料理
暗くなり19時を回ろうかという時間になって、やっと次の宿場町に到着した。
これも全てアサイさんのせいである。
本人は昼飯を食った後、ずっと馬車の中で寝ていた……。
途中で扉を開けて捨ててやろうとしたのだが、女性二人に止められた。チッ。
この宿場町も昨日の所と変わらない作りだ。
昨日と違うのは、アサイさんの分まで俺が金を出す事になったぐらいか……。
町に入ると、途端にアサイさんが元気になった。
「さあ、食材を買いに行くわよ!!」
「いってらっしゃ~い」
「福田君が来ないと支払い出来ないじゃない!」
「お金渡すから、買ってきなよ。ほれ1万」
「買った物を持ってよ!」
「え~~~」
「まあまあ、俺が持ちますから。ね? 行きましょう」
カンダさん、悪いね。
俺はもう疲れたよ。よろしく頼むよ。
ちなみにこの宿場町には、食材を売っているような店は無い。
ではどうやって買うのか。
それは俺達と同じように町から町へ移動してる人から買うのだ。
中には食材を運んでいる商人も居るので、そういう人なら喜んで売ってくれる。
駐馬車場は、さながらマーケットのようになるのだ。
その中には料理をして売ってる、商魂たくましい人もいる。
俺は保険として、そのキャベツロールのような料理を4人分買ってきた。
何の保険かって? 判るだろ? クソマズかった時用だよ。
前にも言ったが、ここはあくまで泊まる所。獣の襲来が無いようにしてある安全地帯のような場所。
女性や偉い人用に宿があるが、当然メシは出ない。
その為に公衆浴場の横に調理場が設置されている。
それぞれがここで料理をするのだ。
俺達みたいに調理済みを持っている人は珍しいだろう。
食材を買いに行かせてから気がついたのだが、マジックボックスの中にドロップ品の「熊肉」があった。
入れた順番に並んでるから判りにくいんだよなぁ。
バグを修理するって言ってたから、ついでにマジックボックスのリストも見やすくしてもらおう。
おっと、熊肉の話だった。
これって確か食材だったと思うんだよね。
アサイさんが帰ってきたら渡してあげよう。いまさらかもしれないけどね。
30分ほどで二人は帰ってきた。
どうやら野菜しか売ってなかったようだ。
でも何故か自信満々は顔をしている。
「これで唸るような料理を作ってあげる! その際は私を認めなさい! 崇めなさい!」
どうしよう、どこかの水の女神のような事を言い出した。
そして、微妙にムカつく。
「よ~し、そっちがそう言うなら対決だ! 俺の作った料理とどっちが美味しいかな?」
「負ける訳ないでしょ!」
「じゃあ勝負だ!」
二人はそのまま調理場に向かった。
俺は馬車の所で料理をする事にした。補助をキジマさんに頼む。
コタニさんには、キャベツかレタスを買いに行ってもらった。
料理は簡単。コンロを用意して、フライパンを置き油を引く。
温まってきたら、薄切りにした熊肉を投入。
ある程度焦げ目が付いてきたら、フライパンの中に買っておいた「焼肉のタレ」を投入。
最後にコタニさんが買ってきたレタスを水でさっと洗い、皿に引いてその上に乗せる。
付け合せとして、マジックボックスに入っていた昔に買った食料に入ってたご飯とサラダを同じ皿に盛る。
(注:食料とは、簡単に言えば幕の内弁当である)
これで完成だ。これを5人分作る。
えっ? 料理して無い物が含まれてるって?
大丈夫。何か言われたら「俺が調理した」ではなく「俺が作った」だから問題ない。
出来合いを並べても作ったと言えるだろ? と言いくるめる予定だ。
丁度5人分が出来た頃に、アサイさんも帰ってきた。
「どうよ! 私の作った野菜スープよ!!」
「これが俺の作った熊肉炒めワンプレートディナーだ!」
俺が作った物を見て、顎が外れるくらいビックリしてる。
そりゃそうだろうな。食材が無いって言ってたのに立派なのを作ったから。
お互いに相手の作った物を食べる。
アサイさんは俺が作った物を美味い美味いと食べている。
皆にも好評のようだ。良かった。
アサイさんのスープだが、意外だ。美味い。味付けは塩味のみだが、野菜の旨みが出ててやさしい味に仕上がってる。
1人暮らしが長いんだなぁ……。
俺はそっとアサイさんの勝ちだよと、優しい目をしたまま伝えてあげた。




