仏再臨
次のモンスターを探してる内に1時間が経過して、魔王城の前に到着してしまった。
魔王城は森の中にポツンと建っている。
周囲200mには木々が無く、森から出ると丸見えになる。
突入する前に休憩するらしく、森の中で食事の準備が進んでる。
「ヨシヒ……、いや違う、テツジー、テツジー!」
こ、この声は……仏様?!
このタイミングで何故?!
周りが人だらけなのに!
だがこの声は俺にしか聞こえてないようで、誰も空を見ようとしていなかった。
少し安心したが、一応トイレと言って皆から離れる。
だって「誰にも聞こえない見えない」なら俺は一人で空に向かって喋ってる変な人になるからね!
「ヨシヒ……、いや違う、テツジー、テツジー!」
「はいはい、何ですか仏様。わざと間違えなくて良いですよ」
「いやぁ、様式美だよ」
「どんな様式美ですか……。あぁ、コスプレまで完璧にしちゃって! どこを目指しているんですか?!」
周囲にはダンボールで作ったのか、お手製の雲がヒモで吊るされている。本物が出せるでしょうに!
後ろからはライトが照らしている。後光のつもりなのか? 本物を出せば……いや、もうツッコまないぞ。
「で、何ですか?」
「いやね、突然魔王の所に福田君が現れたからさ。どうしたのかなと思って」
「そういう事ですか。たまたまですよ。勇者の慰問に来ただけです」
「その割には率先してモンスターを倒していたようだけど?」
「新しく魔法を覚えたので、練習してただけですよ」
「ふ~ん。で、どんな魔法を覚えたの?」
俺は覚えた魔法を仏様に説明した。
その最中、何か聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「あれっ? 仏なにしてんの? あっ、福田君じゃん! おーい、見える~?」
「おい、今は私が話してるんだよ。邪魔するなよ!」
ルシファーさん登場だ。
「んんっ、さて福田君よ。君の覚えた『センス』だが……」
「ルシファーさん、何してるんですか? あっ、仏様、こんにちは~。あっ福田君だ!」
「こらっ! アサイ! 映るな! 邪魔!」
「元気~? 私は元気だよ~。皆も元気にしてる~?」
何だこれ?
何か重要な事を話してくれそうだったのに。
「引っ込めっての! 今は私が話してるの!」
「仏様、何でそんな格好してるんですか?」
「いいから! 後で説明するから! 引っ込め!」
「え~、私も話したいですよ~」
「後にしろ、後に! ゴホン、さて福田君よ。君の……」
「何の騒ぎですか?」
「イイクラ~。このタイミングで出てくるなよ。今、良い所なんだよ」
「すみません。おや、福田さんではないですか。お久しぶりです」
混沌としてきたな。
俺に出来る事は何も無い。ただ、ぼ~っと空を見るのみだ。
「イイクラ、丁度良い。アサイを連れて帰ってくれ!」
「最初からそのつもりで来たんですよ。お前、この間の出張の時の領収書、アレは何だ?」
「えっ? ちゃんと全部出しましたよ?」
「みやげ物の領収書なんか却下に決まってるだろ!」
「そんな! 皆受け取ったじゃないですか!」
「受け取った受け取ってないは関係無い! 大体、そういう領収書の合計額が多すぎる。説明してもらうぞ」
「えっ? えっ? ちょっと待って? じゃあ使ったお金が返って来ないの?!」
「当たり前だ! 何で日帰りの出張で10万の領収書が出るんだ?! おかしいだろ!
さあ、経理に行って説明してもらうぞ!」
「えーーーーー!! た、助けて、福田君!!」
さようなら、アサイさん。
相変わらず、バカなんだね。
「ふ~~。静かになった。あっ、ルシファーもおとなしくしておいてよ?」
「了~解。俺は福田君に用事があるなら電話するから」
「助かる。さて福田君よ。君の覚えた『センス』だが……」
「お~い、仏~。昨日の飲み会は楽しかったな。あっ、これ立て替えてもらったお金」
「シヴァ! 今じゃなくても良いだろ!」
「えっ? 要らないの?」
「いや、要るけど! 返してもらうけど! 今大事な話してるの!」
「ん? 何だよコレ。何を吊るしてんの?」
「雲だよ! 作ったんだよ! あーー、引っ張るな!」
あっ、千切れた。
乱暴な人だな。ん? シヴァ?
シヴァって、あのシヴァ?




