127話 まだまだ働くのでございます! 3
それからほどなくして、メタルリゴロゴマンティスが現れたという場所にまでゆく馬車がギルド側から出され、私達3人とガーベラさんはそこに乗り込んだ。
メタルスゴロゴマンティスが出現したという場所は、街と街を繋ぐための道路の途中だという。
それなりに距離のある場所らしく、1泊2日の小旅行しなければならないの。
にもかかわらず私達の乗った馬車は広めの部屋の1部屋構成。そりゃあ4人しかいないから仕方ないかもしれないけれど個人的に2部屋は欲しかったかな。でも贅沢は言えないよね。
ちなみに馬車の御者さんの寝床はこの馬車内に別にあるらしい。
「私達3人の敷布団はガーベラさんから離したところに置くことになりますが、よろしいですよね?」
とりあえずそうきいてみる。
「あ、うん。もちろん」
まぁ、普通の神経の持ち主なら今日初対面の女の子(私も女の子って言っていいのかしら)の近くにわざわざ布団を敷いて寝ようなんて思わないわよね。
「ね、アイリスちゃん。移動中ってやっぱり暇になるよね」
「暇だからなんかしようよー」
出発してから1時間ほど経ったころ、うちの可愛い双子姉妹がそう言いだす。
確かに馬車の中では、標的が現れるのを待つか、急な敵の襲撃を撃退しなければならないこと以外はすることがない。
またチェスでもしようかしらね。
今回はちょうど4人居るし、時間つぶしはそれでいいかもしれない。
「では、チェスでもしましょうか。ガーベラさんもご一緒にどうです?」
こんなこともあろうかと事前に作っておいたチェス盤2つをこの馬車内備え付けの机に置いてから、ガーベラさんを呼んだ。
「えっ……。あ、やらせてもらうよ」
何故かはよくわからないけれど、なんか微妙な顔をしたぞ?
私はともかく、こんな美人姉妹と遊べるなんてそうそうないんだからもっと乗り気でもいいと思うんだけどなぁ。
◆◆◆
「……参りました」
正座をし、こうべを垂れながらガーベラさんは悲しげにそう呟いた。
私とガーベラさんとで初戦をしたんだけれど…はっきり言ってしまうとあっけない。
「え、二人とももう終わったの!?」
「ぼく達まだだから、終わるまで待ってて下さい!」
一方、ロモンちゃんとリンネちゃんのボードはまだ序盤だった。序盤であるのに、かなり高度な戦いを繰り広げていることが目に見えてわかる。
「俺、チェス苦手なんだ」
申し訳なさそうにしゅんとしたガーベラさん。なるほど、さっき乗り気じゃなかったのはチェスが苦手だったからか。
悪いことしたかな。
うーん、それにしてもまず対戦相手として私を指名するなんて、それも変わってるかも。
だとしたら大方、ロモンちゃんとリンネちゃんが美人すぎるが故にとっつきにくく、普通顔の私でまずは肩慣らししたという感じだね。
しっかし、これじゃあこのチェスが強い二人の相手になりそうにない。
「この2人がやってる間に、私達はもう一戦しましょうか」
「わるいね」
私とガーベラさんはすぐにまた1選を始める。結果は前と同じ、私の圧勝。
なるほど一見イケメンで有能で強くて完璧そうにみえるこの人だけれど、こんな弱点があったのか。
「もう一回…お願いします」
「…まだあの2人は終わりそうにありませんし、いいですよ」
結局それもまた私が勝ち、その後、ロモンちゃんと当たったガーベラさんは秒殺(というに等しい倒され方)をされ、さらにその後リンネちゃんにもコテンパンにされてたよ。
結果的にこの人は全敗していたの。
◆◆◆
「冒険者さん方、着きましたぜ。ここら辺だ」
この馬車を運転していた御者さんが、私達に声をかけてきた。
馬車の窓から外を覗いてみると、どうやら本当に道の途中で停車したみたい。
