不正の方法
次の日の朝、チョロが戻ってきた。
「えっとですね、昼から行う5R~7Rに出走する全ての騎手を買収するって事にしたみたいっすよ」
「ふ~ん、じゃあ5R~7Rで勝負する気なのかな?」
「そうみたいっすね。色々決めてたっすよ」
8頭出走でその全てに色が振り分けられている。
1枠から、白・黒・赤・青・黄・緑・オレンジ・ピンク。
これは俺が頑張って思い出したんだよ。違うかもしれないけど。
で、貴族が賭けた馬の色を上半身に、俺が賭けた馬の色を下半身に着る。
その装備をした貴族の部下がスタート付近に立つらしい。
これによって、騎手は誰が勝てば良いのか、誰が最下位になるのか判るそうだ。
複数のレースで行うって事、1着と最下位を決める事。
この2点から、着差で決着を付けるつもりだと推測できる。
例えば、俺の選んだ馬が1着で、貴族の選んだ馬が5着だったとしよう。
その場合引き算をして、5-1=4となり4ポイントが俺の持ち点となる。
これを3レース行い、ポイントの多い方が勝利となる。
チョロに確認した所、間違いないと言ってた。
意外に安全策を取ってきたなと思う。
競馬には落馬ってのがある。
談合してても確実に勝つって事は無い。
1レースだけで勝敗を決めると、負ける可能性があるのだ。
だから複数のレースにしたんだと思う。
そして着差。
もしそうなった場合、落馬した馬は最下位扱いだ。
なら俺の選んだ馬を最下位でゴールさせれば、着差は1で済む。
見事な作戦だと思う。
相手が俺じゃなければね。
ここまで仕込んだのだから、俺を競馬場で負けさせたいのだと思う。
だけど、それまでに何も無いとは思えない。
一応、毎日運を使うようにしておこう。
『1日、危険が無く過ごせますように』と願っておけば、安全だろう。
そう願った瞬間、運が10も減った!
普通は1しか減らないのに、どういう事だ?!
これはもしかして、その日の危険度によって減りが変わるって事なのか?
だとすれば、今日はどれだけ危険だったんだよ!
その日は結局、何も起きなかった。
起きないように願ったからだと思うけど。
こうやって運が見えるようになると、色々考えるね。
日本に居た時も、日々こうやって運を使ったり補充したりしてたんだろうな~と。
何気ない日常も運で危険を回避してたのかも。
さて、翌日の朝。
勝負の日。
運を使う前に最大の不幸(?)が訪れていた。
「話が出来ないから、直接来たぞ!」
そう。目の前にはアポロン神が居るのだ!
何でここに?!
「あの~、何しに来られたんですか?」
「話をしにだ!」
「え~と、業務の方は?」
「誰かが代わりにやってるだろ!」
え~。それで良いのか?
ちょっと連絡しておこうかと思って、タブレットを出したら腕を掴まれた。
「何をしようとしてるのかな?」
「いえ、あちらに連絡しておこうかと思いまして」
「必要無い! そう、必要無い! 問題無いから必要無いぞ!」
「何で3回も言ったんですか? 問題無いなら連絡しても良いでしょう?」
「……えーと、そう、いらぬ心配をかける事になるからな!」
「今考えたでしょ?」
「そんな事は無い!」
「……コローニスさんは知ってるんですか?」
「何で嫁の名前が出る?! よよよ嫁は関係無いだろ?!」
「そうですか。……ちょっとトイレに行ってきます」
「おう、行って来い。タブレットと携帯電話は置いていけよ」
ちっ、バレたか。
しかし、どうにかして連絡しないとなぁ。




