ナグラさんの謝罪
その日の夜、馬車の中の自分の部屋に居るとノックの音がした。
ドアを開けると、そこにはナグラさんが。
「ちょっと、良いかな?」
「ん? ど、どうぞ」
ラブな事ではない。
エロい事でもない。
なにせ、ナグラさんは、見た事の無いような神妙な顔をしているから。
何か重要な話でもあるのだろう。
もしかして、罰として2年間俺と行動を共にするってのがイヤになったのかも?
いい加減に許して欲しいのかもなぁ。
実際、巻き込まれただけだしさ。
「私、間違ってた。ごめんなさい」
「えっと、何が、かな?
いきなり謝られても訳が判らないんだけど……」
「私さぁ、今回の事を聞いた時に『学園編ね!』って言ったじゃない?」
「いきなり話が飛ぶね?! うん、確かに言ってたね。
しかも人を破天荒な主人公扱いしてさ……。あっ、その事を謝りに?」
「ううん。それはどうでも良いの」
「ヒドイな!!」
謝れよ!
誰が破天荒な主人公だよ!
おとなしく生活してるじゃないか!
「そこでさ、『今は教師として入るのよ! そして生徒を魔改造するのよ! その教師の生徒だけが異常に強くなるの!』
って言ったじゃない?」
「よく覚えてるなぁ。確かにそんな事言ってた気がするわ」
「で、『他校との大会で、生徒が無双するのよ! それで教師が貴族や王族に目を付けられるの!』って。
しかも『でも面倒とか変な理由で断るのよ!』って。覚えてる?」
「う~ん、何となく……」
言ってたような言ってなかったような。
まぁ、話を合わせておこう。
「あっ! 謝るってその事?」
「違うわ」
「違うのかよ!」
「今回のキャンプの間、自分の受け持った生徒をどうやって魔改造しようか考えてたわ」
「有限実行しようとするな! 何やってんだよ!」
「その為に勇者君に電話して、最新の話を探してもらったりしたの」
「日本と電話するな! って言うか、勇者君も断れよ! 何を協力してんの?!」
「それによると、最新は生徒の偏見・価値観・常識などをぶち壊す事だったわ」
「……それって、洗脳だろ」
「でもこの世界の魔法はイメージで増幅したりしない……。新しく生み出すことも出来ないの」
「そりゃそうだろ。魔法だって物理法則は無視出来ないんだから」
「だって魔法よ?! 物理法則を無視したって良いじゃないの!」
「いやいや、それこそ例えば物を浮かす魔法なんて無いじゃん。
出来たら、それは魔法じゃなくて超能力じゃね?」
「重力魔法とか使いたいじゃない!」
「重力って言ってる時点で科学じゃないか……」
「じゃあ、ファイヤーアローとか、どうやって飛ばしてるのよ?!」
「えっ? 知らないけど……。空気を圧縮して……とか?
その辺はホウズキさんにでも聞いてくれよ」
「そ、そうね。話が逸れたわ。ごめんね」
「いや、いいんだけど……」
結局、何が言いたいのだろうか?
トレンドじゃなかったって事しか判らない。
「話を戻すけど、持ってる価値観を変える事。これがトレンドなのよ」
「うん、それは判った。で?」
「さっき気づいたの。よく考えたら福田さんのやっている授業。
これこそが正にソレじゃないかって事に!!」
「違うわ!!」
「こうやって生徒を徐々に教育し、その子達が大人になった時に国が生まれ変わる!
国の、いえ、世界の意識が変わる! 正に真の知識チート!!」
「そんなつもりでやってない!!」
「生徒10人くらいを魔改造して最強にしても、それで終わり。狭い世界ね。
でもこの知識チートなら世界の考え方すら変わる! 壮大なスケール!!」
「そんな事になる訳無いだろ!」
「そう?」
「そうだよ!」
たかだか50人の生徒の意識が変わるだけで、世界中の意識が変わる訳無いだろ。
そんなの宗教でも無理だぞ?
まぁ、神様が出てくれば別だけど。
「だって、今現在、既に変わりつつあるわよ?」
「はぁ?! どこが?!」
「ハズキ君が居るじゃない。あの子、国王になるでしょ?
この学校、そういう子が結構いるわよ? ついでに言えばモリタ君もでしょ?」
「……」
そう言われれば、そうかもしれない。
ハズキ君は俺の考え方に傾いてる可能性はある。
で、でもさ、その程度じゃない?
「そういう子達が王様になった時、納得出来ない法律は変えるでしょ。
ヘタすれば、貴族なんか廃止するかもよ?」
「さすがに、そこまではしないと、思うけど」
「とにかく! 魔改造を福田さんは既にしてたって事!
だから、後から魔改造しようなんて言って、ごめんって謝りに来たの!
あ~、スッキリした! じゃあ、また明日ね!」
そう言ってナグラさんは出て行った。
俺は悶々としてなかなか寝る事が出来なかったよ……。




