進むべき道
「盗賊に聴取をしたんだがね、会話を保存してんだからそれを聞けよ!と騒ぎ出してね。
本当にそんな事をしたのか?」
「あぁ、その事ですか。してますよ」
「……そうなのか。そんな便利な魔法道具があるのだな」
「え~と、そう、俺が作りました」
「何と! それは売ってもらえるのか?!」
「え~と、え~と、売っても良いですけど、ちょっと困った事がありまして……」
「それは何かな?! 価格か?! それなら気にしなくて良いぞ!
高価でも購入したい!」
「いえ、そうではなくてですね……」
う~ん、自分で作ったって事にして誤魔化そうと思ったのに。
売るのは良いけど、充電がなぁ。
電気の概念が無い世界だし。
あっ、そうだ。魔力って事にしよう。
「作ったのは良いんですけど、俺の魔力にしか反応しなくてですね。
多分ですけど、売っても1週間も持たないと思いますよ」
「そういう事か。買っても魔力を補充しなければ使い切ったら役に立たなくなると」
「ええ。ついでに言えば、保存したのも消えるかもしれません」
「う~む……そうか……それは改造出来ないのか?」
「いやぁ、改造も何も、偶然出来たようなものですから。
ヘタにイジったら壊れるかも」
「そうなのか……残念だ。聴取に使えると思ったのだが」
「あ~、なるほど。確かに必要でしょうね」
自供しても裁判で言ってないって言い出したら困るもんね。
後、録音してれば捏造も出来ないし、買収も出来ない。
「しょうがない。諦めるとしよう。
だが、もし完成したら売ってくれよ!!」
「あぁ、はい。勿論です。一応商人になるつもりなんで」
「商人? 魔法道具作成が仕事じゃないのか?
そう言えば、従魔使いでもあったな。盗賊を一網打尽に出来るほどの。
……何故、商人? 進む道を間違えてないか?」
「俺がなりたいんだから、それで良いんですよ」
「もったいないなぁ。そう言えば、門番に聞いたが、クラーケンを売ってるそうだな」
「ええ。釣り上げたので」
「釣り?! なぁ、本当に何で商人を目指してるんだ?
他の道の方が良いんじゃないか?」
いや、身分証が貰えるなら魔法道具作成でも従魔使いでも漁師でも良いんですけどね。
どれも自営業じゃないですか。
それだと、身分証がもらえないよね?
あっ、漁業は組合があったな。そこで発行してくれないかな?
いや、組合って漁師の集まりだよな。無理か。
「それで用事は終わりですか?」
「おお、話が逸れてたな。
いや、呼んだのは、その保存している会話を聞かせて欲しいという理由だ」
「あぁ、なるほど」
確かに録音したけど、提出してなかった。
俺の正義を守る為にも聞いてもらわないとね。
人権侵害してませんよ~。
一通り聞くと、自衛団の人は無言になっていた。
何か問題が? 問題の部分は消しておいたはずなんだが。
「な、何か問題がありましたか?」
「ん? いや、福田さんの行動には問題は無い。大丈夫だ。
それにこれを聞いて、あいつらが盗賊という確証も得た。ただなぁ……」
「何か?」
「言ってただろう? 領主と繋がりがあると」
「あぁ、言ってましたね」
「そうか……。うーん……そうか……」
おや、考え込んじゃったよ。
まぁ領主と繋がりがある盗賊なんて、困った案件だしね。
ま、俺には関係無いけど。
ん? いや、関係あるのか?
身分証を発行するのってどこだ?
国、もしくは領主じゃないか?
やべぇ、腐った領主だと貰えない可能性があるな。
いや、待て待て。俺は運を使ってこうなったんだ。
その領主絡みで発行される流れに違いない。
え~、でもそうなると、ラノベ的な展開になるんじゃないの?
例えば、このICレコーダーを使って領主の不正を録音してくるとかさぁ。
で、何故か俺が王様とかに直に報告させられたり……。
うわっ、面倒! よくラノベの主人公はこんな事出来るな!
あぁ、そう言えば、頼まれると断れない主人公とか居たなぁ。
便利に使われるだけの存在なのに、お人好しの一言で済まされる。無いわ~。




