102話 久しぶりの夜のギルドでございます!
うん、脱出成功。
……それはそうと、服装はこれで大丈夫かな?
ちょっと胸元が開きすぎてるような気がする。谷間とか見えるしさ。……まあでも、この服ってこの世界じゃ普通すぎるほど普通で一般的だし、ローブも着てるし、男の人を扇情したりしないだろう。
いつの間にか辿り着いていた、私の溜まり場であるこのギルド。当たり前だけど、人間としての姿で一人でここに訪れるのは初めてだから、柄にもなく緊張なんてしたりしてる。
フードをかぶりなおし、取手に手をかけ、戸を押し開いた。
ムンとした、心地悪くはない色々なものが混じった匂いが私の鼻にかおる。
昼間より人が少ないこの時間帯。
と言っても人は多いんだけど、来てるメンバーおなじなため、それなりの人とは顔馴染みとなっているんだけど…へへへ、一体、何人が私だって気がつくかな?
開いた戸から、私はギルドの中に入った。
チラリと数人が私の方を見る。これもまた当たり前だけど、私は彼らにとって初めて見る顔となるからね。
昼間だったら怪奇な目を向けられないかも知れないけれど、普段は特定のメンバーがあつまるこの時間。
やはり、初顔の人は珍しいのか、ジロジロ見られる。
……で、どうしたら良いんだろう。
ジエダちゃんはちゃんと居る。ネフラ君は寝てるのかここには今日は居ないようだ。
でも、ジエダちゃんに、もう、自分の正体をばらしながら近くのは面白くない。
ちょっと、このギルド内をウロチョロしよう。
私ばらしながら意味もなく、ギルド内を意味ありげに動き回りながら、ギルドマスターに念話した。
【来ちゃいました!】
【ああ、思ったより早かったな。こっから見えてるが……背も顔も身体も、何もかも成長してないか?】
【ふふ、私は10歳から18歳の間を、段階的に好きな年齢に成れるみたいなんです。昼間は14歳でした。今は18歳です】
【はーん、そら変わってるな。半魔半人自体が変わってるけどな。……まだ、ここに居る連中にはバラさないぞ、面白いからな】
【はい、お願いします】
あっち行ったり、こっち行ったり。
意味もなく動き続けてるうちに、全員の人が私に一度でも目を向けた。
そんでもって、たまたま私が居る位置から近かったテーブルに座って居たおじさん達が話しかけてきた。
ああ、この一番最初に話しかけてきた人は、私にある魔物の弱点を教えてくれた人だ。でも、私は既に魔物図鑑をできるだけ頭にインプットしてたから、それはほとんど意味がなかったって、思い出がある。
「おい、姉ちゃん。そう、姉ちゃんだ、頭の良さそうな顔してる美人な姉ちゃんよ」
「なしてそんなに、ウロチョロしてんだ?」
「……はい、なんでしょう?」
私はうつむかせてた顔をあげ、そのおじさん達を見る。
酔っ払ってるけど呂律は回ってるから、ただ顔が赤くなってるだけだろう。
「ギルドの受付が分かんねのか? 冒険者になりてんならそこだし、クエストを受注したいなら向こうだ。それとも何かい? 飯や酒でも食いにきたんか? なら空いてる席に座れば、ウエイトレスの姉ちゃんが来るで」
優しく教えてくれるおじさん…こと、ノコヅチさん。
酔ってるし、いかつい雰囲気で、ガラが悪そうに見えて優しい人なんだ。
ごめんなさい、ノコヅチさん、驚かせますわよ。
「いえ、大丈夫です。ここに来るのは初めてではないので、ノコヅチさん」
「んえっ? 名前……俺、姉ちゃんとどっかで会ったことあったっけか?」
首をかしげるノコヅチさんに、枝豆みたいのを食べてるタドリさんが笑いながら言った。
「ガハハハ、お前、こんな綺麗な姉ちゃんと会ったこと忘れてんのか! 俺なら絶対に_______」
「忘れないですよねー、タドリさん」
「そうそう……て、はあっ!? ちょっ…ま、俺、姉ちゃんのこと知らない……えっ、えっ?」
綺麗な姉ちゃんだって。嬉しい。
こんなこと聞いて満足しにきたわけじゃないけど、思わず、顔がほころびそうになる。
と、そんな私を睨みつける強面の男性が一人。
この人はノエンドさん。実はこの中で一番、ジャグリングがうまい、面白い人。
「……お前、誰だ?」
「やだな、そんな怖い顔しないでくださいよ、ノエンドさん」
「…………っ!?」
驚いた顔で警戒してくるノエンドさん。
この様子を全部見ていたこの場にいる全ての冒険者、それとこの職場のスタッフさんは、ノエンドさんと同じような警戒した顔でこちらを見る。
ジエダちゃんも例外ではない。
そろそろ、終わらせるかな。
「もちろん、皆さんのこと知ってますよ! クダミさんにタンポポさん、ナズナさんに______________」
私は名前を知ってる人全員、一人一人を見ながら名前を答えて行く。名前を言われた全員が、それはもう、おかしな顔をするんだ。
やっぱり私っていたずら好きなのかな?
うん、ロモンちゃん達と最初に会った時も、こんな風に驚かせたりした気がするから、きっとそうなんだろう。
「_______ワザヤルさんに、アパタさん達とゴブザレス君。そして、ジエダさん」
私は最後にジエダちゃんの名前を言った。
最高に不穏な空気にしちゃったけれど、そろそろ、この空気が変わる。そんな気がするし、実際に当たった。
「………あ、あの、もしかして、もしかしてだけど…アイリスさん?」
やっときた。きっとわかってくれると思ってたよ。
「はい! 皆さん、数週間ぶりです、アイリスです!」
そう、宣言しつつ笑みがついに我慢できなくなった私は、さぞかし、ニコニコした気持ち悪い顔をしてるだろう。とりあえずフードを脱いで、ぺこりとお辞儀をした。
しばしの沈黙。
「「「ええええええええええええええっ!?」」」
私はこういう反応を待っていたのかもしれない。
◆◆◆
「ガハハハハハハハ!」
ギルドマスターを中心に、このギルド内に爆笑が響く。
「いや、まさかアイリスだったとは。最初は怪しい姉ちゃんかと思ったぜ!」
「そうよ、もう、びっくりしましたわ!」
「すいません、驚かせたくって」
今、私は知り合いみんなに囲まれて、席に着き、お酒を飲んでいた。と言っても、前世の私がお酒を飲んでいたという覚えは全くないから、とりあえずアルコール濃度がすごく低そうなのを選んで、チビチビ飲んでる。
「てーことは、どうするんだ? 半魔半人化したってことは……」
「ああ、それは私はあの二人から離れる気はないので、仲魔のままですね」
「なんでい、パーティメンバーに誘おうと思ったのに」
「あんたのとこは男だけでしょ…」
うーん、ちやほやされるのって悪くないかも。
度が過ぎなければね。
「うーん、アイリスちゅわん、結婚してクりー」
私に抱きつこうとしていた一人の男性冒険者を、一人の女性冒険者が頭を鷲掴みにして止める。
「あなたにはアイリスは高嶺の花だよっ、酔っ払ってるんじゃないよ!」
「あはは…」
うん、人間はやっぱりおもしろい。
そう思っていた時、ジエダちゃんが私に話しかけてきた。
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