物件相談
その日は結局船に戻る事は無かった。
サミットなんかよりもキジマさんの妊娠の方が大事だよ!
ナグラさんとコタニさんはキジマさんの面倒を見ていたし。
で、夜に俺はカンダさんから相談を受けていた。
「それでカジノの町の家なんですけど。
手に入れたのは良いんですけど、ほとんど帰らないんですよね」
「それはごめん。間違い無く、俺のせいだね……」
「いえ、責めてるんじゃないんです!
冒険者になった時の目標だっただけなんで。でもこうして入手してしまっても、使ってないなぁと。
仕事が変わったのもあるんですけど、達成してしまうと、そこまでじゃなくなってて」
「あぁ、そういうのはあるよね」
「それでですね、福田さんが良ければなんですけど……このまま住まわせてもらうのはダメでしょうか?」
「ん? それは全然良いんだけど。と言うかそのつもりだったし。
どうせ、島にも家があるしね。でも、あの家はどうするの?」
「そうなんですよ。キジマとも相談したのですが、売ってしまおうかと思いまして」
「えっ? それで良いの?」
「ええ。持っててもしょうがないですし。それに税金もかかりますから」
確かに。
俺は王様から免除されてるけど、カンダさんには税金を払う義務があるもんね。
住んでないのに払うのはもったいないよな。
「じゃあ、売るって事なのね。でもそれを言われても、俺には判らないよ?」
「サガワさんを紹介してもらえないでしょうか?」
「あぁ、なるほど!
でも、サガワさんなら俺が紹介しなくても大丈夫だと思うけどなぁ」
「騙したりされる方では無いと判ってますが、契約とかキジマに任せていたので……。
同席してもらえないでしょうか?」
「そういう事ね。了解!」
って事で、翌日も船に行く事も無く、カジノの町に行った。
サガワさんには昨日のうちに連絡しておいたので、朝から会える事になっているから。
「福田さん。相談事とは何でしょうか?」
「前に世話してもらったと思うのですが、カンダさんの家の事なんですよ」
「ほうほう。あの物件がどうかしましたか?」
「ほら、カンダさん、話して」
「は、はい。この度、嫁が妊娠している事が判りまして」
「ほう! おめでとうございます! おめでたいですね!」
「あ、ありがとうございます。それでですね、福田さんが自分の家に居れば良いと言われまして。
確かに嫁の面倒を見る者も居ませんから、その方が安心出来るのでお言葉に甘えたのです。
しかしそうすると、あの家が無駄になるので売ろうかと思いまして。
そこでサガワさんに協力して頂けないかと、相談しに参りました」
「なるほど、なるほど。そういう事ですか。
……ではこうしませんか?
あの家は売るのではなく、人に貸すのです。そして家賃収入を得ましょう」
「えっ? え~と、福田さん?」
「いや、俺に振られても……。
え~と、売るよりも良いんですか?」
「ええ。売ればそれで終わりです。売却による税金もかかりますし。
それよりも貸し出した方が、長期で考えた場合は得だと思いますよ」
ふ~ん、こっちの世界じゃそうなのかもね。
あっ、でも管理とかは?
「でもそれだと、家賃の回収とかしなきゃいけないんじゃないですか?」
「その辺はお気になさらず。私の所の不動産部門で全て管理します。
カンダさんは放っておくだけで、毎月収入が入るようになりますよ。
福田さんの護衛なのでそんな事は無いでしょうが、万が一怪我などで引退された事を考えるとその方が良いと考えます」
なるほどね。
1時的に高額を手にするよりも、安定した収入を得た方が良いって事か。
特に冒険者は危険な仕事だもんな。収入も安定しないし。
怪我して引退したら収入ゼロはヤバい話だ。
それに高額の収入を得ると、冒険者って武具とか買って散財しそうだもんね。
「俺は良い考えだと思うけど、カンダさんはどう?」
「う~ん、そういうのは判らないので……サガワさんに一任します」
「判りました。期待に答えられるように頑張りますよ!」
そう言って作られた契約書は、ムチャクチャな物だった。
サガワさんはほとんど儲けが無い。
なのに、修繕などの管理から家賃回収まで全てサガワさん側が行う事になっている。
しかも誰も借りていなくても、家賃をサガワさんが払うというものまで書いてある。
カンダさんは何もしなくても、毎月収入があるだけ。
こんなので良いのか?!
「はっはっは、ダンジョンの儲けもありますから。この程度では恩返しにもなりませんよ。」
こんなムチャクチャな契約でも痛くも無いほど儲かってるのか。
さすがやり手だなぁ。




