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名乗り

突然呼び出された王様は、困惑しながらも俺に話しかけてきた。


「ふ、福田殿。さっきまで政務室に居たのだが……。これは貴方が?」

「違います! 俺じゃないですよ!」

「で、では何が……」

「俺が呼んだ!」

「は? 呼んだ? どうやって? いや、何が、どうして? え? え?」

「落ち着け! 福田、説明してやれ」

「ここで俺に振りますか……」

「事情を一番良く知ってるのはお前だろう。他に説明出来るヤツが居るか?」

「……判りましたよ。説明しますよ」


呼んだ本人が説明するのが当然だと思うんだが。

まぁ、この一連の行動から考えて脳筋っぽいもんなぁ。

細かい説明とか無理なんだろうなぁ。


「ふ、福田殿? どうなっている?」

「落ち着いてください。ここはセキハイムの『ばんえい競馬場』の指定席です。

 ほら見覚えあるでしょう?」

「ん? ああ、確かに」

「突然連れ去られて困惑してるとは思いますが、危害を加える訳では無いので落ち着いてください」

「う、うむ。判った」

「あのですね。騎手が本気で走ってないとこの人が言うんですよ。

 着順はあらかじめ決められているのではないか、と。そうなんですか?」

「は? そんな訳なかろう。誰もが本気で走っているはずだ。

 なんせその賞金で暮らしているのだから。

 それに本気で走っていないレースなぞ、国技として最低だろう」

「って事だそうですよ?」

「ふん。王がそう言ってもだな、本気で走ってない事は明白だぞ?」

「何を根拠にそう言われるのかな?」

「見れば判る」


いや、見て判るのは神様だけだと思うんですけど。

もしくはその道の達人とか。

少なくとも、出来たばかりのレースだから、誰も判らないと思う。


「と言う事は、何らかの要因でそうなっているという事ですかな?」

「そうだろうな」

「何を言っている!」


おっと、王様と神様が話してる所に貴族が割り込んできたぞ。

止めといた方が良いと思うんだけどなぁ。

一国の王と世界を創造する神様だよ? まぁ止めないけどさ。


「確かに貴方が疑わしいと言っているだけで根拠が無いですな」

「根拠? 俺が言っているだけでは根拠にならない、と? そう言いたいのか、王よ」

「まあそうですね」

「……福田! 俺の身分を言ってやれ!」

「え~。それは止めましょうよ~」

「俺を疑うとは許されないだろ! 言ってやれ!」

「それなら自分で言って下さいよ。俺を巻き込まないで下さい」

「自分で言うと、自慢してるみたいだろうが!」

「人に言われてもそうですよ。一緒です」

「良いから! 言えよ!」

「責任取ってくださいよ?」


どうにも逃げられないようだ。

こうなったら全責任を取ってもらおう。

いざとなれば、閻魔様とか奥さんにチクってやる!

いや、いざとならなくてもチクるけど。


「この人は、アポロン。その世界を創造した神様の1人です」


はい、全員がポカーンです。

そりゃそうだ。創造神が普通に居る訳が無い。

それにダヒュテムは知られれても、アポロンなんて誰も知らないだろ。

日本でも一部の人しか知らないと思うぞ?

あっ、この世界で顔くらいは知られてるかも。

ダンジョンをオープンさせた時に、空に顕現したもんね。


それでも王様はいち早く復活して、俺に問いただしてきた。


「……福田殿? 事実ですか?」

「残念ながらそうです。王様を転移させたのもこの人の仕業です」

「残念とは何だ!」

「一般人の前に普通に姿を出すだけで、残念な神様ですよ」

「ぐぬぬぬ……」

「え~と、本当なんですか?」

「ええ」

「まだ、信用せぬか! ならばこれを見よ!」


そう言ってアポロン神は、快晴の空をあっという間に曇り空にしてしまった……。

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