200話 蜘蛛と炎犬でございます!
「ケル君、ありがとつございま……ん?」
「さすがケルっ……え?」
「さすがケルっ……む?」
ケル君によって助けられた私たちは、アルケニスっていう娘が叫んでいたのもあり、あの子のが何をしたのか気になってそちらを向いた。
ケル君が居たはずの場所に立っていたのは、あの子と同じサイズの火だるま。
犬の形に炎が立ち登っている。
「なんだい、それ……」
【それよりみんな大丈夫なのかゾ? 首をぎゅーってされたんじゃないかゾ】
「それはケル君のおかげで助かりましたが……何ですかその姿は」
やはり炎塊はケル君のみたい。とてもじゃないけど、今のケル君は抱き上げてなでなでしてあげたりしたくない。
ケル君はえっへんと言いたげな態度を取りながら話を続けた。
【オイラ、ずっと考えていたんだゾ。炎牙や炎爪は魔力をその部位に流し込んで炎の属性を発動させるんだゾ】
「ええ、魔流の気を扱えるからこそわかることですね」
【だから簡単な話なんだゾ、纏っている自分の魔流の気を全て炎属性に、属性技と同じ要略で変えてしまえばいいんだゾ!】
いやいやいや、考えたからできるだなんて芸当じゃない。全身で一気に属性技を使うのと全く同じ意味なんだけど。
かなりの高等技術なはず。
ケルくんの脳みそがいよいよどうなってるか分からなくなった。
「じゃあそうしたら。炎の塊みたいな姿になったってこと?」
【その通りなんだゾ! あと、多分ほかの属性もいけるゾ……ほらできた!】
纏っていた炎を消すと、今度は全身に電気を纏った雷塊となった。触れただけでダメージを与えられることは間違いない。
「い、一体いつ覚えたのそんなの……」
【考え自体は前々からあったけど、やってみたのは初めてだゾ】
しかもぶっつけ本番か。この子はもう私の扱える範疇を超えてしまったんじゃないかしらね。
例えばこの魔法の応用のよさは母親ゆずりだったり。
「は……ははは、そんなバカな……ど、どうみたってその子はまだ高くてDランクじゃないか! なんでそんな芸当ができるの!?」
「この子は天才も天才、大天才なんですよ……ランクはそれで当たっていますがね」
「へぇ……ボクを見つけたのもその子だし、ボクのあの技を単独で突破したのも、Sランクの魔物以外じゃ初めてだ! ……よし決めた!」
アルケニスは鎖鎌を再び回し出す。なんだか嬉しそうにニコニコ笑ってる。
「その子は連れて帰る! ボク達で育てて、そのうち幹部の一人にするんだ!」
「だ、ダメだよっ!」
「知らないよ、そーれっ!」
【ゾッ!?】
ケル君はうまい具合に空中を蹴って鎖鎌の鎖を回避した。……ん? 空中を蹴って回避した?
「今ケル君、リンネちゃんやお父さんと同じ技を使いませんでしたか?」
「うん、確かに使ってた……」
【え、どうにかしたのかゾ?】
なるほど本人が気がついてないとなると今のは無意識でやったのか。この戦闘が終わったらもう次に進化するだなんてことはないわよね?
