから!」
ガーベラさんはギルドマスターに連れ去られていった。ジエダちゃんやその他の女冒険者達がニヤニヤしながら私のもとにやってくる。なんだかめんどくさいことになりそうね。
◆◆◆
「アイリスちゃんがボケーってしてる」
「昨日、ガーベラさんと何かあったんだね」
あれからいろいろいじられて、深く考える暇はなかったけど、家に帰ってきてから寝るまでの間にことの大きさを再認してしまった。もちろん眠れなかった。
正直私は武術の腕っ節には自身がある。彼はそれを乗り越えた。私たちと同じ時期に冒険者になった。もうAランクだ。だから二、三年でSランクになるっていうのもほぼ必ずこなしてしまう。その時になったらガーベラさんはきちんとした形でプロポーズしてくれるんだろう。……あの様子見てたら心配だけど。
「はー……」
「いつもよりため息が深いよ」
「喧嘩したのかな?」
「えー、ガーベラさんって話を聞いてる限りじゃアイリスちゃんのこと優先させてるからそれはないよ。それにアイリスちゃんだってそういう性格だし……喧嘩なんてしないんじゃない?」
「やっぱりそうだよね」
そうなのよ、私のこと優先してくれてるのよね。なにもかも。ただそのプロポーズを受けるとなると……ロモンちゃんと離れなきゃいけなくなる。それに自分自身生まれて二年未満ということもあるし、不安というかなんというか。
「ねー、どうしたのアイリスちゃん」
「話してよ、心配だよ」
ロモンちゃんとリンネちゃんが後ろから覆いかぶさってきながらそう言ってくれた。ケル君も寄り添うように足元に居る。顔を見るに心配してくれてるみたいだ。
「実は……」
私は昨日あった出来事をロモンちゃんとリンネちゃんとケル君に話した。流石に全員驚いてる。
「ほぇ……」
「はぇ……」
【たしかに男としてどうなんだって言ったけど、行動の変化が大振りなんだゾ……】
目をまん丸くしたまま動かない。三人でこの反応なんだから、これはお父さんに相談したらあの人に殴り込みに行きそうね。それにしてもケル君は一体ガーベラさんになにを吹き込んだんだろう。多分本の受け売りだろうけど。
しばらくして驚愕した状態から回復したロモンちゃん達が質問をしだした。
「もうそんな仲まで進んでたんだね」
「キスもした?」
「し、してません。皆さんご存知の進展度です……」
「ガーベラさんの気が早すぎるんじゃないの?」
「でもぼくが男だったらアイリスちゃんみたいないい子、さっさと結婚して手放したくないなー」
「たしかに!」
なるほどそういう考え方もできるのね。もしそうならガーベラさんにとって私はいい彼女できてるのかしら? この数年で一気に関係も縮めるつもりなのかしらね。
「それにしてもアイリスちゃんが結婚したら私の仲魔じゃなくなるよね」
「そ、そうなりますね。本格的に人として暮らすので」
「寂しいなー。……でもアイリスちゃんのことだから、結婚のことでため息ついたのはこのことも大きな悩みの一つなんでしょ」
「その通りです」
ロモンちゃんは優しく微笑みながら私の背中に抱きついてきた。胸が柔らかい。あ、いや違う。なんだか優しい感覚がする。
「アイリスちゃんが私の仲魔じゃなくなるのは悲しいし寂しいよ、初めての仲魔だもん。でも離れ離れになるわけじゃないでしょ?」
「そうそう! アイリスちゃんって、まだ正式に人間として役所に登録してないよね?」
「え、ええ。人権が認められ、魔物として扱われなくなりますから。仲魔ではなくなりますし……」
だから私は人型での活動が一番多いけれど、実は一人では宿を借りたりすることもできないし旅に出ることもできない。それに冒険者として登録もしておらず、扱いは魔物のまま。私にとってはそれでよかったんだけどね。
「だったらさ、ガーベラさんと結婚することが正式に決まったら、社会的にも人になってうちの養子だったってことにすればいいんだよ」
「ただのアイリスちゃんからアイリス・ターコイズになるわけだね。ぼくたちの……妹? ってことになるのかな」
【見た目の年齢的には姉なんだゾ】
「ま、そこはなんでもいいんだけど。お父さんとお母さんも反対しないって!」
そっか、そうよね。結婚して魔物をやめるなら一緒にターコイズ家の養子になれるのよね。そしたら肉親ってことで繋がってられるし。……ロモンちゃん達と離れる不安がなくなったら、あとは私の覚悟だけよね。
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