吉田作戦
「福田さん! 何ですか、息子って?!」
「もちつけ!」
「ペッタンペッタン……。誤魔化されませんよ!!」
「いや、ノったじゃん。あっ、ゴメン。
説明するから、落ち着いてね。ねっ?」
説明と言うか、設定はこうだ。
吉田君達がこの国に現れた。
曰く、自分達は他の世界で勇者として魔王を退治したのだと言う。
魔王を退治する事で、元の世界に帰る事の出来るゲートが開くのだ。
だが、元の世界に帰れるかとゲートに入ると、この世界に来てしまっていた。
多分、ここでも何かを成し遂げないといけないのだろう。
と言う事で、城を訪ねた。
すると王様が歓待し、何か判るまで逗留すれば良いと言ってくれた。
本人には自覚は無いのだが、勇者はとにかくモテた。
ついには姫様まで陥落した。
王様は変な貴族や他国の王族に嫁入りさせるくらいなら、と承諾。
勇者にはその気も無いのに、既に婿扱いになっている。
民も最初は怪しんでいたが、その人柄に接し、今では歓迎している。
この間、3日である。
「こんな感じ。だから息子って訳」
「無茶苦茶だ!!」
「気にしない気にしない。あくまで設定だからさ。
そう、勇者を釣る為の設定だよ」
「でも、かなり無茶ですよ!」
「城に居るって事にしなきゃいけなかったからね。
姫と仲良しなら、城に居ても問題無いでしょ?」
「それにしたって……。そう! その姫様は嫌がってないんですか?!」
「そこの所はどうなんですか、王様?」
「ノリノリだぞ?」
「うん、問題無し!」
「僕の気持ちは?!」
「だ~か~ら~、『その気も無い』ってしてるじゃん。
元の世界に戻るつもりだから、って事になってるよ。
さぁ、姫様と対面してきて。で、そのまま町に出て、顔を広めておいて」
「それ、重要ですか?」
「重要さ! この国もランテビオには迷惑してるんだ。
民も不安がってる。安心させる事が重要じゃないと?」
「……何か怪しいですが、判りました。
3人も一緒で良いんですよね?」
「勿論! 問題の人物が来るまではそのサイクルで。
旅行だと思って、楽しんできたら良い。案内は姫様がすると思うし」
そう言うと、しぶしぶながら指示に従ってくれた。
姫様の所へは、ヒムカ王子が案内するようだ。
俺は王様ともう少し話をする。
「どうでした、吉田君は?」
「うむ。だれかと違って好青年だな」
「誰でしょうね? ナグラさんかな?」
「……お前、後で絶対怒られるぞ?」
「……内緒でお願いします。ところでそのナグラさんは?」
「マギ達、女性近衛と模擬戦をしてるようだぞ。
スイーツを賭けてやってるらしい」
女性近衛だろうと、スイーツは好きなんだな。
さて、事の進捗状況を聞いておこう。
「屋敷の改造はどうです?」
「順調だ。明日には完成するだろう。
ホテルの従業員は全て近衛兵が扮する事になっている。
今頃、従業員教育を苦労して受けているだろうな」
「あ~。やっぱり一般人には任せられませんか」
「危険だからな」
「後、俺達の潜む場所は?」
「それも問題無い。
元々問題のあった貴族の屋敷だ。
隠し通路や隠し部屋が山のようにあったわ。
それらを使って潜入してもらう事になっている」
忍者屋敷みたいですね!
改造前に行ってみたかった!
「住人への対応は?」
「民には全てを話してはいない。
まず、勇者、吉田君が城に居る事。姫が惚れている事。息子になるらしいという事。
それから、ランテビオから和睦の使者が来るから、歓迎する事。
これくらいだな」
「和睦……そうきましたか」
「それなら民は間違い無く歓迎するからな。
勿論パレードに近寄るような事はさせないがね」
「お見事です。
それで、問題の勇者ですが……」
「うむ。こちらの間者からの情報だと、港町に向かっているという事だ。
こちらに到着するのは、多分だが4日後になるだろう」
「よく判りましたね?」
「その港町はここと定期便が行き交っている所だ。
それの関係で入り込んでいるのだよ。そこの領主が色々準備をし出したらしい。
使用人に聞いたら教えてくれたそうだ。
どうやら、行く先々でも贅沢をするらしいな。
そういう命令が来たので、買い集めてるようだぞ」
アホだな、勇者。
行くのをバラしてるようなものじゃないか。
ま、今の内は贅沢してなさいな。




