257話 一体何事でございますか?
「ただいまです」
「おかえりなさーい」
「デート楽しかったぁ?」
【今日はどこまで進んだのかゾ?】
双子とケル君がニヤニヤしながら迎えてくれた。
いつも通り楽しかった。デートをするたびに彼のことが好きになっていくような気がする。たぶん。
今回はガーベラさんの好みの箇所が見れるような服を着るという初の試みをしたけど、それが成功だったかどうかわからない。どっちにしろいつも私のことをよく見てくれてるし、そんな変わらなかった。
好みのところに注目していたかどうかなんて、普通なら本人にしかわからないことよね。
「アイリスちゃん見てると私達も誰かとお付き合いしたくなるよね」
「うんうん。お父さんみたいに強くて顔も立ち振る舞いもカッコいい人どこかにいないかな」
「そうそういないよー」
完璧な人なんていない。そのうち妥協ってことは覚えなきゃいけないわよね。私だってガーベラさんのことは大好きだしイケメンだと思うけど、玉の輿っていう条件は叶ってないし。それでも十二分に幸せ。
「さ、アイリスちゃん。続きはお風呂で聞くよ。言われた通り夕飯は食べ終わってるから、お風呂入れば寝れるんだ」
「そうですね、入りましょうか」
脱衣所に入ればバサバサと双子が服を脱ぎ捨てて行く。
ふー、眼福。相変わらず二人の裸体は見てて幸せになるわ。今日はうまくお触りできるかしら。
「えいっ!」
「ひゃう!」
だいたいいつも、私の理想とは立場が逆になるんだけどね。でも二人の細っこい指に至るところを触られるのももう慣れたし、むしろ気持ち良く感じる。
「あれアイリスちゃん、胸、少し大きくなった?」
「ほんとですか?」
「どれ、ぼくにも触らせてよ」
「ひゃぅう!」
「微妙だけど、頻繁に触ってたらわかるくらいの差はあるね」
まさかまだ成長していたとは。つい先月までそんな兆しなかったのに。彼が私に魅力を感じる箇所が首回りだとわかったから、今より大きくなられても特にメリットはないんだけどな。
「ぼく達ははっきり確実に大きくなってるけどね!」
「目指せお母さん!」
「触れてみても?」
「「いいよー」」
柔らかくてスベスベで至福である。
リンネちゃんのいう通り、成長期の二人はちゃんと成長していっている。この前まで少し不安だったけど今の調子なら二十歳になる頃にはお母さんに近い大きさになってるかもね。
「ふぃー、いいお湯だった!」
「やっぱりお風呂は大切だよねー」
「全部の馬車に完備してほしいよねー」
「ねーっ」
お風呂から上がったら、あとは双子に挟まれながら眠るだけ。彼氏とデートを楽しんで、帰ってきたら可愛い双子とお風呂に添い寝……こんな贅沢は他にないでしょう。ぐへへへ。
【おやすみなさいゾ】
「「おやすみーっ!」」
「おやすみなさい」
私達はそのまま眠りについた、いや、つこうとした。
部屋の戸をノックする音が聞こえてくるまでは。
「なに、だれ?」
「私が出ます」
こんな夜中に誰だろうか。たしかに寝る時間としては一般家庭よりも早いかもしれないけれど、それでもこの時間に尋ねてくるのは非常識。
もっとも私達の元を尋ねてくるなんて、両親やおじいさん、ガーベラさん、お城と国に勤めてる人たちくらいだから邪険にできないのよね。
今回はその中のお城に勤めてる人たちだった。
「お城の兵士さんですね。こんな夜中にどうかされましたか?」
「騎士団長の娘さん達殿、夜分に申し訳無い。オーニキス様は来てないか?」
「オーニキスさんですか?」
来てるはずがない。たしかにあの人は一回だけこの部屋に上がっていったことはあるけども、ここ最近は本人の顔すらも見てない。何かあったのだろうか。
「いえ、訪ねてこられてませんけど」
「じゃあ最近どこかで見かけたとか」
「いいえ、最近魔王軍幹部を討伐しましたが、その前後にもあの方の姿は見てませんね」
「そうか……」
「あの、もしかして姿が見当たらないとか?」
そう訊くと、兵士さんはバツが悪そうな顔をして頷いた。国の重役一人がどこか行ってしまった、それって一大事よね。しかも魔王軍幹部の対策を一番仕切ってる人だもの。
「昨日から所在が分からない。総騎士団長様と貴女方が魔王軍幹部を捕獲し、其奴の身体を地下室に置いた後から見当たらないのだ。いつのまに消えたのか」
「置き手紙などもなかったのですか?」
「ああ、ほんとに、忽然と。オーニキス様が当日に帰ってこられなかったので、こうして魔王軍幹部対策の関係者や騎士団長様方始め位がある方々に話を聞いて回っている」
どうやらなんの脈絡もなく消えたという話で間違いないみたい。まさか魔王軍幹部が数人集まって連絡取れる状況にあり、オーニキスさんが指揮をとっていることがバレて誘拐されたとか?
その可能性は大いにあり得る。寝ている場合なんかじゃない。
「話はよくわかりました。私も捜索に協力しましょう」
「有り難い、と言いたいところなのだが魔王軍の幹部討伐は一応、対魔物であるから冒険者である貴女方に協力を要請しているのであり、重役の失踪は城と国の問題。できる限り我々でなんとかしろというのが上からの命令だ」
たしかに国の兵士や偉い人は冒険者に内情にまで関わられるのは嫌ってる節があるって噂で聞いたことがある。威厳とかもあるし気持ちはわかるけど、そういうこと言ってる場合じゃないと思うの。
それに少なくとも私達は部外者とは言いにくいと思う。
「なるほど。ですが私達は全く関係ないわけではないですよ?」
「言いたいことはわかる。騎士団長様方の実の娘達であって無関係者ではない。しかし、おそらく例外ではないだろう。もしかすると後々協力要請をするかもしれぬので、その時に頼む」
「了解しました……」
「では失礼した。なにか情報を得たらすぐに誰かに伝えて欲しい。貴女方のお父様でもお母様でもお祖父様でもいいのでな」
そう言うと、お城の兵士さんは軽く頭を下げてから玄関から去っていった。
寝室から顔をのぞかせて一部始終を聞いていた二人と一匹が心配そうな表情を浮かべて私の元に駆けてくる。
「大丈夫……なのかな?」
【いや、どうであろうと只事じゃないことだけは確かなんだゾ】
「おじいちゃんの特技で探せばすぐに見つかったりしないかな?」
「それは今後検討するのではないですかね」
でももしオーニキスさんが見つからなかったとして、そのあと誰が指揮をとるのかしら? 単純に考えておじいさんだろうけれど……。とりあえずあの人の無事を祈るだけね。
国の重役がいなくなるなんて、魔王軍幹部の討伐が滞る以上に城内は大騒ぎだと思う。こうなったらお父さん達はまたしばらく大忙しになりそう。とくにロモンちゃんの言った通りおじいさんの特技が使われたりするかもしれないし。
何はともあれ今は私達に出来ることは少なすぎるでしょう。だから今日はもう寝てしまおう。
「とりあえず今日は寝ましょう。明日以降は予定がないんです、頼りにくるかもしれないので最低一人はここで待機するようにしましょうか」
「そだね……」
私達はベッドに潜り込んだ。
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