「む、なんでかわすの?」
【オイラ別に魔王の手下になりたくないんだゾ】
「そんなに才能があるのに、人間の下僕のままでいいのかっ!」
【うん、それでいいんだゾ】
「ケルっ……!」
ロモンちゃんはケル君を思わず撫でようと少し歩を進めたが、手を伸ばしたところでピタリと止まった。
そう、ケル君は私たちに試しに雷を纏ってみてからまだそれを解いてない。
「け、ケル君、それは解かなくていいんですか?」
【別にいいんだゾ。あいつがまた糸でぐるぐる巻きにしてくるかもしれないから!】
「くっ……ってことはボク、毒も糸も封じられたってことか……」
蜘蛛の魔物としての武器をかなり封じることができたのね。ふふふ、これは有利。
「……とまあ、そのくらいSランクに満たない君達ならなんて事ないんだけどね。……くらえ、リスシャドビュウラム!」
彼女がそう唱えたら、黒い風が吹き荒れる。
魔王軍幹部は今まで例を漏れずに最上級魔法の闇属性付与を使ってきていたものね、そりゃアルケニスも使ってくるか。
自由に形を形成できる最上級魔法で作られた闇の風は、彼女自身の周りを渦巻いている。一応顔は美人だし、スカートじゃないのが惜しい……じゃなくて、自分の周囲にだ魔法を放って、なにをするつもりなのかしら。
「ふふふ、しねぇ!」
鎖鎌を振り回したと思うと、なんと鎌の方を振るってきた。鎖鎌って分銅で絡めて引き寄せてから斬るのが本来の使い方なんだけどなぁ……まあいいや。
無限に伸び、拘束性が高い鎖鎌に風魔法を纏わせたコンボ……をすることが狙いだったみたい。
なるほど、確かにこれは厄介ね。見ることができるカマイタチのようになるはず。
素早く連続して魔法ダメージも斬撃ダメージも与えてくる上に拘束されないようにしなくてもいけない。
相当難しいこと。でもね、こっちにはそういうことが得意なリンネちゃんがいるの。
「……あ、あれ? 誰もダメージ受けてない…なんで?」
「ふっ……ぼくの素早さを舐めてもらっちゃ困るよ!」
そう、リンネちゃんは風魔法を回避しつつ、素早く乱れた攻撃をしてくる鎌をすべて剣で弾き、蜘蛛の巣のような鎖は魔法や気で遠ざける。
それに加えてロモンちゃんの盾のバリアで余すことなく攻撃は防ぐからダーメジなんて受けるはずもない。
もし二人の連携が失敗しても私がゴーレムになって防げばいいだけだしね。
「す、すげぇ、さすがはあのお二方の娘……!」
「「えっへん!」」
しばらくして闇風魔法は止んだ。アルケニスの手元に鎌はもどる。なかなか激しい攻撃だったようで、私たちは無傷だけど周知の木々は軒並みズタズタになっていた。
「あーくそっ。無駄に強いんだから……そもそもお前、ボクとキャラ被ってるのが腹立つんだよ!」
な、なんという言いがかり。
でも。
「え、ぼく? そんなこと言われても困るなぁ……」
確かに言いがかりだけどね、それはみんな思ってたと思うの。
黒髪と水色髪っていう明確な違いはあるけど。
「さらに可愛いのもなんか腹立つ!」
「えへへ。顔ならそっちだって」
「え? ……ふふふ、そりゃボクは可愛いさ!」
わ、私は一応リンネちゃんの方が可愛いと思う。いや、そんな和んでる時間はないって。
「お二人とも、お話はよろしいですが一応戦闘中なので……」
「あ、そうだった!」
「くっ、ボクとしたことが!」
二人は武器を構え直すの。
……リンネちゃんに似てるし、私たちと相性のいい技しか持ってないからと言って、村を壊滅させてるんだからやはり許してはダメなのよ。
「……君とその子のせいで逃げられそうもないし……。倒すのも困難。これはかなりボク、やばいのかもしれないな」
「その通りです。大人しく諦めて私たちに捕まりませんか?」
「そんなバカな。魔王軍幹部の中では弱い方だけど、人間に捕まる気もないさ。プライドもあるし、それに捕まって殺されるなら意味ないよ」
そういえば今まで魔王軍幹部は完全に殺してはいないわね。そのことを伝えたら捕まってくれるかな?
「実はそのことなんですが、グラブアもギフトも一応生きてはいるんですよ。一応、ね」
「ふ、二人に一体なにをしてるんだ……! ぐ、グラブアをかえせ!」
「グラブアだけですか? ギフトは?」
「……ギフトはいいや、グラブアはかえせ!」
「グラブアってあの蟹の魔物だったやつだよな? ……なんでそいつだけで良いんだ?」
おねえーさんの一人がそう、何気なくで言った。
そのはずなんだけどアルケニスはそれに反応し、顔を赤くする。え、まって、そういうこと?
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