186話 調査のお手伝いでございます!
「えへへ…あ、そういえばケルもいろいろあったんだよ」
「なに、ケルもか。もう二人の仲魔になってるんだったな。お昼寝しかしていなかった頃とはもう違うか?」
「うん、全然違うよ。ねー、お姉ちゃん」
「うん、全然違う」
「どんな感じだ」
二人は仲魔になってから今までのケル君の活躍や覚えたこと、変化を全てお父さんに伝えた。
「そうか……嗅覚が大活躍した上、魔法も上級魔法を覚えかけるまで至り、さらに進化まで…!」
「進化したケル見たい?」
「是非共見せてもらおう」
ロモンちゃんは封書からケル君を呼び出した。
呼び出されたケルくんはやはり封書の中で眠っていたようで、眠たそうに目をパチクリさせている。
【ゾ……モウ カエッテ キタノカ ゾ?】
【違うよ。お父さんにケルの進化した姿見せてあげるの】
【ゾ! グライドダゾ! ヒサシブリ!】
ケルはお父さんの足元に寄ると、前足を引っ掛けて顔を見上げた。二本足で無理に立ってるケル君可愛い。
「この子がケル? ずいぶんと白いじゃないか」
「ね? 全然違うでしょ? また新種なんだよー!」
「また新種か。すごいなー、ロモンは。確かに全然違う」
ロモンちゃんは撫でられて嬉しそうにしながら、ケル君に進化した大きさになるように言った。
小型犬から大型に近い中型犬になる。
「ふむ…なんだか神聖な感じがする。そのうちとんでもない魔物になりそうだな」
「たくさんSランクとか倒してきたお父さんが言うんだから間違いないよ、ロモン!」
「うん! よかったねー、ケル」
人の言葉はまだわからないけど、褒められてることはわかったのか、ケル君は尻尾をブンブンと振り回してロモンちゃんが撫でるために伸ばした手を軽くひと舐めした。
「それで、どうしましょうかお父さん。私達は残って何かあった時のための回復員として居た方がよろしいですか?」
私はそう訊いた。
だけど、お父さんは首を横にふったの。
「いや、3人には冒険者としてやることがあるだろう。そっちを優先させなさい。オーニキス様から国に協力するよう契約したのは知っているが、対策は見つけた。次にここまで惨事になることはないだろう」
「でも今やってることって、ケルの育成とダンジョンの攻略だけだよ? 受けてる最中のお仕事とかないし」
「お金も数年働かなくても良いくらいあるしね!」
ダンジョン攻略はともかく、ケル君を育てるのはここでもできる。つまり、私達は残っても大丈夫ってこと。
いや、ダンジョン攻略も私達3人の転移魔法陣の設定を弄れば城下町とダンジョンとここ、好きなように行き来できるし。
「私が城下町に置いてるぶんの転移魔法陣を破棄し、ここに設定すればダンジョン攻略も問題なくできますよ」
「そうすればお姉ちゃんか私の転移魔法陣で城下町とも行き来できるしね!」
転移魔法陣を設定できるのは、相当高級なものや、専門のアーティファクトを使わない限り1人同時に二箇所まで。今は私が城下町とダンジョン、ロモンちゃんが城下町と実家、リンネちゃんはロモンちゃんと全く同じなの。
「いや、アイリスちゃんじゃなくて、ぼくの、村に置いてる方を一旦破棄してここに置くよ。全員、城下町には行けた方がいいし」
「リンネちゃんがそう言うなら、お願いします」
これで私達がいつも行動している範囲内を自由に動き回りつつ、お仕事を手伝えるわね。長期的な依頼さえ受けなければなんの問題もない。仮に金欠になっても、お金儲けはダンジョンのトカゲでいつでもできる。
「……いいのか?」
「うん、もともとオーニキスさんに頼まれてるしね。今ぼく達が潜ってるダンジョンだって、多分、あの人経由で教えてもらったものだし」