あたりはそれなりに暗くなっており、今回の標的のマンティス以外の魔物もわんさか出現しちゃいそうだ。
「どうします? 明日の朝まで待つという選択肢もありますし、私達3人ともが大探知と大隠密を使えるのでピンポイントで探し出し、倒してさっさと帰るという手もありますが」
ロモンちゃんとリンネちゃんももう既に大探知と大隠密は覚えてるからね。
ほんとは大隠密なんて、それを使っている周囲数名にも効果があるから私1人で十分なんだけど。
「そうだな。俺も大探知はあるから、後者の方でいいかな。あとはロモンちゃんとリンネちゃんが良ければそれでいいんだけど」
ガーベラさんが2人をみた。
ロモンちゃんとリンネちゃんは互いに頷く。
「ぼくと」
「私は」
「「それでいいです!」」
とまぁ、そういうわけで私達はこの夕飯前どきである時間帯に、目的であるメタルスゴロゴマンティスをさっさと見つけ出してさっさと帰るという選択をしたの。
朝飯前ならず、夕飯前ってとこね。
「俺が一番重装備だし前衛をさせてもらおう。異常事態などがあったら構わず逃げてくれよ」
キリッとした表情。
おそらくカッコつけて言ったんだろうな。このぐらいの歳の男の人ってカッコつけたかったりするから。
なんだかわからないけど、なんとなくわかるの。身近にそんな人が居たような気がして。
でもそうはいかない。
「まあ、そうは言っても私はゴーレムなので、やはり私が先鋒を務めますよ。Aランクの魔物の攻撃程度じゃ傷をつけるのも困難なので安心してください」
そう言いながら、ちょっとカッコつけた表情をしていたようにみえるガーベラさんより前にでる。
私の方に手が置かれた。
「なんです?」
「いや…なんというか、ここはやっぱり俺に任せてくれないか? たとえ元がゴーレムだったとしても、今は女の子であるのとには変わりないから。男である俺が女の子に守られるというのは少し…ね」
「にゃっ……!?」
おおおおお、女の子!?
この人今、私のこと女の子って言った!?
しかも、元ゴーレムだろうが関係ないってぇ、ええええ!? いや、ほんとは私は元小石なんだけれども、ううん、そんなこと今は関係なくて……!!
「ど、どうした!?」
「や、ややや、わわわ、わわわわ」
おおお、女の子なんて言葉、魔物でありそれなりに歳も行ってる私なんかに普通言わないでしょ!?
ロモンちゃんやリンネちゃんみたいに可愛かったらわかるけれど!
私の中では、
女の子=可愛い
という方程式ができてるから、えっとぉ…。
「この子、どうしたの?」
「実はアイリスちゃんって男の人、あまり得意じゃないみたいなんですよね」
「ねー」
ロモンちゃんとリンネちゃんが勝手にガーベラさんに私の説明をしてる。
ち、違うもん!
苦手なわけじゃないもん!
あんまり若い男の人を信用してないだけだもん!
「あー、そうなんだ。なにかそれに触れるような変なこと俺がいっちゃったんだな。……ごめん。でも露払いは俺がやるよ。いいかな?」
くっ…ま、まあ、確かに実力はあるだろうしなにかあったら私の回復魔法でなんとかなるよね。
「そ、そそ、そこまで言うならい、いいでしょう!」
「ありがと」
こうして私達の一行は進みだしたの。
探知をできる限りに広げながら、Bランクの魔物の反応を探し続ける。
【ところでアイリスちゃん、なんで取り乱したのかな?】
その最中にリンネちゃんがロモンちゃんへ念話。私にも聞こえるようにしてるということはどういうことだろう。
【ほら、『元ゴーレムでも今は女の子~』ってところじゃない?】
【ああ…なるほどー】
ニヤニヤしながら2人は私の方を振り返る。え、なに期待してんのこの2人。
どういうことなの?
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