199話 vs.蜘蛛でございます!
「そっか……ただ単に回復…、僧侶を呼んだだけだと思ってたけど、本当はボクを倒すためだったのか」
「そういうわけです。運が悪かったですね、おそらく、騎士団長の次に見つかってはいけない人物でしょう。貴方にとって私は」
しかしこうやって改めて対峙してみればわかる。やはり今まで通り、敵は強い。
私一人じゃまず、倒すことなんて無理でしょう。
口先では強いこと言ってるけど結構内心ビビっているの。
「……逃げるのも無理そうだね。あの騎士団長の娘だっけ、ボクより動きが早い。じゃあもうやることは一つ。殺すしかない」
彼は武器を構えた。
黒く禍々しい見た目の鎖鎌。鎌の柄の、蜘蛛みたいなな赤い斑点が目立つ。そして鎖鎌…のはずなんだけど、どうやら鎌と分銅のあいだを、白い何かでつないでるみたい。少なくとも鎖ではないわね。
今までの幹部からしておそらくまたアーティファクトなんだと思う。
ギフトのダガーはきったものを腐らせる効果が付いてた。グラブアの盾剣は多分、盾と刀身のなんなでも粉々にする破壊力。
だとしたらアレも何か強力な効果がついてるはず。
「みなさん、警戒してください。あの武器になにかしら強力な効果がある可能性が高いです」
「その通り……さ、それっ!」
分銅を私に向かって投げつけてきた。でもその飛んでくる軌道がおかしい。
とりあえず私はそれを回避。
「ははは! かわしても意味ないさ!」
「なっ……!」
なんと分銅が空中で突然方向を変え、私に向かってくる。なんとか反応が間に合って回避できたけど……なるほ
ど、これはあぶない。自由自在に動く分銅か。
「んっんー、だから回避しても意味ないんだよ」
「確かに追尾してくるようですが、これくらい回避するのは……」
「追尾だけだと思った?」
そういえばさっきから鎖の代わりの、白い糸が途切れる気配がない。私を追ってきた軌跡をずっと描き続けてる。無限に伸びるの鎖(仮)も効果の一つってことね。
だんだんと回避しにくくなって……。
「つかまえたっ!」
「なっ!」
気がつけば私は白い糸で拘束されていた。確かに全部回避したはずなのに。よく見てみれば、その白い糸がひとりでに畝っている。
となると……分銅が追尾してくるという考察は間違っていて、この武器の効果の正解は……。
「自分の意思で動かせるのですか、その白い糸は」
「あたりだよ。あと糸じゃなくて白い鎖さ。このまま締め付けられて死ね」
「ぐぅっ!」
「アイリスちゃん!」
やばい、吐きそう。
ちょうど胃の部分に鎖がきてて圧迫されている。ここから抜け出す方法は何かしら……?
深く考え始める前に、リンネちゃんが私の目の前に現れて、鎖に斬りつけた。
「くっ、斬れない!」
「無理だよ。ボクの糸と同じで刃物で斬れやしない」
「じゃあ燃やせば……ファイ!」
今度はロモンちゃんが私に向かって唱えてくれた。しかし、鎖の一部が、ファイを遮るように壁になり、私のところまで来るのを塞いでしまう。
「火に弱いのは知ってたんだね。でも残念、この鎖はその弱点も補ってるんだ」
「ちくしょう、どうすれば!」
【まあ、アイリスなら大丈夫なんだゾ】
ケル君が特に気にしてない様子でそう言った。……そうだった、私、前回は失敗したから忘れてたけど……幼体化したら拘束なんて簡単に抜け出せるんだったわね。
「潰れろ! ……あれ、感触がない…?」
「うぷっ……ちょっと吐き気がします……」
「なっ……どうやって抜け出した!」
幼体化することで幼くなって拘束を抜け、そしてまた一瞬で大人の姿に戻る。
私が半魔半人でよかった。
「秘密です。さ、続きをしましょうか」
「厄介だな。まともに相手なんてする必要もないし……くらえっ!」
彼は鎖鎌の糸を全て元になるように縮めさせつつ、頬を膨らませ、何かを吐き出してきた。
私の代わりに吐いてくれたのかもしれない。
