勇者の相談
「あのですね、実は魔王退治に行くメンバーなんですが……」
「うんうん」
「つまりですね、周りの大人達なんですが……」
「うん、判ったから、早く話そうか」
「え~、ぶっちゃけて言えば、少し頭がおかしいんです」
「……まぁ、頭のおかしい神モドキを信じるくらいだからねぇ」
「そこで、自重しないけど、まともな大人の福田さんに同行して欲しいなぁと」
「発言にトゲがあるような気がするが……」
「気のせいですよ」
バカにされた気がするが、まぁ置いておこう。
それにしても、そんなにバカが多いのかな?
「えっと、その大人達は、どういう感じにバカなの?」
「本当に、ラノベに出てくるような神官とかって感じなんです!」
「あの手って多いじゃないか。どのタイプだよ?」
「上の立場の者ほど厚遇されているとか、偉そうにするヘタな指揮官とか」
「おおっ! テンプレだ!」
「俺達には媚を売るけど市民には厳しいとか、計画も立てずに突っ込んでいくとか」
「ラノベでの宗教のあるあるを聞いてるみたいだ」
「今日なんて、近くの村にハーピーが襲撃してきたのに無視ですよ!」
あらっ。ちゃんとそっちに行ったのね。
襲撃されたのは俺のせいではないよ? 魔王が悪いんだからね?
「大事の前の小事なんだと思ってるんじゃないの?」
「でも、魔王が居る森から飛んできて、また森に帰っていったそうなんですよ!
明らかに魔王の手下でしょ! そもそもモンスターはダンジョンから出られないはずですし!
魔王の軍勢なら倒すべきでしょ!」
「それは軍の全員が拒否したの?」
「いえ、兵士は倒しに行こうとしたみたいです。
それを軍の前の方に居た指揮官の一人が自分を守れと指示して、誰も倒しに行けなかったようです」
「あぁ、自分の命の方が大事だと」
「そういう事です!」
「な~るほどねぇ。ま、理由は判ったよ」
「じゃあ!」
「いや、行かないよ?」
「えっ?」
何で俺が行く必要があるのさ。
面倒、ゲフンゲフン、いや、問題があるだろ。
「俺がそっちに行ってもさ、指揮権がある訳じゃない。
なら、居ても居なくても変わらないぞ?」
「うっ!」
「それよりも良い方法を教えてあげようじゃないか」
「えっ?! そんな方法があるんですか?!」
きっと物欲まみれの指揮官だから、簡単だよ。
子供を騙すより簡単。
「エリクサーは持ってるね?」
「あっ、はい! 驚きました! ありがとうございます!」
「いやいや、良いんだよ。それよりも、それを水で割って10倍くらいに希釈したものを10個作るんだ」
「えっ? 水で薄めるんですか? 効き目は大丈夫なんでしょうか?」
「さぁ? そこは問題じゃないから。
で、そのままの物を小瓶にでも少量入れて、それも10個作って」
「は、はぁ。で、どうするんです?」
「それらを持って、指揮官に会うんだよ。
で、指でも軽く切って、小瓶のエリクサーで治る所を見せるんだ。
これは勇者の力で作りました、とか言えば良い。で、薄めた物をプレゼントしろ。
その時に、勇者直轄の兵を10~20人くらい貰え。くれないならエリクサーは渡すなよ?
まぁ、間違いなく貰えるとは思うけどな。
それを10回、違う指揮官の所に行って繰り返せ。
そうすれば、お前の指示を聞く兵が最低100人は出来るぞ」
「そう簡単に行きますかね?」
「大丈夫だ。あぁ、そうそう、エリクサーとは言わずに、何か適当な名前を付けろよ。
それと、10日でこの小瓶1つくらいしか作れないと言えよ」
「何でですか?」
「バカだから、量産しろって言ってくるからだよ。
沢山あるなら、売って儲けようって考えるかもしれないし。
作れるのが勇者だけとなると、色々と便宜を図ってくれるようになるはずだ。上手く使えよ。
名前は、バレたらマズいからだ」
「鑑定されたらどうします?」
「鑑定が間違ってるで通せ。で、信じないなら渡さないと言え」
「……本当に大丈夫ですか?」
自分の命が大事な指揮官なら、間違いなく乗ってくる。
物欲まみれでも乗ってくる。
本当に真面目な指揮官なら返してくるだろ。
「大丈夫だ。ついでに良い指揮官と悪い指揮官の見分けもつくようになるぞ」
「どうやって?」
「受け取らないのが良い指揮官だ。じゃあ、頑張れよ」
「ありがとうございました。やってみます」
「おう。どうだったか、後でメールでも送ってくれ」
これで少しは勇者の思うようになるんじゃないかな?
頑張れ! 俺は昆布狩りを頑張るよ!




