宝箱
早速トムさんの家に転移する。
珍しく今日は機嫌が良い。
何故かと尋ねると「いつもと違い、今日は何もしてない時に来た」から、だそうだ。
別に狙ってやってるんじゃないんだけどな。
「で、今日はどんな用事なの?」
「ほら、新大陸が出来たでしょ? 今そこに居るんですよ」
「あぁ、違う世界をくっつけたってやつね」
「そうです。で、そこで林を開拓して家を建てる事になりまして。
でもやり方が判らないので、トムさんなら知ってるかなと」
「そういう事ね。任せなさい! この家だって私が建てたんだから!」
「そりゃ凄い!」
「それで、どんな家にするの?」
「家と言っても、部屋が1つとトイレが1つだけの建物ですけど」
「えっ? それで良いの?!」
「ええ。部屋は『門のシール』を設置する為ですから」
「あ~、なるほどね」
納得してもらえたようだ。
余分な部屋まで作れば、それだけお金と時間がかかるからね。
「それで、どれくらいかかります?」
「そうねぇ。現場を見てないけど、3日って感じかしら?」
「そんなに早くですか?!」
「建てるだけならすぐよ。勿論手伝ってくれるんでしょ?」
「当然です」
「なら大丈夫よ」
早い。圧倒的に早い。
俺の知識で言えば、建物を建てるにはまず基礎工事が必要。
これがコンクリートで作るから、乾くのに1週間以上かかるはず。
次に柱を建てて屋根を作る。それから床を作り、最後に壁を作る。
人数増やして人海戦術をしたって、無理じゃないか?
それに伐採したばかりの木を使う訳にはいかない。
乾燥させる必要がある。そうしないと、乾燥した時に反ったりするからね。
最後に水道工事。トイレの工事の事だ。
水の補給は水の魔法石でどうにでもなるとして、排水は?
貯めておいて処理してるはずだけど、貯める所を作らなきゃいけないだろ?
不思議に思ったが、明日から工事に入るって言うんで。
出来るって言うんだから出来るんだろう。信用しよう。
明日、迎えに行くって事で今日は帰った。
翌日、迎えに行くとすでに準備が出来ていた。
トムさんの後ろを見ると、なんと既に家が出来ている!
いや、これは小屋か?
「トムさん、その後ろの小屋は?」
「これが今回建てる家よ」
「何でここに出来てるんですか?」
「これはね、組み立て式なのよ。私がヒマな時にちょこちょこ作ってるの」
「何で作ってるんですか?」
「最近ね、ダンジョンに来る冒険者が減ったのよ」
「は、はぁ。何の関係が?」
「一応ダンジョンの形にしてるのは魔力の補充の為なのよ。
それと実は人口の抑制ね」
「人口の抑制?」
「そう、人間には聞こえが悪いと思うけど、安全な世界になると爆発的に増えるのよ。
だからって戦争しろとは言えないでしょ? だからダンジョンで死んでもらうの」
確かになぁ。地球でも凄く人口増えたもんね。
医療も発達したので、死ななくなったし。
「人間の欲には際限が無いからね。宝物があると判ってれば、危険でもダンジョンに来るのよ」
「まぁそうですね。俺も食材や調味料は欲しいですし」
「でも何故かダンジョンに来る人が減ってるのよ!」
あっ、判った。
近くのカジノの町に俺がダンジョンを作ったからだ。
ヤベぇ。よし、黙っておこう。
「そこで閃いたのよ! もしかしたらモンスターを倒して得るだけじゃダメなのかもって!」
「はぁ、それで?」
「そこで宝箱! これに魅力的な物が入ってたら、それを狙って来るでしょ!」
「ま、まぁ、そうかもしれませんね。でも魅力的な物って?」
「ほら、人間が大金を手にした時、何を買う?」
う~ん、前世の日本なら……車か家だろうな。
あっ! もしかして!
「その顔は判ったようね。
そう! 宝箱から家が出るのよ!」
「ちょっと無理がありませんか? そもそも、入らないでしょ?」
「そこは考えてあるのよ! ほら、福田君が使ってる『コネクト』。あれを応用したのよ。
宝箱を開けるとそこには紙が1枚入ってるの。ほら、これよ」
手渡された物を見てみる。
そこには『3LDKの家のパーツ、Vol.5(屋根)』と書かれていた。
そして裏には魔方陣と説明書きが。
「そのシリーズを全部集めると一軒分になるの。
どこか設置したい場所で魔力を流すと、そのパーツが転送されてくる仕組み。
組み立ては書いてる通り、はめ込むだけ。
まぁ、最後の仕上げの塗装や細かい部分は自分達でやってもらう事になるけど」
判りやすく言えば、家のプラモデルって事か。
確かにこれなら家が欲しい人はダンジョンに来るだろう。
1枚だけ持ってたら、欲しい人に売るって手もあるな。
「しかし、これって、他が全部揃ってるのに基礎だけ無いってなったら悲しくないですか?
宝箱を開けても開けても屋根とかばっかり集まるとか」
「そういうのも狙いよ! そうなったら意地でも揃える為に来るでしょ?」
うわっ、課金のガチャみたいな事言ってるよ。ヒドいな。




