馬車の中
今日はすみませんが、1話だけの投稿になります。
王子は馬相手に10分近くも話していた。
馬とお話出来る事が楽しいようだ。
楽しそうで何よりですが、出発したいんだけど。
行きますよと言うと、名残惜しそうに離れてくれた。
だが、後でまた話させてくれとお願いされてしまった。
構わないんだけどさ、用事が終わってからね。
予測出来た事だが、王子は馬車に乗り込むとまた大興奮。
馬車の中が家になってるとは誰も思わないからね。
ナグラさんは自室にいるようだ。
王子と2人でリビングに行く。
ヒタキさん? 既に『隠蔽』を解除してお茶の用意をしてもらってます。
「凄いな、この馬車は! 風呂にトイレまであるのか?!」
「ありますよ。寝室もあります」
「全然揺れないな! 本当に馬車の中か?!」
「そうですよ。違う場所ではありません。え~と、魔法で拡張してるのです」
「凄い凄い凄い凄い!」
大興奮だ。
丁度お茶が入ったから、飲んで落ち着いてください。
「落ち着きましたか?」
「うむ。すまない。興奮してしまった」
「まぁ良いんですけどね」
「それでだ。後20分くらいで城には着くだろう。
本当は10分もあれば着くのだが、間違い無く兵が邪魔をしてるだろうからな」
そう言われたので、窓から外を見てみる。
どうなってるのか判らないけど、部屋の窓から外を見ると、ちゃんと馬車の窓から外を見ているように見えるのだ。
うん。確かに馬車の周りは兵士で一杯です。
取り囲まれた状態での移動となってます。歩いた方が早そうだ。
こりゃ2頭にはストレスが溜まるだろうなぁ。
後で労っておこう。
「城での話は、今は聞けないのか?」
「いえ、話しても良いですよ。
簡単に言えば、ランテビオに居る勇者を捕まえるのに、協力して欲しいって事です」
「それはこちらとしても利がある話だから、協力出来るならしたいが。
どうするのだ?」
「勇者が食い付くような噂を流すのですよ。
既にランテビオの辺境の領主にはお願いしてありますし」
「ほう。それで勇者が引っかかったとしよう。
その場合、どうなるのだ?」
「この国に来るでしょうね。
協力してもらいたいのはここからです。
勇者が来ても反応しないでください。それでどこか捕獲しやすそうな宿に誘導してください。
周囲に危険が及ぶ可能性があるので、対処出来る場所が良いですけど。
後はこちらで捕獲します」
「何故我が国なのだ?」
「島国だからですよ。逃げるにも船が必要。助けを求めようにも他国。
逃げるには東に進まないとランテビオには戻れない。北は海だし、西と南はガイガン国。
理想的でしょ?」
「そう言われれば、確かにそうだな」
城に着くまでに色々と打ち合わせをしてしまった。
王子が協力的なのだ。
俺の判らない部分は補填までしてくれた。
例えば、船の定期便がガイガン国とランテビオ相手にあるらしい。
そのランテビオ便を勇者が来たら、天候が悪くなるからという理由で止めてしまえとか。
夜中の方が奇襲には向いているから、今は使っていない貴族の屋敷を改造して宿屋にしよう、とか。
郊外にあって別荘のような屋敷で、周囲には人が住んでいないから問題無い、とか。
実に良い顔で企んでくれてます。
「そこまで協力的で良いのですか?」
「あの国は属国になれとうるさいからな。最近では関税を上げてきた。
ランテビオから軍船まで出して、ガイガン国との間に走らせ威嚇までしてくる。
聞けばその勇者の入れ知恵らしい。居なくなれば万々歳だ!」
「そうですか。では王様への説得もお願いしますね?」
「勿論だ! その代わりと言ってはアレだが……」
「な、何でしょう?」
「また馬と喋らせてくれ!」
何を言われるかと思ったら、可愛い要求でした。




