八百長
到着すると、入り口で待っていた私兵のような人がこちらにやってきた。
どうやら指定席を取ってあるらしく、そちらに案内するという。
連れて行かれた先には、あの貴族が待っていた。
「ふん、どうやら逃げずに来たようだな。
まあ、逃げた場合は二度とこの国に入れなくなるだけだがな」
そう言った後、そいつは椅子に座りふんぞり返っている。
横に居た執事のような人が、どうやって勝負するかを説明してきた。
内容はチョロに聞いたのと同じだった。
ただ、発走の5分前には決める事、その後は変更出来ない事、という2点が追加されていた。
あ~、騎手に伝える為ですよね。
説明では馬券を買いに行く為だと言ってたけどさ。
ちなみに今回は、俺とアポロン神の2人で来ている。
何かがあった時にカンダさん達が危険だからね。
その為の護衛だって? 違うんだよ。
何かがあるってのは、貴族側が暴挙に出るという意味じゃなくて、アポロン神が暴れるって意味。
神様が暴れる場所には居ない方が良いでしょ?
とうとう5レースが開始された。
結果は当然貴族の選んだ馬が1着で、俺の選んだ馬が6着。
最下位にならなかったのは、途中で2頭のそりが接触してレースが続行出来なくなったから。
地味に増えた運が戻ろうと頑張っているようだ。
アポロン神が横でイヤな顔をしているので、運を感じてるのだろう。
故意に使ってないので、そこは見逃してもらいたい。
そんな事を考えてたら、突然アポロン神が立ち上がった。
トイレ? いや、神様ってトイレに行くのか?
いや、行くだろうけど、こっちに顕現してる時に行くのかって意味だよ?
「何だ、このレースは! どいつもこいつも本気でレースしてねぇじゃねぇか!」
おっと、不快な顔をしてたのは、俺の運に対してではなかったようだ。
さすが神様。本気じゃないってのが判るんだな。
「おい、福田。この『ばんえい競馬』ってのは、あらかじめ決められてる着順を予想するものなのか?」
「いえ、違いますよ。違うと思いますけど」
「何でそんなに曖昧なんだ?」
「運営してるのは俺じゃないので。国が運営してるんです。
なので、もしそうだとしても知りません」
「誰に聞けば判る?」
「そりゃ王様でしょうね」
王様なら知ってるだろ。
まぁ、あの王様がそんな事を許してるとは思えないが。
しかも国技だし。
多少の便宜はあるかも知れないけどね。
ほら、日本の競馬みたいにさ。勝ってもらいたい馬を有利な枠番に入れるとか。
アポロン神と話してると、イモ貴族が顔を真っ赤にして文句を言ってきた。
「貴様、何をいい加減な事を言っている!」
「うるせぇ! こっちは大事な話をしてるんだよ!」
「なっ……」
さすが神様だ。
怒りの威圧だけで、黙らしちゃったよ。
貴族の護衛をしている人達も動けないようだ。
「責任者はこの国の王なんだな?」
「そうです。俺は開発に係わっただけですんで」
「判った」
そう言うとアポロン神は左手を前に出して、横にサッと振った。
すると目の前にセキハイムの王様が登場した!
手を振っただけで召還ですか?!
さすが神様、規格外だぜ。
って、何やってんですか?!
皆、驚いて固まってるじゃないですか!!
いきなり呼び出された王様も目を丸くしてるし!!




