165話 魔物嫌いの暴論者でございます!
「なんですって!」
「言いすぎなんじゃないのか!」
周りの冒険者たちもこの喧嘩を見るだけでなく加わってきてる。特に魔物使いの皆さんは全体的に喧嘩を売られてご立腹のようだ。そんな中、私はこっそりとシェリーさんとゴブザレスに近づいた。
「シェリーさん、私です。アイリスです」
「あっ…アイリスさん」
「どうしてこんなことになっているのですか?」
「正直言って私にもわからない。本当にいきなりゴブザレスを斬りつけてきたの。大切な仲魔なんだから抗議するでしょ? そしたら……」
「なるほど、あんな自論を言われ、聞く耳も持たないと言うわけですか」
それはおかしい。
この国は誰かの仲魔となっている魔物がたくさんいる。魔物使いではないのに魔物を持ち歩いている人も大勢いるの。そう言う人たちは主に愛玩用だけど。
だからそう、こんなに魔物……仲魔に悪態を吐く人はもはやこの街を出歩くこともままならないんじゃないかしらん。
脈略もなく街中で他人の仲魔に手を出したら思いっきり法に触れるしね。
「……魔物使いが嫌いなのはわかったよ。それでもいきなり斬りつけるのはおかしいんじゃないか?」
「人が魔物を斬りつけるのがおかしいなんておかしいだろっ?」
あまりの暴論に周りは黙った。
ダメだ、正論をぶちかましてもこの人には本当に無意味。アパタさんは仲間の仲魔が傷つけられたことに怒ってはいるけれど、言ってることはさっきからまともだ。
なのに相手はなにも……。
「もういい。私が出る。ここまでバカにされて黙っていられないもん」
私と同じようにシェリーさんの近くまで来ていたロモンちゃんがそう呟いた。
ついてきていたリンネちゃんもこくこくと頷くの。
でもそうね、はっきり言ってこの二人は口論はそんな強くないから……火に油を注ぐ結果になる可能性も高い。
「お怒りの気持ちはわかりますが、もう少し堪えてください」
「「でも……」」
「もう少し様子を見ましょう」
さて、アパタさんとシェリーさん、そして仲間の魔法使いさんと僧侶さんの4人に含め、さっき暴言を吐かれたことによって明確に敵対心を剥き出しにしているこのギルドにいる魔物使い全員とその関係者、そして野次馬がこの喧嘩に参戦してる。
今の所、暴言を吐いてる剣士らしき男の味方はいない。いや、いられても困るんだけど。話が拗れるから。
「んだよこの空気。俺が何かおかしいことでも言ったか?」
「当たり前じゃない!! そもそも他人の仲魔を傷つけるのは法律にも違反してるのよ!?」
「……法律に違反してるから俺がおかしいのか?」
いや、そこに疑問を抱くのは流石におかしいと思う。他人のものを傷つけるのがいけないから法律で定められているのであって…個人がどうの言える問題じゃない。
「なにを当たり前のことを……酔ってるのかな?」
「ああ!? んだとコラッ!?」
「剣を抜くか!」
暴言者が剣を抜くとともに、アパタさんも剣を抜いた。
これはちょっとやばい。
「アパタ、やめて!」
「いや……つい。でも向こうが抜いたからには鞘には納められないよ。警戒しなきゃ」
「それは、そうだけど……」
野次馬も盛り上がってきてる。いや、盛り上がっちゃダメでしょ。…野次馬だし仕方ないのかしら。
それはそうと、ここまできたらそろそろ止めないとダメかもね。
「ちょっと大きめの喧嘩に発展してしまいそうなので、ここらで私があの人を説得します」
「え、アイリスさんが?」
「アイリスちゃん……うん、アイリスちゃんならしっかりしてるし大丈夫だよね。行ってきてよ」
「ええ、行ってきます。すいません、前通してください」」
私はシェリーさんとゴブザレスにちょっと退いてもらい、前に出た。
「これ以上となると大事になるので私が取り繕いますよ、アパタさん」
