201話 蜘蛛vs.お父さんでございます!
「まさかあの人、グラブアのこと好きなのでしょうか?」
「そういうことじゃないかな?」
「ちっ……違うよっ! 断じて違う! た、確かに顔はかっこいいけど……あいつ」
口ではそう言ってるけど、行動がわかりやすい。
こりゃ完全にほの字ですな。あの男のどこが良いんだか。……まあもし、わたしを襲った以前の性格が本当の性格だったとしたら良い人かもしれないけれど。
「でも私のこと騙して強姦しようとする輩ですしねぇ……」
「そ、それは魔王様のためだからっ。……お、襲われたのかお前」
「ええ、こう…胸を揉まれて……」
嫌な思い出だ。
しかし彼女は自分の胸を触ると、涙目になりながら叫んできた。
「ば、ばっかやろーーっ! 揉まれるだけいいだろ! これだから持つ者は持たざる者の気持ちがわからないってよく言うんだ!」
「そうだそうだ!」
「あなたはちょっと黙ってなさい」
お姉さんまで参加してややこしいことになったけど、嫌なものは嫌だしね。
ちょっとロモンちゃんとリンネちゃんに聞いてみようかしら。
「……普通に嫌ですよね?」
「うん、嫌だよ」
「絶対やだね」
「「ねーーっ」」
好きな人相手だからそんなこと言えるのね。私も彼なら……えーっと、なんでガーベラさんが出てくるんだろう、違う違う。うーんと…。
とにかく嫌なものは嫌なのよ。
それはそうと、今なんだから一つ、影が見えたような気が……。
「ふーっ、ふーっ、つい叫んじゃったっ」
「……なんの話してたのかな?」
「だから、胸の……うわぁ!」
アルケニスの真後ろからカッコイイおじさまが一人現れた。ちがう、お父さんだアレ。後ろから驚かされた彼女は前に飛び上がった。
なるほど、さっきの黒い影はお父さんだったのね。
「「お、お父さん!!」」
「「団長!!」
「呼ばれたから来たよ。叫ぶ声が聞こえたからすぐわかった……まあ、距離が真反対だったから少し時間かかっちゃったけど」
お父さんが来たならこれでもう、何の問題もなく勝てるでしょう。こちらに彼女のそれぞれの特技に対応できる人材がおり、なおかつメイン戦力が来たのなら負けるはずがない。
「この女の子が蜘蛛の半魔半人か」
「が、ガキ扱いするな! お前よりおそらく年上だぞ人間!」
「あ、お父さん、アイリスちゃんの予想通り魔王軍の幹部だったよ」
「自白したし、過去の幹部の名前に反応したもん!」
残りお姉さん二人もウンウンと頷く。
敵対しており、魔王軍幹部である彼女は鎖鎌を構えなおした。しかしお父さんは別の場所を注目する。どうやらケル君が気になるようだ。
「そのバチバチしてるの、もしかしてケル君かい?」
「うん、新しい技を覚えたの!」
「いつのまにか知らないうちに随分色々と事が進んだみたいだね」
【あれ、いつのまに来てたんだゾ?】
お父さんは二本の剣を鞘から抜く。
それを見てアルケニスは警戒するように鎖鎌をいつでも投げられるようにした。
「村を滅ぼしたのはなぜか聞いてもいいか? 死人もわざと出さなかっただろ」
「そ、それはそいつらにもう話した。死人が出さなかった理由は目的のため、その方が効率が良かったからだ」
ここは私の出番かしらね。
覚えている内容をしっかりと話さないと。
「お父さん、彼女はサナトスファビドのギフトの時どうよう、人間を苦しめることで絶望を集めているようです。死人を出さなかったのはその絶望の源を残しておくためでしょう」
「なるほど……あの時もすぐに殺さずに毒でじわじわ嬲っていくやり方だったからな。タチが悪い」
私が被害を受けた時は信頼させておいて一気に落とすみたいな感じだったけれどね。集め方は幹部それぞれなのかも。
「……ボクはずっとお前らを観察していた。グライド騎士団長、お前は強い」
