タローの誤算
通路に戻り、馬車から離れた所に『転移板』を置く。
そのままトムさんの所に行く。
「あら、福田君。終わったの?」
「いえいえ、本番はこれからなんですよ。
で、ちょっと頼みがありまして」
「福田君が頼み? ちょっと怖いわね……」
「トムさんは関わりませんから大丈夫ですよ。
タローを一緒に説得して欲しいだけです」
「あっ、そういう事。でも何をするの?」
「あっちの大陸の地面の下にトンネルを作ってるので、そこに来てもらいたいんですよ。
シロに『ほら、タローが来たよ。余裕で通れるね! シロは凄いな~』って言う為に」
「その為だけに?!」
「いえいえ、ついでに庭の所から地上に出てもらい、王が居る所まで飛んでもらうだけですね」
「そっちが『ついで』なんだ……」
「そうですよ。交通手段と脅しの為だけですから」
「私は行かなくても良いのね?」
「ええ。別に来てもらっても良いですけど、する事無いですよ?」
「……行くわ。タローが可哀想だし」
来るんだ。まぁ、トムさんが居ればムガキ君の無事は保障されたようなものだ。
……鑑定出来るヤツが居たら、ビビるだろうなぁ。
って事で、タローさんのお家にやってきました。
おおっ! 天井が高く改装されていますね。飛ぶ練習の為でしょうか?
荒削りされた壁と天井。匠の技が光りますね。
「やあ、タロー」
「げげっ! 何しに来たんだよ! ちゃんと飛ぶ練習はしてるぞ?!」
「凄いな! では本番です!」
「何が?!」
「いやぁ、俺もまさかこんな早く本番が来るとは思ってなかったよ。
頑張ろうな。エイエイオー!」
「全然理解出来ない!」
「ノリが悪いな~。だから飛ぶ時が来たんだってば。
日の光をバックに俺達を背に、城の空を悠然と飛ぶ。う~ん、正にドラゴン! 絵になるね~」
「福田さんを背に?! 城の空?! 何するんだよ?!」
「えっ? 地下からドーンと現れて、王が居る部屋に突入するだけ」
「……それって、大問題じゃないか?」
「大丈夫! 神様は了承済み?だ!」
「今、疑問系じゃなかったか?」
「気のせいだよ、気のせい。気の迷いだよ、気のせいだって」
「トム。本当に大丈夫なのか?」
「私も行くから。天災だと思って諦めなさい」
「……判ったよ。行くよ」
「は~い、ドラゴン一行様、ご案~内!」
トンネルに戻りました。
早速シロを召還。
ほら、タローが来たよ。余裕で通れるね! シロは凄いな~。
撫ぜ撫ぜ。
笑った笑った。良し! 目的は達成した!
さ、ついでに城に行こうか。
近衛アリにお願いして、城の庭までトンネルを作ってもらう。
地表まで1mの所まで完成したので、後はタローに破ってもらおう。
背中には、俺・ナグラさん・トムさん、そしてムガキ君だ。
タローは丁寧に翼を畳んで、俺達の上に持ってきた。土砂がかからないようにする為だ。
気が利くねってトムさんと話したら「後であなたに文句言われるからでしょ」と言われた。
そんなクレーマーじゃないですよ。言わないとは言いませんけど。
タローが大きく背伸びをすると、1mほどの地表はあっけなく崩れた。
そのまま地上でジャンプして飛び出すタロー。
着地し、羽を広げて飛ぶと思ったが、ちっとも動かない。
それどころか、微妙に震えている。何してんだ?
「目がーーっ! 目がーーーーっ!!」
目に砂が入っただと?!
どこかの悪役みたいなセリフを言ってる場合か!
早く飛べっての!! かっこ悪いだろ!!