「あっ、アイリスさん……わかった」
アパタさんは剣を構えたままシェリーさんのところまで下がる。その代わりに私が先ほどまで彼が立っていた場所に立ったの。
「おお、アイリスちゃんだ!」
「アイリスたんキタ! これで勝つる!」
「もう大丈夫なのか……?」
「アホ、ここ最近も仕事に来てただろ」
「いや、でも夜に遊びに来てねーし……」
「仕方ないわよ。あの子だって女の子なんだから引きこもりたい時期もあるでしょう」
そっか、理由を知らない人にとったら私は唐突に遊びに来なくなったわけか。……なんか気を使わせちゃったな。
今夜あたりにでも遊びに行こうかな。
まだ完全には男の人怖いの克服できてないけど、ま、顔見知りなら大丈夫でしょ。
それよりも。
「なんだぁ…? あんた人気者だな」
「……おかげさまで。それより貴方は何故いきなり魔物使いの魔物を斬りつけたりしたのですか?」
「だから、それは道に入るのが邪魔で、魔物は魔物だからだよ」
やっぱり話が通じないか。
……アパタさんの言う通り、本当に酔ってるんじゃないかしら。それしかもう考えられないんだけど。
「……そうですか。普通はそんなことしませんよね? なにか魔物……人の連れている魔物に恨みでもあるのですか?」
「人の連れている魔物に? 恨みがぁ?」
彼はぶらぶらと先ほどまで動かしていた体を急にピタリと止め、虚ろな目でこちらを見た。
「……あ、あああああああっ! 恨み、そう、恨みっ! 許さない、許せない、人の中に紛れて生きている魔物が……うああああああ!」
どうやらビンゴだったみたい。
でもそれよりちょっと大変なことになった…。
彼は剣をしっかりと持ち替え、剣を振り回し始めたの。
「げっ!」
「うわ…あぶねぇ!」
「アイリスたん、逃げるんだ!」
誰よさっきから私のこと「たん」付けで呼んでる人。今度文句言ってやろう。
それはそうと、この状況を無被害で終わらせられる人なんて私ぐらいしか居ないでしょう?
私は自分にフェルオールを5回がけする。そして剣をむやみに振り回す彼の懐に入り込んだ。
そして投げ飛ばす!
……ちょっと剣速が早かったわね、無茶苦茶な振り方頬に擦っちゃった。強さはAランクくらいかしら。
「おおっ、流石アイリスちゃん!」
「あっという間に制圧してしまった……」
「……かっこいいっ」
なんか照れるわね。ふふふ。
「ぐうぅ……くっ」
「あっ」
彼はうめき声みたいなものをあげると、がくりと力なく気絶してしまった。……しまった、頭からぶつけなきゃよかった。それにしても息が酒臭い。
この匂いの量なら酔っててもおかしくないわよね。
「みなさん、どうやらこの人、やっぱり酔っ払いみたいです」
「なーんだ、そうだったのか」
「何か深い理由があるかと思ったけど、残念!酔っ払いかー」
「ういー、解散」
野次馬の一部はもう興味がないみたいに解散していった。ま、お酒が入った人が暴れていただけってのがつまらなく感じたのね。
「……しかし、酔っ払いにしては恨みが深かったような」
「そうですね。ゴブザレスは大丈夫ですか?」
「大丈夫よ。私だって回復魔法使えるんだから」
となるともう私が出たころには傷はなかったのね。
「アイリスちゃん、大丈夫?」
「ほっぺに傷が……あ、ふさがったね」
さすがは私の回復効果。もう傷治っちゃったか。
「……この人が起きたら問い詰める必要がありそうですね」
「だね。巻き込んじゃってごめん」
「いえ、大丈夫ですよ」
さて、ギルドマスターはどうやらお酒とそのつまみを買ってきており、今はいないみたいだし、帰ってくるまで待機ね、待機。
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