取引する
とにかく「住民である証・登録費用・推薦状」の3つが必要な事は判った。
この内、登録費用は10万円という事だけは聞いておいた。
外に出て、ハーメルさんと再度話をする。
「いやぁ、登録出来ませんでしたよ……」
「えっ? 何がダメでした?」
「えっと……全部です」
「自信満々だったように見えたので、全て揃えてると思ったのですが……。
そうですか。あっ、推薦状くらいは書きますよ?」
ありがたい申し出だが、住民である証が無理なので登録出来ないんだよなぁ。
あっ、そうだ。この人を再登録した方が早いんじゃないか?
「ハーメルさんの再登録はどうなってるのですか?」
「まずは連絡待ちです。幸い隣町では商売をしたので、そこに連絡が行けば証明されると思います。
後は再登録費用が必要です……」
「そうですか。では俺と取引しませんか?」
「えっ? それはどのような? 私、無一文ですよ?」
「ハーメルさんの滞在費用と再登録費用を俺が出します。
その代わり、ハーメルさんは専属の商人になってください。
専属と言っても、ずっと一緒に居てくれって事ではありません。
売りたい物がある時に連絡しますので、買い取ってもらえるか、もしくは仲介してください」
「なるほど……。ご自身が登録出来ないので、代わりにやってくれという事ですね?」
「こういうのは禁止されてます?」
「いえ、大丈夫です。騙されてもその商人が見る目が無かっただけとなります」
「俺はどうです?」
「う~ん、正直な話……会ったばかりですが、信用しても良い気がしてます」
これは見る目があるって事じゃないんだよなぁ。
絶対に運の力だろ。
ラノベとかだと、アホみたいに簡単に信じたりするけどな。しかも大商人とかが。
普通は会ったばかりで信用しないだろ。商人ならなおさらだ。
「では取引は?」
「どうせこのままボーとしててもどうにもなりません。
よし! 取引しましょう!」
「ちなみに決め手は何ですか?」
「腹が減って死にそうってのもありますが、決め手は取引って事ですかね」
「取引が?」
「ええ。困ってるので無償で助けましょう、と言われるよりも信用出来ます」
「なるほど」
「後で何を言われるか判りませんからね。
取引なら成立した時点で双方にメリットとデメリットが出来ます。
後から文句を言う事も出来ませんし」
さすが商人。瞬時によく考えるね。
タダより怖い物は無いってか?
「でもよく信用しましたね?」
「それを言えば貴方も同じですよ。
無一文だと言っている知らない人間をお金を出して助ける訳ですから。
これが詐欺の可能性だってありますよ?
登録費用と言ってお金を貰い、そのまま逃げるかもしれません」
「そうですね」
「おや、落ち着いていますね?
私が逃げないという自信が?」
「いえ。ただ、逃げられたら地の果てまで追いかけるだけですよ。
幸い、俺は従魔を連れてましてね。空からでも探せますし、どこまでも追いかける事が出来ます」
「……怖い事言いますね。まぁ、騙す気は無いので良いんですけど」
走って逃げるならガーが追いかけるし、空からはチョロが追いかける。
地面に潜る? シロに探してもらうよ。
海に逃げたら船でドカンだ。
うん、こうやって考えると、確かに恐ろしいな。
「じゃあ話もまとまったし、早速取引に入りましょうか」
「そうですね。よろしくお願いします」
「ちなみに再登録費用はいくらなんですか?」
「倍額の20万円です……」
「な、なるほど……。では証明されるまでに20万円稼ぐとしましょうか。
おっと、その前に食事ですね」
そのまま全員で町を出る。
少し進むと林があったので、そこに入る。
「あの~、こんな所で何を?」
「食事ですよ。
後、今日はもうすぐ夕方になるので、そのまま明日まで休養しましょうか」
「は、はぁ……」
丁度良い木のウロが有ったので、その中に『転移板』を置いておく。
落ち葉で隠せば誰にも見つからないだろう。
そのまま船に移動して、そこから島へ行き、王都の自宅に戻る。
当然、ハーメルさんはポカーンだけど。
明日からは金策だな!
残金37000円だし、明日町に入るのに1万円必要だし。