もちろんそんなことは冗談で、その内容物は全て毒。
毒の雨が私たちに降りかかった。
「ぐぅ…あああああ!」
「みんな、だいじょ……うぐぅ…」
「ロモン! ……あれ、なんでボクは平気なんだろ」
【ゾ………ゾ……】
これが言ってた毒か。
姿は確認してないみたいだったし、どうやって毒を使うってことを記録したのか疑問だったけど、なるほど、こうやって毒を霧や雨のように散布すれば上から振りかけられるし、罠にも使える。
ステータスを見てみると、猛毒(中)と書いてあった。リンネちゃん以外はみんなこうなってると見たら……数時間放っておけばほぼ全滅だ。
「みんなっ……」
「なんでお前はボクの猛毒が効かないんだ!」
「ぼ、ぼくもわかんないよ!」
リンネちゃんに毒が効かない原因はなんとなくわかるけど、とにかくそれを考えるより今のうちにみんなを回復させなくちゃ。
私は全員にリスペアラムを唱え、完全に毒を消し去った
。これ他の部隊だと全滅だったわね。あぶないあぶない。
「ふぅ……びっくりしました」
「……お前も効かないのか!?」
「私は解毒しただけです、全員を」
【ゾー、毒、初めて食らったんだぞ。なかなか苦しいんだゾ】
「くっ、こいつらに毒は意味ないか……」
ふふ、攻撃手段を一つ減らしただけだでも戦いやすくなる。リンネちゃんのは予想外だったけど、なんにせよ私がいれば状態異常は怖くない。
「なんでぼく……」
「リンネちゃん、おそらくサナトスファビドと戦って最高位の毒をくらった時、他の毒に対する耐性がついちゃったんですよ」
「……ほんとだ、今ステータスに毒無効ってのが追加された」
飛んだ副産物ね。まああれだけの苦しみを体験してて何も得てないなんてことはないか。
「ふっかーつ! さあてどうすんだい、魔王軍の幹部さんよ!」
「はぁ……こうなっならアレしかないかな。疲れるから嫌なんだけど」
彼は両手を広げ、魔力を練り始めた。
「……何か必殺技を放つつもりね?」
「みんな、警戒するんだ!」
「警戒しても無駄だよ」
瞬間、彼のすべての指先から白い糸が無数に噴出された。捌き切れないほどの数の多さ。
それらは私たちをまるで包帯巻きでもするかのように絡めてゆく。
あっという間に簀巻きされたように身動きが取れなくなった。
「今からその糸がお前たちの頭と首を締めつける。そうすればこの糸の弱点である炎も使えまい」
そう宣言されるなり、本当に糸は私を締め付けて着た。
……くるしい、ゆっくりと、ゆっくりと締め付けられてゆく。人は集中しないと魔法撃てないという弱点をうまくついてる攻撃……ね。
いや、そんな褒めてる場合じゃない。
どうやらケル君やお供の兵士二人も同じことになってるみたい。
「あはははは、無様だね! このボクに逆らうからこうなるんだ! 冥土の土産に名を名乗ってあげよう。ボクの名前はアルケニス。魔王軍幹部の女帝、クィーンプリズンスパイダーのアルケニス!」
そう言ってわかりにくかった顔の周りの布物を全てとった。ああ、確かに女の人だ。
胸もないしボクって言ってたから気がつかなかったわ。
………もう、意識も朦朧してきて……そんな間にこう考えてしまうのもなんだけど、短髪も含めてリンネちゃんとキャラが一部被って…る。
【ゾ、通りで男の人の匂いがしなかったんだゾ!】
ケル君の念話が聞こえた。
……念話? 念話も意識を集中しないとできないはず……。私と同じように縛られているはずなんだけど。
「な……お、お前、お前は何者だ!」
【オイラはケルだゾ。犬の魔物なんだゾ】
「嘘をつけ、なんだその姿は……!」
【それに答えるのは後だゾ。まずはみんなを助けなきゃ!】
ケル君がそう言うと同時に、私の体を炎が包み込んだ。
糸が焼け切られ、拘束が解かれる。
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