ホテル騒動
どうも先ほどの男は、このホテルの従業員だったようだ。
俺の顔を見て、慌てて報告に行ったと。
何て迷惑な……。
しょうがないので、前回も受付に居た従業員に声をかける。
「すみません。部屋って空いてますか?」
「勿論で御座います! 最上階をご用意しております!」
「いえ、4人なんで二人部屋を2つで良いんですが……」
「何をおっしゃっているのか、判りかねますが?」
「えっ? 判らないかな? 俺、変な言い方したかな?
え~、男2人と女2人で1泊したいので、普通の料金の2人部屋が2部屋ほど空いてますか?」
「はい、最上階のスイートですね。無料となっております」
「あれ? 話が通じてないぞ?!」
「いえいえ、お話は伺っておりますよ。4名様ですね?」
「そうです」
「普通の料金ですね?」
「そうですそうです!」
「福田様に関しての普通は、無料となっております。4名様なのでスイートなら1人1部屋です」
あれれ? スイートで無料以外の選択肢が出てこないぞ?!
「スイート以外でお願いします」
「……」
「なんで黙るんですか! スイート以外の部屋でお願いします!! 料金も規定通り払いますので!!」
「……ただいま、スイート以外は、多分満室で御座います」
「今、多分って言った!! 受付の人なら空いてるか知ってるでしょ? 空いてるんだ!!」
「……きっと今満室になりました」
「言葉がおかしいって!!」
「そんな事は御座いませんよ。今日は非番の従業員が空いてる部屋に泊まる事になっております」
「どんなホテルだよ?! ……スイート以外は満室なんだね?」
「そうで御座います」
「じゃあ、違う宿を探すよ。手間を取らせて悪かったね」
そう言うと受付の人は青い顔になり、俺に腰にしがみついて来た!
見れば泣きじゃくっているじゃないか!!
「待ってください! 待ってください!!」
「何? 何よ?!」
「福田様が来られた場合は、スイートにお通しする様に厳命されているのです!! 当然無料で御座います!!
もしも不服に思われて帰られた、とサガワオーナーの耳にでも入れば……我々は……!」
「いや、俺がゴネてるだけだから大丈夫でしょ?」
「そういう問題では無いのです!! 泊まらずに帰られたという事実だけが問題になるのです!!」
「バレないから大丈夫だよ。誰にも言わないからさ」
「今はバレなくとも、いつか何かの折にバレた場合は、もっと問題になります!!」
「じゃあ普通の部屋に泊めてもらって、スイートに泊まった事にすれば……」
「それは先ほどと同じです!! 後にバレた場合、どうなるか……」
うわ~面倒くさい!!
そんなに厳しい人だったっけ?
「じゃあ自分がサガワさんに後で話するよ。それで大丈夫でしょ?」
「その場合は、永久的に泊まって頂くしか……」
「何で永久に泊まる事になるの?!」
「帰られた後に問題が発生するからです。
『お前ら、ちゃんと説明したのか?』『不手際があったんじゃないのか?』『接客態度に問題があるのか?』
『スイートはちゃんと清掃してるのか?』『ホテルに問題があるのか?』『このホテルは潰すか……』
となるのは目に見えてます!! 従業員一同路頭に迷う事になります!!」
クッソ面倒くさい!!
軽い気持ちで泊まりに来るんじゃなかった……。
後ろを振り返ると、仲間はクビを横に振っていた。
つまり、諦めろと。
その後ろには野次馬も集まってきてる。
確かにこの状況で帰ったら、間違いなくサガワさんの耳に入るだろう。
「……判りましたよ。泊まりますよ」
「!! ありがとうございます!! ありがとうございます!!
皆!! 福田様がスイートに泊まっていただけるそうだ!!」
「「「「「ありがとうございます!!!」」」」」
何、この、さらし者になった感じは。
それに、何か俺、悪者みたいじゃん。
そこの従業員達よ、抱き合って涙流しながら喜ぶなよ!
こうして、俺達はまたスイートルームに無料で泊まる事になった……。




