107話 長期のお仕事でございます!
「「ただいまー!」」
「お帰りなさい!」
私は同い年の姿で二人を迎える。
傷も汚れも全くない。まあ、Dランクの依頼だったらしいし、この二人には楽勝だったよね。
ソファに座るロモンちゃんとリンネちゃん。
その二人に冷たい紅茶を出してる間に、リンネちゃんがこんな提案をしてきた。
「ね、さっきまでロモンと相談してたんだけど、長期のお仕事行かない? 護衛なんだけど」
「なるほど、長期の護衛のお仕事ですか」
「うん。たまにはこういうのもやった方が良いんじゃないかと思ってさ」
ふーむ、なるほど。
確かにそれはやったらかなり良い経験になるかも。
でも2週間後に武器を取りに行かなきゃだから、期間によるなぁ。
「そうですね。目をつけた仕事はどのくらいの期間のものだったんです?」
「うーんとね、旅行用の馬車の護衛だよ。お金持ちの人達がたくさん乗るんだって。この街から2日半かかるところに行って、行った先で5日間泊まって、また2日半かけて帰るの」
転送魔法陣という便利の極みを尽くしたものがあるこの世界だけど、あのアイテムも万能じゃないし、高いし、制限あるしで、実は私が考えていたほど使われてないの。
だからこうやって馬車で旅行する人も少なくない。
それにしても10日間か。
…うん、ちょうど良いくらいかもしれない。
「私は賛成ですかね」
「じゃあ全員賛成だね!」
「行こう行こう! なんかね、私達も5日間は遊んだりして良いらしいの!」
なるほどー。
私も人間になったし、折角だから遊びたい。
……あ、でもそうだ。
この仕事は何ランクの仕事なんだろ。
「その前に、この仕事は何ランクの仕事か訊いても?」
「ああ、えっと、本当だったらCランクの仕事なんだけど、ちょうどその仕事を依頼してる人がギルドに様子を見に来ててね? ぼくがその依頼用紙を手に取ったら『お仕事してもらえませんか?』って」
「うん、それでね。『私達、Dランクですよ』って言ったら『大会見てました。貴女方なら問題ありません』って。他のパーティも一緒なんだって」
大会効果は誠に強し。
まあ…決勝戦でどっちもあっという間に決着ついちゃったからね、個人ランクCの、Bランクパーティの人たちに。こういうのもあるんでしょう。
それに本当のCランクパーティの人たちもいるらしいから、ある程度安全だし。
「で…明日の早朝から出発なんだけど。本当にうけてきてもいいかな?」
「大丈夫でしょう!」
「よし、じゃあ行こう!」
◆◆◆
翌日早朝。
「あー、では…はい、冒険者の皆さん。お集まりいただき、誠にありがとうございます」
中肉中背の青年が私達に向かって頭を下げる。
「ではですね、あと30分程したら馬車の方、出発いたしますので。その前にお部屋の方を紹介させていただきます」
その青年の案内を私達は受け、広い馬車内を案内された。
なんでも前衛と後衛に冒険者は別れるそうで、私達は前衛なのだそうだ。
ロモンちゃんとリンネちゃんを含め(今の私はゴーレムなので含まない)、前衛組9人居る冒険者達が集まっても全然余裕があるほどの広さの馬車内のメインルームに、あと2部屋。
どうやら男女別の寝室みたいで、中は雑魚寝などではなく、個々の敷布団と少しの間の間に、小部屋を作るように仕切りがあって最低限のプライベートは守られるようになっていた(仕切りの取り外しは可能)。
同性相手でも着替えとか見られないのがいいね。
まあ、私はロモンちゃんとリンネちゃんの着替え、ほぼ毎日見てるけどね。
それで普段はこの冒険者用の馬車の中で過ごし、魔物が出た際に迎撃したり、交代で見張りをして欲しいとのこと。
青年から馬車内と仕事に関する詳細が述べられた10分後、全ての馬車は発車した。
「旅行みたいで楽しいね!」
「ねー!」
【確かにそうかもです】
私達はソファの一つに2人と1匹で座っている。
他の冒険者達もそれぞれ、思い思いに過ごしてるみたいだ。
うーん、Cランクの冒険者ばっかりってことだから、そうとうこの旅行にはお金かけられてるんだろうけれど…旅行楽しんでる側の人達って、これにいくら払ってるんだろう。
【それにしても魔物が出るまで暇かもしれないですね。まだ街からそう離れてないので、あと40分は討伐が必要な魔物なんて出現しないでしょうし】
「うー、でも何もすることないよ? 本だってすぐ読み終わっちゃうだろうし」
