消臭剤
兵士さんの案内で城に到着すると、既にモリタ君が外に出て待っていてくれた。
どうやら、転移ゲートから先に連絡が来ていたらしい。
「お久しぶりです、福田さん!」
「やぁ、久しぶり! おっと、久しぶりです、殿下」
「止めて下さいよ! 判っててやってるでしょう?!」
「いや、さすがにマズいかなと思ってさ」
「ここにはそんな事で不敬だとか言う者は居ませんよ。
逆に畏まったほうが不敬だと言われますよ?」
「そんなバカな」
「いえ、本当です。友人で年上、更に実力者なのに王族ってだけで畏まるなんて失礼だ!と」
「何で?!」
「内心では見下してバカにしてるように見えるからでしょうね」
「あ~、それはなんとなく判る」
「でしょ? だから止めてくださいね」
俺が元日本人だからだろうな。
王様とか王族とか出会っても、どこかの会社の社長とかCEOくらいにしか思えないんだよね。
その会社の人や取引先の人から見れば偉い人なんだろうけど、関係無い立場だとただの金持ちのオッサンのイメージ。
出会ったのなら、年齢が上だし初対面だから敬語は使う。
だが、例えば昔からの知り合い、町内のオッサンだったりしたら?
敬語なんか使えば何かバカにしてるように見えるし、本人からしたら他人行儀で寂しい。
TPOってあるだろうけど、止めて欲しいって思うんだろうな。
「判った判った」
「判ってくれれば良いんです。
ところで、そちらの御仁は?」
「ああ。うちの執事のヒタキさんだ。
今回は他のメンバーは用事があってさ。同行してもらってるんだ」
「私、ヒタキと申します。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします。モリタです。
福田さん、何か凄そうな人を執事にされてますね」
あっ、判るんだ。
さすが実力主義の国。
「そうなんだよ。ヒタキさんは色々と凄いんだ」
「いえいえ、私などまだまだで御座います」
「さすが福田さんです。雇ってる人まで優秀なんですね」
「いや、雇ったのは偶然というか、何というか……」
「一流の人には自然と一流の人が集まるんですよ」
止めて下さい。
運だけで来た人間です。運が無ければ三流以下の人間ですよ。
「ところで、今日はどうしたのですか?」
「どうしたとは?」
「いつもの方法で来なかったじゃないですか」
「あぁ、そういう事か。
転移ゲートが出来たらしいから使ってみたんだよ。
ちょっと用事もあったしさ」
「そうだったんですか。それで、用事とは?」
「う~ん、ちょっとここでは……」
「あっ、じゃあ部屋に行きましょう」
という事でモリタ君の部屋へ。
さすがにサミットの褒美の話とかを皆が見てる前で話したくない。
「実はね、サミットの褒美で貰った魔法道具なんだけどさ」
「はい。何か問題でもありましたか?」
「逆だよ。凄く良い物があってさ。
沢山買いたいと思って来たんだよ」
「そうなんですか? どれでしょうか?」
「えっと、知ってるかな? 魔法の『デオドライズ』が入ってる物だったんだけど」
「あぁ、アレですか。便利ですよね。
匂いを消す事で獣を狩る時に気づかれにくくなりますし。
でも福田さんは魔法が使えるのでは?」
「あっ、本来はそういう使い方なんだ!」
「えっ?! 何に使ってるんですか?」
「え~と、言いにくいんだけど……トイレに置いてる」
「トイレに……ああっ! なるほど!!」
「あっ、理解出来た?」
「ええ。確かに良い使用方法ですね! 城でもやってみたいと思います!」
「それで、購入出来る?」
「ええ。可能ですよ。さすがにすぐとはいかないので、自宅まで送りましょうか?」
「あっ、お願いしようかな。
後さ、俺の知ってる商人さんに流通をお願いしても良い?」
「良いですよ。福田さんのアイデアですから」
ありがたい。
商人には王城に来てくれれば話をするという事に決めた。
サガワさん辺りにでも話を持っていくかな。




