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家の話

帰ろうとしたら、王様から提案があった。

いや、提案と言うよりも嫌がらせじゃないかと思うが。


「そうだ、福田殿。家を送るという話なんだが」

「ええ。確か作ってるんでしたっけ?」

「そうだが、工事が難航していてな」

「何でです?」

「大工のほとんどが、今は『ばんえい競馬』の方に行っているのだよ」

「まだ、工事する所がありましたっけ?」

「人気なのでな、客席を拡張しているのだ。それにそりも増やしている。

 大工は民営なので、どっちに行くかを強制出来ないのだよ」

「あぁ、あっちの方が、自分の仕事が残るって意味では工事する方も嬉しいですもんね」


一般住宅を建てるよりも、オリンピック会場を作った方が自慢出来る。

そういう感覚だと思う。


「そこでだ。既存の家を譲ろうかと思うのだが、どうかね?」

「はぁ、別にかまいませんよ。希望にさえ沿っていれば」

「そこは大丈夫だ。金を存分に使って改造してあるし、庭も広いし、立地条件も良い」

「じゃあそれで良いですよ」

「よし、決まりだ。言質は取ったぞ」

「……その言い方、何かありそうですけど。事故物件はイヤですよ?」

「自殺者が出たとか殺人があったとかでは無いから、気にするな」

「それって、事故物件じゃないとは言ってませんよね? 事故物件なんですね?!」

「正確に言えば、事故物件になる物だ」

「……どういう事ですか? なんなんです?」

「簡単だよ。コジマ伯爵の家だ」


はぁ?!

あの、伯爵の家だと?!

何で家を出る事が確定してるんだ?!


「いえいえ、どういう事ですか?」

「家の事だけに、いえいえとは。上手い事言うな」

「そんなつもりじゃないですよ! 誤魔化さないで! 説明して! まだ裁判すらしてないでしょ?!」

「福田殿。考えてみたまえ。

 神と王の前でウソをついて自分の犯罪を誤魔化そうとした。

 そんな人間が無罪になると思うかね?」

「……思いません」

「それにだね、あの神器を使っての尋問。

 これからは使わずに尋問するが、またアレを使うと脅したらウソをつくと思うかね?」

「……無理でしょうね」

「だからあの家は空き家になるのは確定しているのだよ。

 今なら従業員も付いてくるぞ! お得だ!」


何をテレビショッピングみたいな事を言ってるんだ。


「待って下さい。お得な訳無いじゃないですか! 犯罪に加担した者だって居るかもしれないのに?」

「そこはちゃんと調べるさ。どうかね?」

「お断りですね」

「そうか、残念だ。

 あ~、ただ伯爵家で働いていただけの善良な執事やメイドも仕事が無くなるのか~。

 他で雇ってもらうにも、噂の伯爵家で働いていたと知られればどこも雇わないだろうな~。

 家族が居る者も居るだろうな~。仕事の無い女性は身を売るしかなくなるのかな~」

「脅しですか?!」

「独り言だよ、独り言。

 住み込みだった者は家も無くなるのか~。路地裏で冷たくなってなければ良いのだがなぁ」

「城で雇いなさいよ!」

「城で雇うには厳しい審査があるのだよ。簡単には雇えないな」

「仕事を斡旋してあげるとか!」

「福田殿。城が推薦したとしてもだな、結局は民間のギルドの仕事なのだよ。

 そこに口を挟む事は出来ない。勝手に斡旋しては問題になる」

「ぐぬぬ……」

「逆に、利点を考えてみたまえ。

 まず、すぐに手に入る。

 次に、従業員は家の事や構造に詳しい。

 最後に、すぐに退去させるので、万が一隠し財産などがあれば全て福田殿の物だ。

 あぁいうヤツの事だ。隠し財産くらいあると思うぞ?」

「……そうだ! 俺が奪い取ったみたいに思われるんじゃないですか?」

「そう思われるのは事情が広まる前だけだろう。

 それに定住する訳ではないので、そんな噂が出ても別に困るまい?」

「……判りましたよ! それで良いですよ!」

「うむうむ。そう言ってくれると思ってたぞ。さすが福田殿だ!」


くそぅ。上手い事丸め込まれた感じだ。

何か一矢報いたい! あっ、そうだ。


「じゃあ、その家を貰うって事で。

 あっ、神様が来たらその家に泊まる事になりますね。

 変なうわさはたたないようにしておいてくださいよ? 失礼になりますよ?」

「なっ?!」

「あっ、ここで結構です。降りますんで。じゃ」


走ってる馬車から飛び降りて逃げる。

言い逃げだ。

勿論、運を使って飛び降りたから怪我も無し。

さ、帰ろう。

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