福利厚生?
「キジマさん! 妊娠してるよ!」
俺がそう言うと、皆が一斉に驚愕の顔になった。
が、すぐに女性陣は立ち直り、お祝いの言葉をかけていく。
カンダさんだけは固まったまま。
俺は慌ててヒタキさんを呼ぶ。
有能な執事のヒタキさんなら、妊娠についても詳しそうだと思ったから。
「キジマ様、おめでとうございます」
「あ、ありがとうございます」
「医者を呼んでくるので、そのまま寝てお待ちください。
そうそう、安定期に入るまでは、過度の運動はおやめください」
そう言ってヒタキさんは退出した。
ヒタキさんに任せておけば、良いお医者さんを連れてきてくれるだろう。
いや、それよりも今はキジマさんだ。
「じゃあ、キジマさんは産休だね」
「産休? 産休とは何でしょうか?」
あれ? この世界には産休って言葉は無いのか?
「出産の為に、仕事を休む事だよ」
「えっ? いえ、護衛の仕事を休む訳にはいきません」
「いやいや、さっき安静にしてろって言われたじゃん。
それに産休中でも給料は払うから収入も大丈夫だよ」
「そんな話は聞いた事もありません!」
え~、そうなの?
いや、待てよ? 日本でも出産後の職場復帰は認めてても、産休中の給料までは無かったような……。
まぁ、いいか。俺が雇い主なんだし。
「うちでは産休ってのは、そういう事だから。
勿論、出産後もキジマさんが良ければ、また働いてもらうから。
これはうちで働いてる執事さんやメイドさんにも適用してる事なんで、特別じゃないよ」
「そ、そうなのですか? でも……でも……」
「子供は大事だから。ね。
とにかく、妊娠おめでとう!」
「は、はい。ありがとうございます」
コタニさんから聞いた話では、妊娠した冒険者はクビになるのが当然らしい。
どこも雇ってくれないので引退するしかないのだそうだ。
基本的に、結婚=引退になるんだってさ。
まぁ、俺も金銭に余裕が無ければその可能性もあったかも……。
そんな事を聞いてたら、ヒタキさんがお医者さんを連れて戻ってきた。
どうやらこのお医者さんは優秀な人で、ハズキ君も取り上げたほどらしい。
ハズキ君、王様の孫だもんな。城でも重用されるほどの人なのか。
あっ、女性ですよ。
出産だもん。男の医者より女性の方が良いよね。
お医者さんがキジマさんを診察している間に、さっきの事をヒタキさんにも話しておく。
「それは本当ですか?」
「ええ。えっと、福利厚生って言うんだったかな?
とにかく、そういう事です。執事さんやメイドさんにも通達して下さい」
「判りました。雇用契約も更新しましょう」
「あぁ、そうですね。その辺はお任せしても良いですか?」
「お任せください」
「ありがとう。頼みます」
これでこっちはOKっと。
後はカンダさんとも話しておかないとね。
固まってるカンダさんを叩いて再起動させてから、契約の話をした。
最初は戸惑っていたが、理解出来ると涙を流して喜ばれた。
ついでなので、もう1つ気になってた事を聞く。
「そういえばさぁ、カンダさん達は自宅があるでしょ?
そっちで休養するのは不便じゃない? カンダさんが仕事に出てる時は1人になるでしょ?
こっちに部屋もあることだし、このまま住んでても良いんだけど、どうする?」
「確かに……。お言葉に甘えても良いですか?」
「もう家族みたいなもんじゃん。いまさら遠慮しないでよ」
そんな話が聞こえたのか、キジマさんからストップがかかった。
「そこまで甘える訳にはいきませんよ」
「え~、そうかな。……じゃあこうしようよ。
どうせキジマさんは動けないんだから、その間にヒヨに色々教えてよ。
ヒヨの教師役、それが仕事。仕事中なんだから、うちに居てもおかしくないでしょ?」
そう言うと、しぶしぶながらも了承してくれた。