「たとえ君が女の子みたいな見た目をしていても……私は倒さなければならない。なにせ、大勢の団員が切り刻まれたんだからね」
お父さんは彼女に切っ尖を向けた。その刀身は森の木々を映し出し、輝いている。よく手入れされているのが一目でわかる。
「そうだ、ボクは本来、罠を貼っておくのが戦闘スタイルなんだ。アレは効果があった。でも今は仕掛ける暇なんてなかったから罠なんてない。そして単身でボクとやりあえるだろう団長さんと、娘達……あまりにも部が悪すぎる。ボクは逃げさせてもらうよ!」
アラクネスは獲物から手を離し、即座にスペーカウの袋製だとあかるポーチに入れると、手を木々の方に伸ばし、そこから蜘蛛の糸が噴出された。
またターザンロープを使う要領で逃げて行く気なんだろう。
「あの糸で木から木へ移動していたようです。音もそんなに大きくないですし、大探知より強い隠密を持っているなら見つからなくて当然でしたよ」
「どうやって見つけた?」
「ケル君がお鼻で」
「はっはっは、相変わらずすごいなケルは! 撫で……おっと」
【今撫でたら危ないゾ。それよりあいつを捕まえなきゃ!】
「それなら任せてくれ」
ケル君を見ていたお父さんが、いつも通り一瞬にして目の前から消えた。補助魔法はかけていない。リンネちゃんて今、装備や補助魔法もフルならこのくらいの速さなのよね? 確かならば。
側から見たら、早すぎて目に追えない。
「うわあああああああっ!?」
アルケニスがこちらに吹っ飛ばされてきた。ちょうど私の目の前に落下する。
そして何食わぬ顔でお父さんは私たちの前に瞬間移動のように姿を現したの。
「これでもう逃げられないことがわかったか?」
「くっ……リスシャドドゴドラム!」
「断斬」
彼女が放った闇色の土の礫をお父さんは高速の斬撃で全て叩っ斬ってしまう。断斬って結構大振りな技のはずなのにお父さんったらまるで連続技のように次々と放っている。
「……意味はない、降伏しろ」
「降伏したらどうなる? 二人のように何かされるにか決まってる! そう聞いたんだ! 何をされているか言え!」
「あー……それは」
お父さんは私の方を見た。冷凍保存をしていっているのは私だから説明をして欲しいらしい。
「くそう、グラブア……どうしてるんだ……」
「あの二人は仮死というやつでして。冷凍して保存しているんです。とても厳重にね。いつでも生き返らせることができますよ」
「なんだって!?」
飛ばされ打ち付けられてからずっと地面に転がったままだったアルケニスは飛び上がり、私にしがみついてきた。
そして素早く両手から糸を出し、拘束する。
「教えろ、場所を! 二人とも……特にグラブアは生き返らせる!」
「アイリスちゃん!」
「大丈夫ですよ、どのみち彼女は私を殺せないのですから」
「……そう言えばそうだったね」
「どういうことだ!」
私は答えてあげることに。
そう、私を殺したりしたらもっと悪化するということを教えてあげなくちゃね。
「その二人は私がある意味封印したようなものです。私にしか解けません。また、私を殺してしまえば二度と二人は解放されることはないでしょう」
まあ、ただ単に闇氷魔法で凍らせただけだから封印も何もないんだけどね。私か私を上回る力を持つ人しか解けないのは本当。でもそのあとその本人の血を輸血しなくちゃ行けないし。
ふふふ、この人には私がすごく見えるように色々と話してきたわけだから、簡単に信じてしまうと思うわ、封印したって点は。
「……っ、ならお前を誘拐するまで!」
「この場から逃げられもしないのに?」
「………くっ」
よしよし、この調子この調子。
戦闘において相手の心を乱すのは基本よね。
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