「ま、まあ3人を呼んだのもそのツテがあったからだが…」
「それにお父さんを手伝えるならいくらでも手を貸すよ!」
やる気満々のロモンちゃんとリンネちゃん。私も普通に依頼を受けて普通に過ごすより、国から直に頼られる方がやりがいを感じるの。
「でもなぁ…もし前みたいなことがあったらな……」
「もう、お父さん! ぼく達は冒険者になった時点で色々と覚悟はしてるよ」
「私もだよ! それにアイリスちゃんが居れば死んでなければ全部元通りだしね」
この世で最も強力な呪毒を受け、死んじゃった方がマシっていう痛みを乗り越えたリンネちゃんと、ロモンちゃんがそう言ってる。
お父さんはため息を一つつき、右手でリンネちゃんの、左手でロモンちゃんの頭をポンポンと撫でた。
「わかった。でも無理だけはしないように」
「「うん!」」
これで本格的に協力することになったわね。もしかしたらまた魔王の幹部と戦わなきゃいけないかもしれないけれど……2体もすでに倒したんだ。自信持たなくちゃ。
あと一つだけ問題もある。
「私達の寝泊まりはどうしますか? 城下町に戻れるのでそちらにしましょうか」
「じゃあ、そうしてくれ。…あと別にいつもここにいて欲しいわけじゃない。呼んだ時だけ来てくれればい。そうだ、ちょっと待ってろ」
お父さんは自分のスペーカウの袋をゴソゴソすると、3つの赤黒い玉を取り出した。
「これをそれぞれ一つずつ持っていてくれ。国が最近開発した、本体を所持している者が魔力を込めれば、対応する子機が赤く光るという代物だ」
へえ、通信機器っていままで国自体が所持するような大掛かりなモノしかなかったけど、こういうのもいつの間にかできていたのね。
あるいは元々あったのを私が気づかなかっただけか。
どっちにしろ光るだけでも便利。
「魔力で呼応するため距離や場所は関係ない。本体はもちろん私が持っている。……もし何かあったらこれで呼ぶから、その時に来てくれ」
「わかった、じゃあそれ持ってくね。それ以外でも一日一回は様子をみにくるよ」
ロモンちゃんがそういうと、お父さんは少し不思議そうな顔をした。
「そうか。……ここに居ても面白いものはないだろうがな。今日はもう帰っても大丈夫だ。部下達の治療、本当にありがとうな。アイリスと二人がいなければ、確実に部隊の半半数は毒と切り傷で死に至っていた」
「ん、じゃあね」
ロモンちゃんがケル君を幼体化させてから抱き上げ、私達は城下町へと転移した。
それにしてもどっと疲れた…。いくらMPがほぼ無限に湧いてくると言っても疲れはするのよね。
「今日はもうお夕飯食べてお風呂入ったら休んじゃおうか。ケルの魔法の練習の続きも万全の状態でさせてあげたいし」
「そうだね…。アイリスちゃんが一番疲れてるでしょ? お夕飯もお外で食べよう」
「ではまたギルドに行きますか。私、食べかけなんですよ」
そのあと、私達はギルドに移動し、夕飯を食べたの。
私は食べ残していたものに加え、追加注文で唐揚げとか。ロモンちゃんとリンネちゃんは、目を離しているすきにどう頼んだのか、山盛りのパンと大皿のスープ。そして大きすぎる魚のムニエル。
それは周りの注目を集めるには十分で、二人は特に気にしてる様子はなかったけど、私は周知に包まれながらの食事となった。
宿に帰ったらお風呂で私の気を完全に回復させ、ぐっすりとムフフな思いをしながら眠りについたの。
明日はまたケル君の修行再開だと思うけれど、こういうことになった以上、離れて行動とかはしない方が良さそうね。何かあった時に全員すぐに行けるようにしなきゃ。
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