「寝室に篭って魔法の練習でもする?」
そういうわけで、私達は寝室に早々入り、ロモンちゃんとリンネちゃんが寝る場所の間の仕切りを外し、布団を押してくっつけた。
「ふふ、これでいつもみたいに3人寝れるね」
【ちょっと窮屈ですが…】
「アイリスちゃんがちっちゃくなってくれたら大丈夫だよ」
おお、これは大分密着してやっと3人ねれますな。
ふふ、今夜は至福のひと時になりそう。
やはり暇な冒険者が多いのか、寝室に他の女性冒険者も数人入ってきて、各々の小部屋で何かをするようだ。
「ね、ね、アイリスちゃん。光魔法の方の調子はどう?」
【えっと…リシャイとスシャイは使えるようになりましたかね】
ここまでの段階にたどり着くのは案外早かったんだ。
「はやいねー。光魔法なんて早々覚えられるものじゃないのにね。私達も光魔法と闇魔法覚えなきゃ。自力じゃ無理だからアイリスちゃんに教えてもらいながら」
「闇属性と光属性の剣技なんて世の中に出回ってないから、楽しみだよ!」
そんな話をして時間を潰そうとした。
こんな狭い空間じゃ魔法の練習はできないし、魔流の気系の特技の精度を上げるにも、他人が多く居るしで、それ以外のろくな暇つぶしができない。
本は一応持ってきてるけれども、やっぱり、本も読んじゃったらそれっきりだし残しておきたい。
【…中央の部屋に戻りますか。ここに居てもやることがないですし】
「そだね」
私達はさっきまで座ってたソファに座る。
冒険者の方々は誰も居ない。
こういうのに慣れてる人には、独自の暇つぶし方法があるのかもしれない。
こういうのも経験のうちだね。
【本当に暇ですねぇ。ゲームかなんか持ってこれば良かったです】
「んー…あ、アイリスちゃん! 私にいい考えがあるよ」
ロモンちゃんはそうとうな名案を思いついたのか、とても嬉しそうににやけてる。
「アイリスちゃん、進化して最上級魔法になって、精度すごく上がったでしょ?」
【はい。火水風土雷氷ならば。特に氷と土は彫像のような精巧な細工も作り出せますが】
とは言っても、魔法でそんなことするには器用さと、魔力とMPの完璧な操作…そしてそもそも美的センスが必要なんだけどね。
私には全部できたみたい。
私ちゃんったら天才ねっ!
「ならそれで、なんかボードゲーム作ってよ!」
【それは妙案です。そうですね…チェスでも作りましょうか!】
私はもうこう…それなりに頑張って、土魔法でチェス盤とチェスの駒を作り上げた。
こんな小さくて綺麗な細工が必要なものを作るのは骨が折れるかと思ったけど、私はできた。
魔力を上手いことしたら色も作れるみたい。
「わーい! やろうやろう! 誰からどうやる?」
「じゃあ先にロモンとアイリスちゃんやりなよ」
「うん、ありがとお姉ちゃん」
私とロモンちゃんはチェスをし始めた。
……ふむ、ロモンちゃんはとてもお強___。
「チェックメイト!」
【……強いですね…】
否、強すぎる。
私だって前世はそれなりに強かった気がするのに、ロモンちゃんにあっさりやられてしまった。
「ふふー。私はチェス得意なんだ! 次はお姉ちゃんやりなよ」
「よし、アイリスちゃん手加減しないからね!」
リンネちゃんとチェスをする。
……強い。リンネちゃんも強い。
【お二人とも…すごく強いです…】
「えへっへっ! おじいちゃんが強いからね! ボク達も強くなったんだよ! よーし、チェック________」
「ご、ゴゴゴ…ゴーレムがチェスしてるっ!?」
リンネちゃんのチェックメイト宣言が、つい今、部屋から出てきた弓使いっぽい女冒険者さんに遮られた。
結構大きく驚機の声をあげたから、何事だと人が集まってきちゃってる。
【……私の負けですよ】
「あはは…そうだね。それになんか目立っちゃった」
注目されてるのが恥ずかしいのか、リンネちゃんはポリポリと頬をかく。
と同時に、バンっと、このルーム内の一番大きなドアが勢いよく開かれ、説明をくれた青年が慌てた様子で駆け込んできた。
「冒険者の皆様! 魔物が出現しました!」
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メリークリスマスです!
ささやかながら、イラストを……(*´ω`*)
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