天使光臨
イイクラさんは俺に向かって、唇の前に人差し指を立ててシーッとやった。
喋るなって?
不思議に思ってると、アポロン神に向かって話し出した。
「そこに居るのは、こちらの世界の王ですね? 退出させて下さい」
それを聞いて、手を振って転移させようとするアポロン神。
また転移か! そりゃマズいだろ!
「ちょっと! 転移はストップ!」
「何故だ、福田?」
「良いから、黙ってて。王様、神と話す事がありますので、この部屋を借りても良いでしょうか?」
「あ、ああ。かまわないよ」
「では、王様を城に送りましょう」
「いや、転移は止めてもらえると助かる。ここで指示を出したからね。
また転移で帰れば騒ぎになってしまう。自力で帰るよ」
「そうですか。迷惑をかけましたね」
「いや、迷惑をかけたのはコチラだ。
そうだ、福田君。後で来てくれないか?」
「了解しました」
そう言って王様は部屋から出て行った。
それを見届けた後、イイクラさんが話し始めた。
「ふう。見えない聞こえないようにするのは意外と大変ですね」
「あぁ、隠れてたんですか」
「ええ。むやみに姿を見せるものではありませんからね」
「そうですよね~」
チラッとアポロン神を見る。
あっ、目を逸らした。
「所で、何しにここに?」
「『死者の入り口』の備品が1つ紛失しましてね。調査ですよ。
もう判りますよね? アポロンさん?」
「えっ?! 無許可で持ち出したんですか?!」
「そうです。さぁ、説明してもらいましょうか」
「何故、俺だと判った!!」
「監視カメラにはっきり映ってましたよ。堂々と持って出る所がね。
既に閻魔様と奥様には連絡済みです」
「げぇっ!!」
ナイスだ、イイクラさん!
正に天使! いや、実際に天使なんだけどさ。
本当に称号に相応しいぜ!
その様子を見てたら、また誰かが現れた。
若い男の人だ。何処かで見た事あるなぁ。誰だったっけ?
「さ、父さん。行きましょうか」
「げっ! アスク! 何故ここに?!」
「迎えに来たに決まってるでしょ。イイクラさんだけじゃ帰らないに決まってますからね。
おっと、これは福田さん。初めまして。私はアスクレーピオスと言います」
「こ、これはご丁寧に。福田哲司です、アスクレーピオス神」
「ははは、アスクで結構ですよ。
今日の所はこれで失礼します。このダメ親を連れて帰らなくてはいけないので。
また後日、お詫びをしにお伺いさせてください」
「いえいえ、お気になさらず」
「そういう訳にはいきませんよ。多大な迷惑をかけたのですから」
う~ん、本当に親子なのだろうか。
むちゃくちゃ良い人(神)っぽい。
たださ、お詫びと言うなら、もう来ないで欲しい。
どんどん知り合いの神が増えていくからさぁ。
そのままアスク神はアポロン神を捕まえて転移していった。
残ったイイクラさん。
あれ? 帰らないの?
「この度はご迷惑をおかけしました」
「イイクラさんが言われる事ではないですよ。気にしないでください」
「それでですね、ルシファーさんから伝言を預かってますので、お伝えします」
「あっ、お願いします」
「『船を調べたら、驚く事が判明したよ。船と島は異界扱いになってた!
物理・魔法を無効にしたら世界が変わってたんだ。ははっ、面白いね!
だから『門のシール』が無効でも当たり前なんだよ。異世界に行く魔法じゃないからね。
何か方法を考えておくよ!』との事です……」
なるほどね~、だから無効なのか~。
って、異世界?! 世界の中に異世界を造ったのか?!
神様、無謀過ぎます……。




