近衛アリと戦う…はず
翌日。
朝食は昨日の鍋の残りを温めて食べる。
聞けばダンジョンに入れば、こんな事は当たり前。
温かいのが食べられるだけありがたいそうな。
それを聞いた生徒は文句も言わず食べてた。
ゴメン、家に帰ってパンと紅茶で朝食したいと考えてました……。
鍋や食器を洗い、テントを片付けて装備を身に付ける。
それから集合だ。
「はい、おはよう」
「「「「「おはようございます!」」」」」
「今日の昼までが探索の時間です。
それまでに目的の植物を採取しましょう。ちゃんと依頼内容を覚えていますか?
えっと、そこの君、答えてみて」
「は、はい! えっと……『アロエの葉っぱを5枚』です!」
「正解です。昨日の時点で揃えたチームも、発見したら採るように。
依頼では5枚だけど、10枚あれば2回分報酬が貰える事もあるからね。
もし揃わなかった場合は依頼は失敗になります。
しかし、無理して集めようとしないように。時間厳守も依頼に含まれてますから。
それに無理すれば危険度も上がります。あと少し、なんて考えないように」
「「「「「判りました!」」」」」
今日は昨日の逆の順番で森に入る事にしている。
入る場所も500mくらい移動してるし、まぁアロエは見つかるだろう。
見つからない事も良い経験になるけどね。
当然、俺が面倒を見ているチームが最初に入る。
今日は食材は採る必要は無いが、欲しければ採っても良いと言ってある。
持って帰れば、家族への土産になるからね。
午前中で終わりなので、皆張り切ってますなぁ。
1時間後。
そろそろ、うちのチームにアリが現れるはず。
マップをこっそり確認すると、緑の点がすぐ先に居た。
現在先頭を歩いているのは女の子。
その子の前にいきなりアリが現れた!……って、シロじゃないか!
何やってんの?! 近衛だけで良いんだよ?! 王が出てくるなよ!
「がおー」
「キャーーーーーッ!!」
「うわっ! 獣が出た!」
「ヤバい! どうしよう!」
「先生! 助けて!!」
生徒は大混乱です。
いや、俺も混乱してます。
何故シロが居る?
そして、その棒読みのセリフ「がおー」って何よ?
生徒は全員俺の元に集まってきた。
おいおい、少しは戦おうって気が無いのかよ。
それに、出会った女の子は腰が抜けたのかその場に座り込んでるぞ。
おっと、全員だと思ってたら違ったわ。
ハズキ君だけが、剣を抜いて女の子を助けに向かってる!
やるじゃないか! シロはレベル100だから無謀だけどさ。
そうやって惚れられる訳ですね。判ります。チッ。
シロは両手を上に挙げて、自分を大きく見せている。
そして「がおがおー」と言っている。……全然迫力が無い。微笑ましいなぁ。
子供達からしたら、今にも襲い掛かろうとしてるように見えるんだろうが。
ハズキ君は女の子とシロの間に入り、剣をシロに向けている。
「今の内に逃げるんだ!」「で、でも、立てない……」
なんて言ってるし。
さて、介入しますか。
俺は『瞬歩』を使ってハズキ君の横に移動。
シロを見たまま、ハズキ君に話しかける。
「今の内にその子を連れて皆の所へ! そして防御してるんだ!」
「でも先生は?!」
「俺は大丈夫。さあ、早く!」
「は、はい!」
ハズキ君は女の子に肩を貸して、皆の所に向かった。
すぐに他の男の子が1人参加して、両脇を支えて連れて行った。
「よしよし。
で、何でシロがココに居るんだ?」
「皆で面白そうな事してる。ずるい。私も参加する」
「いや、王様が危険な場所に来ちゃダメでしょ」
「大丈夫。近衛アリ全員でこの辺りを包囲してるから。がおー」
「全軍出撃させちゃってるよ! 城はどうするのさ!」
「問題無い。どうせ誰も場所を知らないし。がおー」
「そういう問題かなぁ?」
「そういう問題。がおがおー」
「……まぁ、参加は判ったよ。で、その『がおー』って何?」
「獣の真似。怖いでしょ? ぎゃおー」
「いや、微笑ましいけど……」
「がーん」
がーんって口で言うなよ。それは効果音だろ?
きっとナグラさんが教えたに違いない。
一応戦いに来たって事になってるので、剣を出してシロと相対する。
シロが相手とは……すごくやりずらいわ~。
「今から攻撃するぞー」
「判った。左腕を狙って。そこに防御壁を張るから」
「じゃあ当たったら、シロから見て右に飛んでくれよ?」
「判った」
で、俺がシロを攻撃して吹っ飛ばしたように見せる。
そのままシロは退散。って言うか、隠れるだけなんだけど。
2~3分後にハズキ君達の所に戻ると、ホッとした顔そして憧憬の目をしてた。
茶番劇ですみませんでした!




