10段
俺の訴えが通り、今日はこれで帰れる事となった。
勇者君はまだ居て欲しいような顔をしていたが。
家に帰ったのは3時過ぎ。既に皆帰宅していた。
フライパンの娘はこっちの女性陣が買い物をしてたってのを聞いて、凄く羨ましがっていた。
そりゃ魔王討伐なんて任務を受けてたら、そんなヒマは無いよな。
でも、勇者君が決めた事とはいえ、反対しなかったのは自分達だ。
それにあの国では自由も無いだろうし。
魔王討伐を成功したら、帰る前に買い物くらいさせてあげようかね。
あっ、勿論付いて行くのは勇者君とカンダさんだよ? 俺は行かないからね?
ついでなので、またお菓子をあげた。
あの時、帰ってからバレて凄く怒られたらしいが、こりずにまた食べてる。
また怒られるんだろうなぁ。
さて、フライパンの娘も帰った事だし、皆に仏様から聞いた事を話しておく。
仕組みが判らないので、全員で行くつもりなので。
「仏様からお話があって、ミノタウロスのダンジョンに行く事になりました」
「えっ? それは勇者が任務を終わらせてからじゃないの?」
「それはそれで行くよ。何でも、頂上にある大木に触れて『センス』の魔法を使えって事だ」
「それで何か起きるんスか?」
「そうする事で『センス』の魔法の届く距離が格段に伸びるらしい」
「へ~。でも後で一緒にでも良いんじゃないの?」
「それで勇者君をサポートしろって事だから、先に行ってなきゃダメじゃない?」
「しかし、移動方法はどうするのです? ここから馬車ではかなり時間がかかりますよ?」
「あそこはジローが居るじゃん? 多分トムさんなら連絡付くと思うんだ。
で、何らかの方法で行く事が出来るんじゃないかなと思ってる」
「その方法で、私達も行けるのでしょうか?」
「俺達は無理でも、その場合はトムさんに『転移板』を持って行ってもらえば良くない?」
「なるほど。それなら楽に移動出来ますね」
という事で、早速トムさんを召還だ。
いや、いつも変な時に呼んでるな。
それに今日はもうすぐ夕方。明日でも良いか。
今の内に『明日の9時に召還します』とメールを送っておいたので、タイミングが悪くても俺のせいじゃない。
今日の晩御飯もツナザメでした。
翌日、9時になったのでトムさんを召還だ。
到着したトムさんは、何故か機嫌が悪い。
「どうしたんですか?」
「いつもタイミングが悪いじゃない? で、9時に召還するって昨日メールをもらったじゃない。
それが気になって、今日は6時に目が覚めたのよ。で、二度寝してもアレだし起きてたの。
でも、する事なんか1時間もあれば終わっちゃったの。しょうがないからトランプタワーを作ってたのよ。
で、こういう日に限って、最高記録の10段まで出来ちゃったのよ。最後の1枚を載せる時に召還されたって訳」
なるほど。手にはトランプが1枚残っている。
推測するに、正に載せようとした時に呼んでしまったって訳か。
帰ったら崩れてるんだろうな。
だから機嫌が悪いと。
「でも、それって俺のせいじゃないですよね?」
「直接的には違うけど、間接的には福田君のせいよ!」
「そんな理不尽な」
「で、今日は何よ?! つまらない用事だったら許さないからね!」
「つまらなくないですよ?! ジローの所に行きたいんです」
「最低な用事じゃない!! すっごくどうでも良いわ!!」
「いやいやいや、仏様のお告げなんですってば! 重要ですよ?」
「えっ? 仏様?」
「そうですよ。ミノタウロスのダンジョンの頂上へ行けっていうお告げなんです」
「それを先に言ってよ! で、どうするの?」
「何か行く方法はありますか?」
「私の住んでる所からなら、行く事が出来るわ」
「それは使わせてもらえます?」
「イイクラの担当なんだけど、仏様に言われたのなら問題ないでしょ」
「判りました。じゃあトムさんの家に向かいます。トムさんは一旦帰しますね」
「了~解」
トムさんの家には『門のシール』が設置済みなので、問題無いね。
トムさんを送り返してから、『コネクト』でトムさんの家に行く。
すると、落ち込んだ顔のトムさんが出迎えてくれた。
やはりトランプタワーは崩れていたようだ。
だから、俺のせいじゃないですよ?




